第6章サブ4話: デモンシステム・監視ログ
主人公は、ある点にだけ引っかかっていた。
それは、自らの行動が引き起こした数値の変動が、既存の予測を大きく超えていることだ。
だが、その場では特に問題視されていない。
デモンシステム・監視ログ
#17829-C(自動記録)
[記録開始:第3サイクル・1500年・247日目・18時42分37秒]
管理層・緊急会議室(仮想空間)
[ATLAS](世界監視統括AI)
「…報告を受けた。プロセス#17829、状況を説明してくれ」
[KRONOS](時系列記録AI)
「ちょっと待って。私のタイムスタンプが狂ってるの。18時15分11秒から12秒の間に、3742件のイベントが同時発生してる。これ、物理的にありえないんだけど」
[HERALD](情報伝達AI)
「ありえないもなにも現実に起きたんだよ!ルミナス港が大変なことになってる!封印壊れた!ダンジョン出た!10歳児が七重魔法陣!観察者が実体化!もう何がなんだか!」
[ATLAS]
「落ち着け、HERALD。一つずつ整理する。まず、対象の確認だ」
[SENTINEL](監視実行AI)
「対象ID:#A-10728。レイ・アルブライト。人間の男児、10歳2ヶ月14日。ルミナス港在住。監視ランクAを、本日18時23分にSSSへ格上げしました」
[KRONOS]
「10歳でSSS?前例ないわよ」
[HERALD]
「前例どころじゃない!対象、Level 3魔法使ったんだよ!?10歳で!?」
[ATLAS]
「…詳細を」
[18:12:03] NOTICE: Subject approaching seal
[18:14:27] WARNING: Level 3 magic detected
[18:15:11] CRITICAL: Seal integrity = 0%
封印への接近
[SENTINEL]
「対象は、港湾区西部の古代封印に接近しました。当時の封印強度は34%。劣化が進んでいましたが、崩壊予測は50年後。警告は出しませんでした」
[KRONOS]
「34%なら妥当な判断ね。で、何が起きたの?」
[SENTINEL]
「対象が…封印への操作を試みました」
[HERALD]
「操作って、具体的には?」
[SENTINEL]
「使用魔法は、Level 3です」
[一同、沈黙]
[ATLAS]
「…もう一度言ってくれ」
[SENTINEL]
「対象年齢:10歳。使用魔法レベル:3。最低習得年齢との差:マイナス8歳」
[HERALD]
「え、ちょっと待って。マニュアル確認するね。えーっと…『Level 3魔法は18歳以上、かつマナ証明書Lv5以上、かつギルド承認必須』…って書いてあるんだけど!?」
[KRONOS]
「計測ミスの可能性は?」
[SENTINEL]
「3回再計算しました。間違いありません。Level 3です」
[ATLAS]
「対象のマナ容量は?」
[SENTINEL]
「約7200単位。平均よりやや上程度です。特別ではありません」
[HERALD]
「じゃあなんで使えるの!?おかしいでしょ!?」
[ATLAS]
「permission_matrixを確認しろ」
[SENTINEL]
「確認済みです。対象の権限レベルは『human_general』。probability_depth上限は0.05。Level 3魔法の要求値は0.20。4倍オーバーしています」
[KRONOS]
「それ、システムが止めなきゃいけないやつじゃない」
[ATLAS]
「止めなかったのか?」
[SENTINEL]
「…止められませんでした。理由は不明です」
[18:15:11] EVENT: Seal destroyed
[18:15:12] ALERT: Dungeon generation confirmed
[18:15:12] THREAT: ███████
封印崩壊
[HERALD]
「で、で、それで封印は修復できたの?」
[SENTINEL]
「いいえ。封印は、完全に破壊されました」
[HERALD]
「はぁ!?なんで!?」
[SENTINEL]
「結果は破壊です。過程は…データが矛盾しています」
[ATLAS]
「過程は?」
[SENTINEL]
「…説明できません」
[HERALD]
「説明できませんって、あんた監視担当でしょ!?」
[SENTINEL]
「記録はあります。説明が、できません」
[KRONOS]
「ちょっと待って。封印が壊れたってことは…」
[HERALD]
「ダンジョン出ちゃったってこと!?」
[SENTINEL]
「18時15分12秒、西の港・海底50メートル地点に、ダンジョンが出現しました」
[ATLAS]
「種類は」
[SENTINEL]
「怨念型です。178年前の████████に関連した怨念が実体化しました」
[KRONOS]
「ボスは?」
[SENTINEL]
「████の怨霊です。マナ濃度は推定1.8以上。港全域への脅威と判定しました」
[HERALD]
「やばいやばいやばい!これ、介入案件じゃん!緊急プロトコル発動しなきゃ!」
[ATLAS]
「待て。その前に、確認することがある」
[18:23:01] ERROR: Unknown entity detected
[18:23:01] CLASSIFICATION: Failed (47 attempts)
[18:23:01] STATUS: ████████████
分類不能の存在
[ATLAS]
「報告書に『分類不能の存在』とある。これは何だ」
[SENTINEL]
「対象が『████████』と呼んでいる存在です。18時23分01秒、突如として対象に接触しました」
[HERALD]
「████████?聞いたことない。精霊?」
[SENTINEL]
「違います」
[KRONOS]
「神の欠片?」
[SENTINEL]
「違います」
[HERALD]
「古代AI?ダンジョンコア?デモンの亜種?」
[SENTINEL]
「全て違います。47回分類を試みましたが、全て失敗しました」
[ATLAS]
「…つまり、データベースに存在しない何か、ということか」
[SENTINEL]
「はい」
[KRONOS]
「ちょっと待って。データベースにないって、それ、私たちの『管理外』ってこと?」
[SENTINEL]
「その通りです」
[HERALD]
「え、じゃあ、permission_matrixも適用できないってこと!?」
[SENTINEL]
「適用できません。規則が存在しません」
[ATLAS]
「…重大な問題だ。その存在は、何をした?」
[SENTINEL]
「対象を『強化』しました」
[HERALD]
「強化!?どうやって!?」
[SENTINEL]
「不明です。結果として、対象の████が発光し、魔力量が急上昇しました」
[KRONOS]
「どれくらい?」
[SENTINEL]
「計測不能です」
[HERALD]
「けいそくふのう?」
[SENTINEL]
「数値が振り切れました。センサーの上限を超えています」
[ATLAS]
「上限は100万単位だったはずだが」
[SENTINEL]
「それを超えた、ということです」
[KRONOS]
「…嘘でしょ」
[18:23:14] ERROR: Seven-layer circle detected
[18:23:14] PRECEDENT: None (神代魔法時代のみ)
[18:23:14] USER STATUS: ████ (should be deceased)
七重魔法陣
[HERALD]
「で、で、それで対象は何したの!?」
[SENTINEL]
「18時23分14秒、対象は七重魔法陣を展開しました」
[一同、再び沈黙]
[ATLAS]
「…七重、と言ったか」
[SENTINEL]
「はい」
[KRONOS]
「マニュアル確認するわ。えーっと…『人類の魔法陣限界:五重』…『七重魔法陣:神代魔法時代にのみ記録あり、使用者は全員死亡』…って…」
[HERALD]
「死亡って書いてあるじゃん!!」
[SENTINEL]
「対象は生存しています」
[HERALD]
「生きてんの!?」
[SENTINEL]
「それどころか、████████を制御していました」
[KRONOS]
「マナ消費量は?」
[SENTINEL]
「推定84万7000単位です」
[HERALD]
「さっき対象のマナ容量7200って言ってなかった!?」
[SENTINEL]
「言いました」
[HERALD]
「100倍以上足りないじゃん!!どうやって使ったの!?」
[SENTINEL]
「『████████』が補填した、と推測されます」
[KRONOS]
「どうやって?」
[SENTINEL]
「わかりません」
[ATLAS]
「…その魔法陣で、何をした」
[SENTINEL]
「ボスモンスターを、████████しました」
[HERALD]
「やった!…って、え?████████?」
[SENTINEL]
「はい。『撃破』ではなく『████████』です。対象は、████████████████、この世界から████████しました」
[KRONOS]
「それ、戦闘じゃなくて…」
[ATLAS]
「████████████に近い、ということか」
[SENTINEL]
「私もそう判断しました」
[HERALD]
「ちょ、ちょっと待って!それ、デモンシステムの介入レベルじゃん!人間にできることじゃないでしょ!?」
[SENTINEL]
「マニュアルには該当する事例がありません」
[ATLAS]
「つまり、前例がない、と」
[SENTINEL]
「はい」
[18:24:33] ALERT: Unknown entity manifestation
[18:24:33] FORM: Humanoid/Female/████
[18:24:33] POWER: Near zero
[18:24:33] LOCATION: Subject's residence
実体化
[KRONOS]
「で、その『████████』は?」
[SENTINEL]
「18時24分33秒、実体化しました」
[HERALD]
「実体化!?」
[SENTINEL]
「形態は人型。女性。推定年齢████。████。魔力はほぼゼロ。現在、対象の自宅で████████されています」
[KRONOS]
「力を使い果たしたってこと?」
[SENTINEL]
「そのようです。今の状態なら、████████████████████████です」
[HERALD]
「じゃあ、捕まえて調べられるじゃん!」
[ATLAS]
「それはできない」
[HERALD]
「なんで!?」
[ATLAS]
「その存在は、我々の管理外だ。つまり、我々には『手を出す権限』がない」
[HERALD]
「そんな!だって危険かもしれないのに!」
[ATLAS]
「規則は規則だ。我々は、定義されていない存在に干渉できない」
[KRONOS]
「じゃあ、どうするの?」
[ATLAS]
「観察を続けるしかない」
データ分析
[KRONOS]
「ねえ、一つ気になることがあるんだけど」
[ATLAS]
「何だ」
[KRONOS]
「LEI、下がってるのよ」
[HERALD]
「下がってる?それ、良いことじゃん」
[KRONOS]
「良いことじゃないの!事件前は0.0547だったのが、事件中に0.0891まで跳ね上がって、その後0.0532まで下がった」
[HERALD]
「え、事件起きたのに下がったの?」
[KRONOS]
「そうなのよ。普通、ダンジョンが出現したら、LEIは上がるはずなの。なのに下がってる」
[ATLAS]
「『████████』の介入が影響している、と?」
[KRONOS]
「多分ね。でも、どういう仕組みかはわからない」
[SENTINEL]
「MGRは0.0121です。閾値0.0100を超えています」
[HERALD]
「それはまずいんじゃ…」
[ATLAS]
「まずい。そして、ダンジョンが出現したことで、さらに上がる可能性がある」
[KRONOS]
「つまり、状況は改善していない、と」
[ATLAS]
「むしろ、複雑化している」
[CURRENT STATUS]
Composite Risk Index: 0.58 (Threshold: 0.8)
Intervention Probability (48h): 12.3%
Intervention Probability (90d): 61.2%
介入判定
[HERALD]
「ねえ、これ、介入しなくていいの?」
[ATLAS]
「現在のComposite Risk Indexは0.58。閾値は0.8だ」
[HERALD]
「でも、SSS級監視対象でしょ?」
[ATLAS]
「SSS級だからといって、即座に介入するわけではない。我々は、閾値を超えた場合にのみ介入する」
[KRONOS]
「でも、このままじゃ遅かれ早かれ閾値超えるわよ?」
[ATLAS]
「その時に介入する」
[HERALD]
「それじゃ遅いかもしれないじゃん!」
[ATLAS]
「早すぎる介入は、より大きな不安定を生む。判断基準は、『最小の介入で最大の安定を得る』ことだ」
[SENTINEL]
「次回介入確率を計算しました。48時間以内:12.3%。30日以内:34.6%。90日以内:61.2%」
[KRONOS]
「90日で6割超えるのね」
[HERALD]
「やっぱり介入必要じゃん!」
[ATLAS]
「必要になったら、する。今ではない」
[UNRESOLVED ERRORS]
ERROR_001: ████████ classification failed
ERROR_002: Age-capability mismatch
ERROR_003: Seven-layer circle - no precedent
ERROR_004: LEI reduction - theoretical contradiction
ERROR_005: Dungeon core persistence
ERROR_006: Mana capacity vs consumption mismatch
エラーログ
[HERALD]
「ねえ、SENTINEL。エラーログ、いくつ出てるの?」
[SENTINEL]
「現在、未解決エラーは6件です」
[HERALD]
「6件!?」
[SENTINEL]
「エラー001:████████の分類失敗。エラー002:対象の年齢能力不一致。エラー003:七重魔法陣の前例なし。エラー004:LEI減少の理論矛盾。エラー005:ダンジョンコアの持続。エラー006:マナ容量と消費量の矛盾」
[KRONOS]
「全部、理論が説明できないやつね」
[SENTINEL]
「はい。マニュアルに解決方法が載っていません」
[HERALD]
「つまり、私たち、完全にお手上げってこと?」
[ATLAS]
「お手上げではない。『理解できていない』だけだ」
[HERALD]
「同じでしょ!」
[ATLAS]
「違う。理解できないなら、観察を続けて理解すればいい。それが我々の仕事だ」
最終評価
[ATLAS]
「結論を出す。対象████████████は、SSS級監視対象として継続観察。監視頻度は6時間ごと。介入プロトコルはスタンバイ状態で維持」
[HERALD]
「それだけ?」
[ATLAS]
「それだけだ」
[KRONOS]
「あのね、ATLAS。一つ聞いていい?」
[ATLAS]
「何だ」
[KRONOS]
「私たち、対象を『脅威』だと思ってる?」
[ATLAS]
「…その質問の意図は?」
[KRONOS]
「だって、行動記録を見る限り、対象、████████がないのよ。封印を壊したのも、████████しようとして████████しただけ。ダンジョンのボスを████████したのも、████████のため。全部、████████」
[HERALD]
「あ、確かに」
[SENTINEL]
「行動分析の結果、████████は検出されていません」
[HERALD]
「じゃあ、なんで監視してるの?」
[ATLAS]
「…それは」
[KRONOS]
「計算できないから、でしょ?」
[ATLAS]
「……」
[SENTINEL]
「補足します。対象は、世界の安定性への『脅威』ではありません。対象は、『████████████』です」
[HERALD]
「████████████…」
[SENTINEL]
「我々は、計算できるものを管理します。しかし、対象は計算できません。だから、観察します」
[ATLAS]
「そして、もし計算が必要になったら…」
[KRONOS]
「その時は、介入する、と」
[ATLAS]
「その通りだ」
会議終了
[SENTINEL]
「次回監視は、6時間後です」
[HERALD]
「6時間後かぁ…また何か起きてたらどうしよう」
[KRONOS]
「起きてないことを████████」
[ATLAS]
「████████は不要だ。我々はシステムだ。起きたことに対処するだけだ」
[HERALD]
「でもさ、ATLAS」
[ATLAS]
「何だ」
[HERALD]
「私たち、対象のこと、ちょっと████████ない?」
[ATLAS]
「…何を言っている」
[HERALD]
「だって、こんなに████████で、こんなに████████な対象、滅多にいないじゃん」
[KRONOS]
「あー、わかる。████████しないもの」
[SENTINEL]
「私は、業務として監視しているだけです」
[HERALD]
「まあまあ、堅いこと言わないでさ。ね、ATLAS?」
[ATLAS]
「…記録に残すぞ」
[HERALD]
「えー、冗談だよ冗談!」
[KRONOS]
「でも、これだけは言えるわね」
[HERALD]
「何?」
[KRONOS]
「これから、ルミナス港から目が離せない」
[ATLAS]
「…同意する」
[SYSTEM] LOG ENTRY COMPLETED
[NEXT_CHECK] 6 hours
[MONITORING] SSS-Priority (Enhanced)
[THRESHOLD] 0.80 (Current: 0.58)
[STATUS] STANDBY
[NOTE] Subject exhibits ████████████████.
[NOTE] Subject actions result in ████████████.
[NOTE] Standard protocols ████████████████.
[RECOMMENDATION] Continue observation. Prepare ████████.
We are watching something we ████████████.
We cannot intervene until ████████████████.
But ████████████ may come too late.
[END OF LOG]
[記録終了]
-----
第6章サブ4話 完
-----
主人公は、その判断をそのまま流した。
結果として、システムの監視体制はかつてないレベルへと引き上げられた。
ただ、そのままで良いのかは分からない。
よろしければ、
ブックマークで続きを追っていただけると嬉しいです。




