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転生プログラマーが魔法をデバッグしたら、世界OSから監視される件 ―6歳幼児が異世界の仕様をハックし始めた  作者: プラナ
『森の学舎(まなびや)と古(いにしえ)の遺跡 ——九歳からの留学記、世界設計図の断片——』〜戦争が引き裂く故郷と、エルフ領域に眠る世界の核心〜
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第5章 第20話〜第21話:最近のあの子の噂

二年の時を過ごした人間の子が、樹上都市を去った。

エルフたちの間では、彼が最後に残した結果と、その代償についての噂が流れている。

静かな停滞の中にあった彼らの日常に、微かな変化が混じり始めていた。

「……ねえ、帰ったって」


「誰が?」


「あの人間の子」


「ああ、レイ」


「もう名前で呼ぶんだ」


「だって二年だぞ?」


「そりゃ慣れる」


風の音。


樹上都市の葉が揺れる。


「で、最後に何やったの?」


「三重統合」


「……本当に?」


「本当に」


「で?」


「成功した」


「……嘘」


「嘘じゃない」


「すごいじゃん」


「でも——」


沈黙。


「でも?」


「右手の感覚——失ったって」


「……え?」


「温もりが分からなくなった」


「完全に?」


「最初はね」


「怖いね」


「怖いよね」


また沈黙。


葉が揺れる音だけ。


「で、どうなったの?」


「戻った」


「全部?」


「ほぼ」


「ほぼ?」


「九割くらい? 八割くらい?」


「曖昧だな」


「聞いた話だから」


「まあ、戻ったならよかったじゃん」


「そうだね」


「泣いたって本当?」


「泣いた?」


「アリエル様の前で」


「……あの子が?」


「あの子が」


「意外」


「でも——分かる」


「怖かったんだろうね」


「そりゃそうだ」


風が強くなる。


「でもさ」


「何?」


「止まったんだって」


「止まった?」


「四重には行かなかった」


「……マジで?」


「マジで」


「成長したな」


「してない」


「してないの?」


「最後にまた暴走しかけた」


「やっぱりか」


「やっぱりだよ」


笑い声——でも優しい。


「でもギリギリで止まった」


「それは進歩?」


「進歩——だと思う」


「甘いな」


「甘いかな」


「甘い」


「まあね」


また笑い声。


「ねえ、別の話」


「何?」


「リースが種子あげたって」


「種子?」


「シルヴァンツリーの」


「……マジで?」


「マジで」


「あれエルフのシンボルじゃん」


「でもあげた」


「なんで?」


「『風を吹かせたから』って」


「……風?」


「停滞への風」


沈黙。


「……意味わかんない」


「私もわかんない」


「でも——」


「でも?」


「リースが言うなら——」


「そうかもね」


風が吹く。


木々が揺れる。


「ねえ」


「何?」


「私たち——」


「言うな」


「でも——」


「言うなって」


「百年かけて何やってたんだろうね」


「……知るか」


笑い声——少し自嘲的。


「でも変わったよね」


「変わった?」


「私たち」


「……どう?」


「昨日——」


「昨日?」


「新しい魔法陣、試してみた」


「……お前が?」


「私が」


「失敗した?」


「盛大に失敗した」


「だろうな」


「でも——」


「でも?」


「楽しかった」


「……楽しかった?」


「うん」


「失敗が?」


「失敗が」


沈黙。


風の音だけ。


「……変わったな」


「変わったかも」


「あの子のせいで」


「あの子のおかげで」


笑い声——今度は明るい。


「でもさ、種子って育つの?」


「さあ」


「人間の港で」


「気候違うよね」


「違う」


「水も空気も」


「マナも薄い」


「育つかな」


「……わかんない」


「でもリースが渡したなら」


「育つんじゃない?」


「希望的観測」


「希望的観測」


また笑い声。


「で、帰ったんだよね?」


「帰った」


「アリエル様が送った」


「転移魔法で?」


「転移魔法で」


「一瞬?」


「一瞬」


「……便利」


「便利だよね」


「私も使えたらな」


「百年修行しろ」


「嫌だ」


笑い声。


「で、家族と再会した?」


「再会した」


「泣いた?」


「また泣いたらしい」


「あの子——泣きすぎじゃない?」


「二回だよ」


「二回は多い」


「多いかな」


「多いよ」


「でも——」


「でも?」


「子供だもん」


「子供だね」


「十歳」


「もう子供じゃないけど」


「まだ子供だよ」


「どっち?」


「……両方」


風が止む。


静かになる。


「ねえ」


「何?」


「また来るかな」


「さあ」


「でも——」


「でも?」


「来てほしいね」


「……そうだね」


「変わったよね、私たち」


「変わった」


「あの子が来る前は——」


「来る前は?」


「こんなこと思わなかった」


「そうだね」


また沈黙。


でも——今度は温かい。


「帰ろうか」


「そうだな」


立ち上がる音。


足音が遠ざかる。


「ねえ、銀鈴ってさ」


「アリエル様の?」


「そう」


「何?」


「距離、関係ないんだって」


「へえ」


「すごいよね」


「すごい」


「……守られてるんだね」


「守られてる」


「良いことだよ」


「そうだね」


足音が消える。


風が吹く。


葉が揺れる。


遠くで——鈴の音。

-----

【サブログ 完】

-----

人間の子が持ち帰ったのは、知識や成果だけではない。

それは、数百年を生きる者たちが忘れかけていた「失敗の楽しさ」という価値観だった。

エルフの森に吹いた小さな風は、彼らの歩みをどう変えていくのか。


よろしければ、

ブックマークで続きを追っていただけると嬉しいです。

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