【第2章 第2話】 エルフの常識、論理の非常識
母の魔法レッスンは、理屈ではなく「感覚」に頼るものだった。
主人公は、その無意識の才能の中に「無駄なマナの流れ」を見つけ、世界の論理を理解しようと書斎の本を読み解く。
彼が図から導き出した最適解は、やがて異種族の学者を驚愕させることになる
あれから1ヶ月。
僕は今、母の魔法レッスンを受けてる。
「はい、じゃあ手をこう向けて……マナを感じて……」
母が手本を見せる。光球がぽわん、と浮かぶ。
「感じるの。ここから、ここへ……流れを感じて」
母の説明は全部「感じて」だ。
(いや、感じるって何?)
僕は内心でツッコむ。
感覚的すぎて、理解できない。
「ん……まま」
「どうしたの?」
「どうやって、ながれる?」
「えっと……自然に?」
「しぜんって?」
「……」
母が困った顔をする。
「お母さんも、自然にできちゃうから……どう説明していいか」
(それ、説明になってない!)
でも、母は優しいから怒れない。
僕は自分で光球を出してみる。
ポン。
青い光球。
「すごいわ! じゃあ、これをもっと明るく——」
「まま、まって」
僕は光球を見つめる。
(この光球、マナの消費が多すぎる)
母の光球と比べると、明らかに無駄がある。
マナの流れが乱れてる。効率が悪い。
「まま、このまほう、むだおおい」
母の笑顔が止まった。
「……え?」
しまった。
言い方が悪かった。
「ち、ちがう! あのね!」
僕は慌てて床に図を描こうとする。
指で空中に線を引く——が、曲がる。
(くそ、1歳児の手、細かい作業できない!)
「ここ、ながれが、まがって……」
「……」
母が黙ってる。
その表情が、少し悲しそう。
(やばい、傷つけちゃった!)
僕は慌てて母に抱きつく。
「まま、ごめんね! まま、すごい! ぼく、まちがえた!」
「……ふふっ」
母が笑った。
「大丈夫よ。お母さん、魔法は感覚派だから」
「かんかくは?」
「理屈じゃなくて、感じるままに使うってこと」
(感覚派か……)
つまり、母は天才肌だ。
理論を考えずに、直感で魔法を使える。
それはそれですごい。
でも、僕は理論派だ。
構造を理解しないと気持ち悪い。
「まま、りろん、おしえて」
「理論? えっと……お父さんの書斎に本があるわよ」
「ほん!」
僕は目を輝かせる。
「でも、まだ字が難しいかも」
「だいじょうぶ!」
書斎での独学
父の書斎は本だらけ。
魔法理論、航海術、交易法規——色々ある。
僕は魔法理論の本を引っ張り出す。
重い。
「うぐ……」
母が手伝ってくれる。
「これ、難しいわよ?」
ページを開く。
文字がびっしり。
でも、図がある。
(これだ!)
マナの流れを示す図。
確率分布の模式図。
魔法陣の構造。
文字は読めないけど、図は理解できる。
「すごい……」
僕は図を指差す。
「まま、これ!」
「え? わかるの?」
「うん! ここ、ながれて、ここ、とまって……」
母が驚いた顔で僕を見る。
「……あなた、本当に1歳?」
「うん」
「図、理解してるの?」
「うん」
母が深いため息をついた。
「お母さん、その図、意味わからないのに」
アリエルの訪問
その日の午後。
玄関のベルが鳴る。
「こんにちは。アリエル・シルヴァです」
来客は、エルフの少女——アリエルさんだ。
銀色の髪、エメラルドの瞳、尖った耳。
エルフ特有の優雅さがある。
「お久しぶりです、エリス様」
「アリエルさん、いらっしゃい」
母がリビングに案内する。
アリエルさんは僕を見て、微笑んだ。
「こんにちは。お元気そうね」
「こんにちは」
僕は丁寧にお辞儀する。
「おぎょうぎ、いい」
「あら、言葉が増えてる」
「はい。最近、よく話すようになって」
母がお茶を用意する間、アリエルさんは僕の隣に座る。
「今日は、成長記録の確認に来たの。魔法は練習してる?」
「うん」
「どんな練習?」
「ひかりだま」
「光球ね。色は変えられる?」
「うん」
僕は手のひらに光球を出す。
青、緑、赤、紫——くるくる変わる。
「すごいわ。制御が安定してる」
アリエルさんが測定器を取り出す。
「ちょっと測らせてね」
センサーが僕の手に反応する。
「……確率深度、0.27」
「え? 前は0.25でしたよね?」
母が驚く。
「ええ。1ヶ月で0.02上昇。これは……異常な成長速度ね」
(やっぱり、訓練で伸びるんだ)
僕は内心でガッツポーズ。
「あの、アリエルさん」
母が言う。
「この子、魔法理論の本の図を見て、理解してるみたいなんです」
「図を?」
「はい。マナの流れとか、確率分布とか」
アリエルさんが僕を見る。
その目が真剣になった。
「……本当に?」
「うん」
僕は頷く。
「じゃあ、試してもいい?」
アリエルさんが羊皮紙を取り出す。
魔法陣を描き始める。
複雑な図形。
「これ、何の魔法陣かわかる?」
僕は図を見る。
(これは……火球の術式だ)
中心から外に向かうマナの流れ。
温度上昇のトリガー。
着火点の設定。
「ひ……かえん?」
「そう! 火球の術式よ」
アリエルさんが驚く。
「じゃあ、ここは?」
彼女が術式の一部を指す。
「……ながれ、まがってる」
「え?」
「ここ、まっすぐが、いい」
僕は指で修正線を引く。
アリエルさんが固まった。
「……これ、最適化?」
「?」
「あなた、今、この術式を改善したの」
「え……だめ、だった?」
「だめじゃない! むしろ、すごい!」
アリエルさんが羊皮紙を見つめる。
「これ、魔法工学の博士論文レベルよ」
「はくし?」
「すごく賢い人、ってこと」
母が呆然としてる。
「あの……この子、何者なんでしょう?」
「わかりません。でも」
アリエルさんが僕を見る。
「この子は、論理的に魔法を理解してる。感覚じゃなくて、理論で」
「理論……」
「普通、エルフでも10年かけて学ぶことを、この子は直感で理解してる」
「……」
母が僕を抱きしめた。
「すごいけど……怖いわ」
「大丈夫です」
アリエルさんが優しく微笑む。
「私が、理論教育を担当します」
「え?」
「この子には、感覚的な教育じゃなくて、論理的な教育が必要です。私なら教えられます」
母が僕を見る。
「……あなた、アリエルさんに教わりたい?」
「うん!」
僕は即答。
理論を学べるなんて、願ったり叶ったりだ。
「じゃあ、週に一度、訪問します」
「ありがとうございます」
母が頭を下げる。
アリエルさんが僕に向き直る。
「じゃあ、最初の宿題」
「しゅくだい?」
「光球の効率を、今より10%上げること」
「……えっと、10%って?」
「マナの消費を、今より少なくするの」
(効率化か!)
僕は目を輝かせる。
「がんばる!」
「ふふっ。楽しみにしてるわ」
その夜
寝る前、母が本を読んでくれる。
「今日、楽しかった?」
「うん!」
「アリエルさん、すごい人なのよ。エルフの魔法学者で」
「まなぶ、たのしい」
「そうね。あなた、勉強好きなのね」
「うん」
母が僕の頭を撫でる。
「でも、無理しちゃだめよ」
「むり、しない」
「約束ね」
「やくそく」
母が部屋を出る。
僕は天井を見上げる。
(効率化、か)
光球の構造を頭の中で分解する。
マナの集束——ここが無駄。
確率操作——ここも無駄。
安定化——これは必要。
(よし、明日から実験だ)
眠る前、僕は思う。
(この世界、面白すぎる)
エピローグ
同じ夜、エルフ領域。
アリエルは報告書を書いていた。
「該当個体、論理的魔法理解を確認」
「術式の最適化能力、博士課程レベル」
「推奨:理論教育の開始」
彼女はペンを置き、窓の外を見る。
月光が森を照らしている。
「あの子……何者なの?」
ふと、先輩のリーシャの言葉を思い出す。
『人間の常識を超えた個体。慎重に観察せよ』
「観察……ね」
アリエルは微笑んだ。
「でも、教えるのは楽しそう」
報告書を封印し、送信する。
遠くで、また誰かが——
僕のデータを、記録している。
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第2話 完
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論理で魔法を理解する主人公は、エルフの学者アリエルとの対話で「術式の最適化能力」を評価される。
そして、彼に課せられた最初の宿題は、自分の魔法に存在する無駄を徹底的に排除することだった。
最適化された選択は、次にどんな形で世界から返ってくるのか。
次回 第2章 第3話 バグ発生:火災と涙
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