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転生プログラマーが魔法をデバッグしたら、世界OSから監視される件 ―6歳幼児が異世界の仕様をハックし始めた  作者: プラナ
境界線の観測者 ―身分なき少女と、許可深度を超過した少年の2週間―
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【第7章 第1話】 静かな波紋

日常の裏側で、数値は嘘をつかない。

レイは、静かに上昇を続けるマナ濃度の「地点差」という小さな違和感に、抗いがたい知的好奇心を抱いた。

──それが、変容し始めた世界と向き合うための、最初の手がかりになると信じて。

朝の日常


レイは測定器を握りしめながら階段を降りた。


今日の数値はどうなってるかな。


昨日より上がってる? それとも横ばい?


居間からパンの焼ける匂い。


「おはよう、レイ」


母が振り返る。


「今日もパンとスープよ」


テーブルには二人分。


いつもより一つ多い。


「セラフィナは?」


「まだ部屋に。起こしてくる?」


「俺が行く」


階段を駆け上がる。


客間のドア。


ノックする。


「セラフィナ? 朝ごはんだよ」


「……はい。すぐ行きます」


少し待つ。


ドアが開く。


銀色の髪の少女。


母が用意した白いワンピースを着てる。


「おはよう」


「おはようございます」


丁寧に頭を下げる。


「そんなかしこまらなくていいって」


「でも……」


「いいから。ほら、朝ごはん冷めちゃう」


二人で階段を降りる。


セラフィナの足取りがまだ少し重い。


「大丈夫?」


「はい。少し、疲れやすいだけです」


居間に入る。


母が笑顔で迎える。


「セラフィナさん、おはよう。座って座って」


三人でテーブルに着く。


「いただきます」


スープが温かい。


セラフィナが少し飲んで、微笑む。


「……おいしいです」


「よかった。まだ体調、完全じゃないでしょう? 栄養つけないと」


「ありがとうございます。本当に、色々と……」


「気にしないで。レイの友達なら、家族みたいなものよ」


友達。


そう言っていいのか、レイもよく分からない。


でも、否定もできない。


「レイ、今日はどうするの?」


「港に行く。マナ濃度、測りたいから」


「観測?」


「うん。昨日より変わってるかな、って」


母が少し心配そうに。


「あまり無理しないでね」


「大丈夫」


レイは右手を見る。


動く。普通に。


でも、感覚が少し鈍い。


あの時みたいな完璧さはない。


あの完璧さは、セラが全部を使った、あの場所だけのものだった。


セラの力が俺の中を流れていた間だけ、繋がってた。


今は、その残滓で動いてる。


それでいい、と思う。


生きてるだけで十分なんだ。


「レイ」


セラフィナが小さく呼ぶ。


「また、観測に?」


「うん」


「……私も、行けたらいいのに」


「まだ無理だよ。体力ないし、それに……」


外に出るのは危険。


身分証もない。来歴も説明できない。


「分かってます。だから、せめて……気をつけて」


「うん。すぐ帰ってくる」


朝食が終わる。


セラフィナが立ち上がろうとする。


「お皿、片付けます」


「いいのよ、まだ休んでて」


母が優しく止める。


「レイ、部屋まで送ってあげて」


「分かった」


客間の前。


セラフィナが部屋に入る前に振り返る。


「レイ。……無事で」


「当たり前だよ」


微笑む。


「すぐ帰ってくる」


レイは自分の部屋に戻り、観測道具を準備する。


マナ測定器。


小さな魔法道具。Level1で動く簡単なもの。


でも、正確。


ノートも持つ。


「よし」


階段を降りる。


母が見送る。


「いってらっしゃい」


「いってきます」


玄関を出る。


ガルムが尻尾を振る。


「レイ様、セラフィナ様は必ずお守りします」


「ありがとう、頼んだよ」


家を出る。


朝の街。少し曇ってる。


風が涼しい。


港に向かう。


港の観測


石畳を歩く。


港が近づく。


潮の匂い。カモメの声。


いつもの風景。


でも、何か違う――


港に着く。


いつもの観測ポイント。岸壁の端。


人があまり来ない場所。


レイは測定器を取り出す。


水面に向ける。


マナを流す。Level1の魔法。


測定開始。


数値が表示される。


「……お、やっぱり」


ノートを開く。


前回の記録。


「1.18から……1.22」


上がってる。


1週間で0.04。約3.4%の増加。


「誤差じゃない。明らかに増えてる」


レイは水面を見る。


波が穏やか。


でも、何か違和感。


色が少し濁ってる?


しゃがみ込んで、水面に手を伸ばす。


触れてみる。


「……冷たい。いつもより」


ノートに書く。


「水温低下? 要確認」


「おい」


声がする。


振り返る。


漁師が二人、網を運んでる。


「今週も駄目だな」


「ああ。網にかかる魚が減った。昨日なんて半分以下だ」


「値段は変わらんのに。困ったもんだ」


二人が通り過ぎる。


レイはノートに書く。


「漁獲量減少」


「漁師の証言」


関係があるか?


マナ濃度と。


因果関係は?


まだ分からない。


でも、偶然じゃない気がする。


レイは立ち上がる。


荷揚げ場を見る。


魚が並んでる。


いつもより少ない。箱の数が。


「あそこも測ってみようかな」


荷揚げ場に近づく。


測定器を取り出す。


水面に向ける。


「……1.24」


さっきより高い。


「場所で違うのか……?」


面白い。


ノートに書く。


「地点差あり」


「荷揚げ場: 1.24」


「岸壁端: 1.22」


パターンがあるかもしれない。


もっと測りたい。


でも、時間が。


「レイ!」


声がする。


振り返る。


グレンだ。走ってくる。


「よ」


「グレン、久しぶり」


「一週間ぶりだな。調子どう?」


「まあまあ。そっちは?」


「俺も。最近、仕事少ないけどな」


グレンが港を見る。


「荷運びの依頼が減った。魚が少ないからな」


「そうなんだ……」


レイはノートに追記する。


「依頼減少」


グレンが覗き込む。


「何してんの?」


「観測。マナ濃度とか」


「へえ。俺にはよく分からんけど、大事なの?」


「多分。でも、まだ確信はない」


「そっか。まあ、頑張れよ。俺は仕事探すから」


「うん」


グレンが去る。手を振りながら。


レイは一人残る。


もう少し観察したい。


でも、データが足りない。


帰ろう。


ギルドに寄ってから。


ギルド訪問


ギルドに着く。


いつもの石造りの建物。


扉を開ける。


中は静か。冒険者が数人、依頼板を見てる。


受付にロナンがいる。


「あ、レイ」


気づいて手を振る。


「よ」


レイがカウンターに近づく。


「調子どう?」


「まあまあ」


「そっか。そういえば、報告書は?」


「あ……まだです」


「まだ? もう一週間経つけど」


「すみません。整理中で……」


「そっか。まあ、14日以内だから焦らなくていいよ。でも、あんまり遅くならないようにね」


「はい」


14日以内。


あと7日。


ロナンが覗き込む。


「ダンジョン、どうだった?」


「……複雑でした」


「複雑?」


「はい。色々あって、まだまとめられてないんです」


「そっか。まあ、無理しなくていいよ。10歳だしな。でも、報告は必要だから、できる範囲でいい」


「分かりました」


「じゃあ、またね」


「うん」


ギルドを出る。


外の光が眩しい。


報告書か。


セラフィナのこと、どう書けばいいんだろう。


帰宅と内省


家に着く。


「ただいま」


「おかえり」


母の声。


ガルムが駆け寄る。


「レイ様、お帰りなさい」


「ただいま。セラフィナは?」


「部屋におられます」


「そっか」


階段を上がる。


自分の部屋に入る。


机にノートを広げる。


観測データ。


マナ濃度: 1.22(岸壁)、1.24(荷揚げ場)


漁獲量減少。


依頼減少。


全部、繋がってる?


ノックの音。


「はい」


ドアが開く。


セラフィナだ。


「邪魔ですか?」


「ううん、入って」


セラフィナが椅子に座る。


少し疲れた様子。


「大丈夫?」


「はい。少し、休んでました」


「……あの時のこと、聞いていいか」


「あの時?」


「骨。触れたら、記憶が流れ込んできた」


セラフィナが少し目を伏せる。


「封印は、あなたが記憶を探しに行くことへの蓋です。能動的な使用を止める」


「でも、相手から流れ込んでくるものは——」


「止められません。あれは副作用です。封印の範囲外」


「……そうか」


「責任は私にあります。封印の設計上の限界で——」


「いいよ」


レイが首を振る。


「止められなかったなら、それでいい」


セラフィナが少し表情をほぐした。


レイはノートを見せる。


「マナ濃度、上がってる。しかも場所で違うんだ」


セラフィナがノートを見る。


「……やはり」


「やはり? 知ってたの?」


「予想はしてました。ダンジョンの影響が、まだ残ってるかもしれないと」


「そっか」


レイは港のことも話す。


漁獲量のこと。漁師の声。グレンの話。


セラフィナが聞く。真剣に。


「……関係があるかもしれません」


「やっぱり」


「でも」


セラフィナが少し考え込む。


「レイ、この数値の差……もしかして、ダンジョンからの距離で変わってる?」


「!」


レイは地図を思い浮かべる。


荷揚げ場は、ダンジョンに近い。


岸壁の端は、遠い。


「それだ!」


セラフィナが微笑む。


「明日、もっと測ってみたら? 距離と数値の関係が分かるかも」


「うん! あと、水も採取したい。家で調べられるかもしれない」


「私も手伝います。水の分析なら、部屋でもできます」


「本当?」


「はい。私にもできることが、あるかもしれません」


レイが笑う。


「じゃあ、明日。二人で調べよう」


「はい」


セラフィナが立ち上がる。


「じゃあ、休んでね」


「はい。レイも」


ドアが閉まる。


レイはノートを見る。


明日の計画を書く。


「複数地点測定」


「水採取」


「距離との相関確認」


やることがたくさんある。


面白くなってきた。


予感


夜になる。


窓の外、星が見える。


いつもと同じ夜空。


でも、何かが違う。


レイは観測データを見る。


1.18から1.22。


微増。


でも、確実に。


このままでは駄目だ。


でも、何をすればいいか――


ノートを開く。


明日の計画が書いてある。


セラフィナと二人で調べる。


距離との関係。


水の分析。


きっと、何か分かる。


「よし」


ノートを閉じる。


窓を閉める。


部屋の灯りを消す。


ベッドに入る。


明日が楽しみだ。


何が見つかるかな。


帰還から一週間。


新しい日常は、静かに始まった。


でも、その静けさの下で、


何かが少しずつ変わり始めている。


レイは気づいている。


数字が示している。


そして、セラフィナと一緒なら、


きっと答えが見つかる。


次の一歩を、二人で踏み出せる。

-----

第7章 第1話 完

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微増し続ける数値と、港に漂う静かな異変。

独りではただの「データ」だったものが、セラフィナという視点を得て、確かな「仮説」へと姿を変えた。


次にレイは、何を“確かめにいく”のか。


よろしければ、

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