第6章 サブ第2話 港湾労働者たちの井戸端会議・断片録音
主人公は、ある点にだけ引っかかっていた。
それは、街の人々の視線が以前とはわずかに異なっていることだ。
だが、その場では特に問題視されていない。
港湾労働者たちの井戸端会議・断片録音(改訂版)
録音日時: Cycle3_year1500 / 帰郷8日目~14日目
録音場所: ルミナス港・酒場『波止場亭』および港湾区市場
録音者: [記録なし]
音質: 不明瞭・環境音多数・断片的
警告: 本録音には未確認情報が多数含まれる
【8日目・午後】酒場『波止場亭』
話者A:
……見たんだって。銀色の――
話者B:
はいはい、また酔っ払いの――
話者A:
違う! 空が割れた。本当に。
[ジョッキの音・ガヤガヤ]
話者C:
ギルドが走ってたわよね。血相変えて。
話者A:
あと……何か、小さいのが。
話者B:
小さいの?
話者A:
……子供、かな。銀髪の。
[沈黙:5秒]
話者B:
……アルブライトの。
【9日目・早朝】港湾区市場
話者D:
聞いた聞いた?
話者E:
何を。
話者D:
海に穴。
話者E:
……は?
話者D:
ダンジョンだって。冒険者が言ってた。
話者E:
ダンジョンって……
話者D:
で、《それ》を開けたのが――
[録音不明瞭:5秒]
話者E:
……子供?
話者D:
アルブライトの。
【10日目・昼】船着場
話者F:
見たぞ。
話者G:
何を?
話者F:
あの少年。右手がおかしい。
話者G:
おかしいって?
話者F:
動かない。いや、動いてるけど……人形みたいに。
[沈黙:8秒]
話者G:
……もしかして。
話者F:
ああ。あれで魔物を。
【11日目・夕方】酒場『波止場亭』
話者H:
噂を聞いたんだ
話者I:
何だ。
話者H:
あの子、素手で殺したらしい。
話者I:
素手?
話者H:
巨大な化け物を。海の中で。
話者I:
……嘘だろ。
話者H:
嘘じゃない。右手が光ったって。
話者J:
右手?
話者H:
銀色の。で、一撃。
[沈黙:10秒]
話者J:
……触られると、過去が見えるんだって。
話者I:
何それ。
話者J:
知らない。でも、そういう噂。
話者H:
あの右手……普通じゃない。
【12日目・朝】港湾区市場
話者K:
あそこ。
話者L:
……歩いてる。普通に。
話者K:
普通……?
話者L:
いや、でも。
話者K:
右手。
話者L:
……ぎこちない。
話者K:
壊れてる?
話者L:
分からない。でも……
[沈黙:15秒]
話者K:
近づきたくないな。
話者L:
……俺も。
【13日目・夜】酒場『波止場亭』
話者M(冒険者):
……聞いてくれ。
話者N:
どうした。
話者M:
見た。魔法陣。
話者N:
魔法陣?
話者M:
《何層も重なった円》が。空に。
話者O:
……何層?
話者M:
分からない。五重? 七重? もっと?
話者N:
それ……
話者M:
ああ。あんなの、子供が使えるはずない。
話者O:
じゃあ、何だったの?
話者M:
知らん。でも……光が降ってきた。海に。
話者N:
それで?
話者M:
海が……[録音不明瞭]
話者O:
……は?
話者M:
凍った。一瞬で。
[沈黙:20秒]
話者N:
……あの子、何なの?
話者M:
人間じゃない。
【14日目・早朝】港湾区市場
話者P:
大変よ
話者Q:
何?
話者P:
あの子、《悪魔》と契約してるって。
話者Q:
……悪魔?
話者P:
右手がその証拠。
話者Q:
でも……
話者P:
何?
話者Q:
悪魔と契約した人間って、もっとこう……
話者P:
知らないわよ。でも噂じゃそう。
[沈黙:3秒]
話者Q:
……明日も来るのかしら。
話者P:
来るでしょうね。いつも通り。
話者Q:
来たら……
話者P:
どうしようもないでしょ。
【14日目・昼】船着場
話者R:
噂、止まらないぞ。
話者S:
何の?
話者R:
【海鳴りの子】だの、【銀の悪魔】だの。
話者T:
……ひどい。
話者R:
ひどいかもな。でも、みんな怖がってる。
話者S:
何を?
話者R:
あの子を。
[沈黙:25秒]
話者T:
でも……港を救ったんでしょ?
話者R:
救った? 壊した? 誰も分からない。
話者S:
分からない……
話者R:
だから怖い。
話者T:
……そうね。
話者R:
だから、みんな距離を置く。
話者S:
距離?
話者R:
近づかない。話しかけない。見ない。
[沈黙:30秒]
話者S:
……明日も来るのかな。
話者R:
来るだろう。
話者S:
来たら……
話者R:
分からない。
話者T:
私も。
【14日目・深夜】録音場所不明
[環境音:波の音・遠くの鐘]
話者α:
……見た?
話者β:
ああ。
話者α:
みんな、避けてた。
話者β:
当然だ。
話者α:
気づいてるのかな。
話者β:
……気づいてる。
話者α:
でも、何も言わない。
話者β:
言えない。
話者α:
なんで?
話者β:
……もう、人間じゃないから。
[沈黙:40秒]
話者α:
さっき……
話者β:
何?
話者α:
あの子、こっち見てた。
話者β:
……は?
話者α:
笑ってた。
話者β:
笑って……?
話者α:
ううん。違う。笑ってたけど……目が。
話者β:
目が?
話者α:
……空っぽだった。
[録音終了:タイムスタンプ破損]
【15日目・早朝】追加録音
[録音開始:自動]
話者不明1:
試してみるか。
話者不明2:
何を?
話者不明1:
触って。右手に。
話者不明2:
……お前が行けよ。
話者不明1:
いや、俺は――
話者不明2:
なら誰か――
[録音中断:ノイズ多数]
【記録者注記】
本録音は匿名の提供者により入手。
内容の真偽は 確認不可能。
ルミナス港評議会への提出は 見送られた。
理由:「民衆の不安を煽る恐れがあるため」
【未確認情報リスト】
•【海鳴りの子】【銀の悪魔】【アルブライトの怪物】等の呼称
•多層魔法陣の目撃証言(層数不明)
•右手の異常(動作不全・光・記憶読取等)
•海中戦闘の詳細(素手・魔法・武器、全て矛盾)
•ダンジョン出現の因果関係
•対象人物の年齢・正体・目的
【評議会判断】
監視継続。
介入保留。
民間への情報統制:不可能と判断
[最終更新] Cycle3_year1500 / 帰郷15日目
【追記:16日目】
新たな目撃情報:
対象人物、港湾区を《笑顔で》歩行。
周囲の反応:全員が視線を逸らす。
録音継続中。
[この記録は、もはや誰にも止められない]
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第6章サブ2話 完
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主人公は、その判断をそのまま流した。
結果として、港の噂は形を変えながら広がり続けることになった。
ただ、そのままで良いのかは分からない。
よろしければ、
ブックマークで続きを追いただけると嬉しいです。




