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【第6章 第9話】 静かな着地

激闘の余韻が残る夜の海で、レイは腕の中の少女の重さを確かめていた。

失ったはずの右手の感覚は、今は確かにここにある。

――だが、その「完璧な自分」が少しずつ指先から逃げていく違和感に、レイは気づき始めていた。

【余韻】


水面に出る。


夜の海。


波が穏やか。


星が見える。


「はあ……」


ダリウスが息を吐く。


「終わった……」


グレンが海水を吐き出す。


「本当に……?」


リナが辺りを見る。


「ボスが……消えた……」


ガルムが泳いでくる。


「皆様、無事ですか」


「うん……」


レイは少女を抱きかかえたまま。


浮かぶ。


軽い。


あまりにも。


骨と皮だけみたいに。


呼吸が浅い。


でも規則的。


眠ってる。


「……」


右手を見る。


動く。


でも、さっきみたいに完璧じゃない。


何かが抜けてる。


感覚が鈍い。


戻ってきてる。


元に。


「レイ」


ダリウスが近づく。


「その子……」


「後で」


「今は……」


船に向かう。


全員が続く。


無言で。


甲板に上がる。


一人ずつ。


最後にレイが、少女を抱えたまま。


ロープを掴む。


右手で。


力が入る。


でも、さっきより弱い。


「……」


やはり。


登る。


片手で。


少女を左腕で支えたまま。


できる。


でも、昔ならもっと楽だった。


「はあ……」


甲板に着く。


少女を下ろす。


木の床にそっと。


「……」


眠ったまま。


顔色が悪い。


白すぎる。


「大丈夫か?」


ダリウスが覗き込む。


「分からない」


「でも……」


呼吸はある。


脈もある。


生きてる。


「誰なんだ」


グレンが聞く。


「ずっと……一緒だったの?」


リナが首を傾げる。


「見えなかった」


「私たちには……」


「うん」


レイが答える。


「見えなかった」


「でも、ずっといた」


声だけ聞こえてた。


「声?」


ダリウスが眉をひそめる。


「レイ、お前……」


「妄想じゃない」


「本当だ」


少女を見る。


「証拠が……」


ここにいる。


「……」


全員が少女を見る。


銀色の髪。


白い服。


痩せすぎた体。


でも、確かに実在する。


ガルムが毛布を持ってくる。


「レイ様」


「ありがとう」


少女にかける。


冷たい。


体温が低すぎる。


「……」


大丈夫か。


本当に。


「レイ」


ダリウスが座る。


「さっきの魔法……」


「うん」


「あれは……」


何だったんだ。


言いかける。


でも、レイは答えられない。


分からない。


右手を握る。


動く。


でも、さっきみたいには動かない。


感覚が戻ってる。


元に。


あれは一時的だった。


「代償……」


少女が言ってた。


全部使った、と。


じゃあ、もう戻らない?


「……」


それでいい。


本当は。


生きてるだけで十分。


みんなも生きてる。


それで十分。


でも。


何か違和感がある。


さっきの完璧な感覚がまだ体に残ってる。


あれが本当の俺だった。


なら、今の俺は何?


ガルムが立ち上がる。


「傷を確認します」


全員の怪我を見る。


ダリウス。「軽い打撲」


グレン。「擦り傷のみ」


リナ。「問題なし」


ガルム自身。「完治」


さっきまでの重傷が嘘みたいに。


「誰が……」


ダリウスが呟く。


「治したんだ?」


レイは少女を見る。


「彼女が」


「え……?」


全員が少女を見る。


「この子が?」


「うん」


でも、確信が持てない。


本当に彼女だったか?


「……」


分からない。


でも、他に誰もいない。


「とにかく」


ダリウスが立ち上がる。


「港に戻ろう」


「報告もしないと」


全員が頷く。


船が動き始める。


エンジンの音。


波を切る音。


夜風が冷たい。


レイは少女の隣に座る。


毛布を直す。


顔を見る。


眠ったまま。


でも、呼吸が少し楽になってる。


「……」


良かった。


生きてる。


それだけで十分。


「ありがとう」


小さく呟く。


少女が微かに微笑む。


気がする。


でも、目は開かない。


「……」


右手で少女の手を握る。


温かい。


脈がある。


さっきよりしっかりしてる。


良かった。


「レイ」


ガルムが水を持ってくる。


「ありがとう」


飲む。


冷たい。


喉が乾いてた。


「レイ様」


「ん?」


「あの方は……」


少女を見る。


「大切な方ですか」


「……うん」


大切。


そうだ。


ずっと一緒だった。


声だけだったけど。


でも、いつもそばにいた。


「そうですか」


ガルムが微笑む。


「なら、守らないと」


「……うん」


レイは少女を見る。


今度は俺が。


港が見える。


灯りが見える。


人の気配。


船が着く。


全員が降りる。


レイは少女を抱きかかえる。


軽い。


あまりにも。


「レイ!」


父の声。


駆け寄ってくる。


「無事か!」


「うん」


母も来る。


「良かった……」


涙を拭く。


「本当に……」


「ごめん」


心配かけた。


でも。


「その子は……?」


母が少女を見る。


「誰?」


「……友達」


「友達?」


父が眉をひそめる。


「初めて見るが……」


「うん」


説明できない。


今は。


「とにかく」


母が言う。


「家に行きましょう」


「この子、冷たいわ」


少女を触る。


「!」


「体温が低すぎる」


「急いで」


家に着く。


少女を部屋に運ぶ。


ベッドに寝かせる。


毛布を何枚も。


暖炉に火を入れる。


母が額を触る。


「熱はない」


「でも、体温が低い」


「栄養失調……かしら」


父がスープを持ってくる。


「飲ませられるか?」


「起きてないと……」


無理。


「……」


レイは少女の手を握る。


「起きて」


小さく呼びかける。


「お願い」


少女が瞼を動かす。


「……」


目が開く。


ゆっくりと。


「レイ……?」


「うん」


「ここは……」


「俺の家」


「安全だよ」


少女が微笑む。


「良かった……」


「あなたが無事で……」


「俺じゃなくて、あなただよ」


スープを口元に。


「飲んで」


少女が少し飲む。


温かいスープ。


顔色が少し良くなる。


「……おいしい」


「良かった」


もう少し飲ませる。


少女が全部飲む。


「ありがとう」


「どういたしまして」


少女がまた眠る。


今度は安らかに。


呼吸が規則的。


「……」


レイは隣に座る。


右手を見る。


動く。


でも、感覚が鈍い。


さっきより。


「……」


戻った、と思ったのに。


また下がった。


でも、いい。


生きてる。


それだけで十分なんだ…


父が部屋を出る前


「レイ」


「ん?」


「後で話を聞かせてくれ」


「……うん」


母も微笑む。


「ゆっくり休んで」


「二人とも」


ドアが閉まる。


静かになる。


暖炉の火の音だけ。


レイは少女の隣で座ったまま。


眠らない。


見守る。


右手で少女の手を握る。


温かい。


脈がある。


生きてる。


「今度は……」


小さく呟く。


「同じ速さで歩けるね」


少女が微かに手を握り返す。


気がする。


でも、目は開かない。


「……」


レイは微笑む。


窓の外、星が見える。


夜が明ける。


新しい日が来る。


二人で迎える。


初めての朝。

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第6章 第9話 完

第6章 完

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代償を払い、彼女は声だけの存在から、体温を持つ「隣にいる誰か」になった。

失われゆく全能感と引き換えに手に入れた、同じ速さで歩める未来。


次にレイは、何を“確かめにいく”のか。


よろしければ、

ブックマークで続きを追っていただけると嬉しいです。

第6章、最後までお読みいただきありがとうございました。

サブ話を挟んで、第7章が始まります

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