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転生プログラマーが魔法をデバッグしたら、世界OSから監視される件 ―6歳幼児が異世界の仕様をハックし始めた  作者: プラナ
境界線の観測者 ―身分なき少女と、許可深度を超過した少年の2週間―
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【第1講:セラ先生の世界講座】レイが成長してるのに、 基礎に戻って見える理由

レイ

「先生、さっきから拍手しろとか、講座を始めるとか……ここ、どこなんですか?」


セラ

「見ての通り、教室だよ。本編が進むと、どうしても情報の解像度が追いつかなくなるから。今のうちに、少しだけ『仕様』に慣れておいてもらおうと思って」


レイ

「仕様って。俺、さっきまで宿の部屋で測定器の相談をしてたはずですけど」


セラ

「うん。大丈夫。時間は一秒も経ってないから、誰も困らないよ」

パン、パン、パン


「……え?」


乾いた拍手の音で目が覚める。


いや、寝ていたわけじゃない。


さっきまで宿の部屋でノートを開いて、測定器の改良案を考えていたはずだ。


なのに今、俺の目の前には黒板がある。


教室?


「よくいらっしゃいました」


声がした方を見ると、ちびキャラ化したセラフィナが、教壇の上で微笑んでいる。


いや、微笑んでいるように見えるだけで、目が笑っていない。


ぷにぷにの手に、何故か木の指示棒を握っている。


「……セラ?」


「今日から、こちらで定期講座を開くことにしました」


淡々と、そして有無を言わさぬ口調で告げられる。


「いや、聞いてないんだけど」


「通知は済んでいます」


「どこに?」


「概念的に」


概念的って何だよ…


俺が抗議しようとした瞬間、セラが指示棒で黒板を一度、ピシッ、と叩いた。


ぷにぷにの見た目に反して、音は鋭い。


なぜか背筋が凍る。


「……座ります」


「はい」


満足そうに頷くセラ。


目がしいたけみたいに点になっている。


俺は諦めて、目の前の椅子に腰を下ろした。


ちびキャラ化しているせいで、椅子が妙に大きい。


セラがチョークを取り、黒板に文字を書き始める。


筆跡は几帳面で、一画一画が正確だ。


【なぜ君は『弱くなった』ように見えるのか】


「……書き方ひどくない?」


俺は思わず声を上げた。


「オレが悪い前提じゃん、それ。俺、エゴサとかしてないけど、なんか耳が痛いんだけど!」


セラは振り返り、首を傾げる。


「そうですか?」


セラは黒板の隅に、簡単な図を描き始めた。


上に大きな円。


下に小さな円。


上の円には「管理者視点」、下の円には「人間視点」と書かれている。


「5章以前の君は、こちら側でした」


セラが上の円を指す。


「管理者側の基準で、世界を上から見ていました。魔法の構造も、世界の仕組みも、最適解が自動的に見えていた」


「うん……まあ、そうだな」


確かに、あの頃は迷いがなかった。


やるべきことが、見えていた。


セラが指示棒をピシッと振る。


そして、上の円の横に、ドクロマークを描き足した。


「ちょっ、後から描き足すな!」


「視覚的補助です」


真顔で答えるセラ。


「ですが」


セラが指示棒で管理者視点の円を叩く。


「そのまま続けていたら、君の脳は人間として焼き切れて、世界のプログラム——世界OSの一部になっていたかもしれませんよ」


「……は?」


背筋が凍る。


「ちょっと待て!」


「今は大丈夫です」


即答。


「今は?」


「今は」


セラがそこで言葉を切る。


不安を残したまま、次の説明へ移行する気だ。


「……怖いんだけど」


「管理者モードは、人間の脳が長期間運用するようには設計されていません。君は降りることで、生き残ったのです」


セラが下の円を指す。


「そして今の君は、こちら側です」


「人間基準。内部から世界を見ている」


「見える情報量が違います。判断コストが跳ね上がっています」


セラが黒板に、また文字を追加する。


「例えるなら」


セラが俺を見る。


「全マップ解放済みの無敵チート状態で遊んでいたゲームを、今日から初期装備・一死即消去のアイアンマンモードでプレイし始めたようなものです」


「……あ、もちろん攻略サイト——つまり私の助言も、閲覧制限付きですよ?」


「難易度跳ね上がりすぎだろ! 初見殺しで死ぬわ!」


「でも、生きていますよ」


セラが淡々と答える。


「それが答えです」


「……」


俺が何か言おうとした瞬間、セラが指示棒を軽く振る。


「質問は後で」


冷たい笑顔。


「……怖っ」


「できないのではありません」


セラが俺の言葉を遮る。


「違う見え方をしているだけです」


黒板に、大きく文字が書かれる。


【神視点 → 主観視点】


「空撮から徒歩に変わった」


「見える景色が変わる。当然、感じ方も変わる」


「それを弱くなったと誤解する人がいるだけです」


セラは淡々と続ける。


「君は何も失っていません。ただ、降りてきただけです」


「降りてきたって……登山じゃないんだから」


「比喩です」


「比喩にしても高すぎだろ、元いた場所!」


「でも」


俺は手を挙げた。


「二層円に感動したのは、確かに変じゃなかった? あんなの、前も知ってたはずなのに」


セラが頷く。


「良い質問です」


指示棒が黒板を叩く。


【知っている ≠ 分かっている】


「君は確かに、二層円を知っていました。管理者として、構造も原理も理解していた」


「うん」


「でも、体験はしていませんでした」


「……」


「例えるなら」


セラが黒板に簡単な絵を描く。


「攻略wikiで全ボスの情報を読んでいたけど、実際に戦ったことはなかった」


「今回、君は初めて人間として二層円を理解しました。手を動かし、失敗し、改良し、成功した」


セラが俺を見る。


「それは感動に値します。何も恥じることではありません」


「……そっか」


なんだか、少しだけ胸が軽くなった気がする。


「でも、それって結局オレが不便になっただけじゃ……」


「その不便が、君を人間にしているのです」


即答。


「……ぐぬぬ」


セラがチョークを置き、黒板の中央に大きく一文を書く。


【レイは戻っていない。降りてきただけです】


「……それ、ちょっとかっこよくない?」


俺は思わず言った。


セラが無表情で答える。


「事実です」


「いや、分かるけど」


「ああ、それと」


セラが指示棒を振る。


「クリアした時の達成感は、管理者モードの比ではありません」


「……それは、まあ」


「君は今、本当のゲームを始めたのです」


セラが微笑む。


「では、拍手をお願いします」


「え?」


「拍手です」


静かな圧。


俺は渋々、パチパチと手を叩いた。


「……はい、満足しました」


セラが微笑む。


目がまたしいたけになっている。


「本日の講座はこれで終了です。お疲れ様でした」


……


気がつくと、また宿の部屋に戻っていた。


ノートは開いたまま。


時間は一秒も経っていない。


「……何だったんだ、今の」


呟きながら、俺はノートに視線を戻す。


なぜか、さっきより測定器の改良案が、少しだけクリアに見える気がした。


さっきまで「これで合ってるのか?」と不安だった配置も、今は「これでいいんだ」と思える。


降りてきた、か。


悪くない。


いや、もしかして——


これからの方が、面白いのかもしれない。


俺はノートを見つめ、小さく呟いた。


「……今なら、もっといいのが作れそうだ」


-----

【第1講・終】

-----

次回予告(?)


セラ「次回は、管理者基準と人間基準は別物ですについて解説します」


レイ「それ、今回と何が違うの?」


セラ「全く違います。具体的に、何が見え方として変わったのか、詳しく説明しますよ」


レイ「……はい」


セラ「例えば、魔法陣の色。マナの感触。世界の質感。すべて変わっています」


レイ「……それ、聞きたいかも」


セラ「ああ、それと」


レイ「ん?」


セラ「君が7章で『あれ?』と思った瞬間、実は世界の見え方が変わっていた証拠なんですよ」


レイ「……あのシーンか!」


セラ「では、次回もお楽しみに」



レイ

「……先生、さっき『降りてきた』って言いましたよね。それって、もう元の場所(管理者側)には戻れないってことですか?」


セラ

「どうだろうね。でも、一度地面を歩く楽しさを知ると、空からの景色は、ただの記号に見えてしまうものだよ」


レイ

「……それ、怖くないですか?」


セラ

「そう?私は、今の君の方が『人間らしくて』観察しがいがあるけど」


レイ

「……」


(キーンコーンカーンコーン……)


セラ

「気になるなら、あとで見返せばいいよ」


レイ

「……はい」

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