第5章 第12話〜第14話:最近のあの子の噂
古代遺跡に入り、数千年前の崩壊の記録をすべて見たという九歳の少年。
信じがたい噂はさらに加速し、彼が禁忌の術式の理論さえも理解したという話が広まりつつあった。
その異常な習得速度を前に、見守る者たちはただ静かな沈黙を守るしかない。
「……ねえ、聞いた?」
「何?」
「あの人間の子」
「ああ」
「古代遺跡に入ったって」
「……は?」
沈黙。
「本気で言ってる?」
「評議会の許可出たらしい」
「禁書庫?」
「そこも」
「……九歳が?」
「九歳が」
また沈黙。
「で、何見たの?」
「Cycle 2の記録」
「全部?」
「全部」
「崩壊のやつも?」
「見たらしい」
「……やばくない?」
「やばいよ」
「で、どうなったの?」
「ふつうに帰ってきた」
「ふつうに?」
「ふつうに」
「……意味わかんない」
「わかんないよね」
風の音。
葉が揺れる。
「ねえ、魔法のほう聞いた?」
「四重?」
「そう」
「一週間で?」
「三日」
「……は?」
「三日で四重習得」
「私たち何年かかった?」
「……十年」
「で、あの子は?」
「三日」
「意味わかんない」
「でも事実らしい」
「今は?」
「五重に挑戦してる」
「五重!?」
「そう」
「あれ百年コースじゃ——」
「そういうことになってる」
「で、あの子は?」
「来月終わるんじゃない?」
「……嘘でしょ」
「嘘ならいいんだけど」
沈黙。
誰も次の言葉を探せない。
「ねえ」
「……何?」
「Cycle 2って——」
「神代魔法でしょ」
「そう」
「で、世界壊したやつ」
「それの記録を見た?」
「見た」
「理論も?」
「アルカディウスの遺書読んだって」
「……読んだの?」
「読めたらしい」
「古代文字?」
「そう」
「九歳が?」
「九歳が」
また沈黙。
「でも使わないって約束したらしいよ」
「誰が?」
「あの子が」
「アリエルに」
「……信じる?」
「さあ」
「でも選択肢はあるよね」
「選択肢?」
「使おうと思えば使える」
「使えるの?」
「理論理解してるなら」
「……やばくない?」
「やばいよ」
「評議会は?」
「信じるしかないって」
「信じる?」
「アリエルを」
「あの子を」
「……マジで?」
「マジで」
風が強くなる。
「ねえ、別の話」
「何?」
「戦争終わったよね」
「和平成立した」
「死者も出なくなった」
「そう」
「でも——」
「でも?」
「マナ濃度下がってない」
「……どういうこと?」
「わかんない」
「でも数値は横ばい」
「戦争終わったのに?」
「終わったのに」
「……変じゃない?」
「変だよ」
「で、誰か調べてる?」
「観察者が」
「……観察者?」
「デバッガーの」
「あの黒マントの?」
「そう」
「で?」
「あの子と協力してる」
「……は?」
「契約したって」
「九歳が?」
「九歳が」
沈黙。
誰も笑わない。
「ねえ」
「……言うな」
「でも——」
「言うなって」
「あの子、何したいの?」
「さあ」
「強くなって?」
「それから?」
「わかんない」
「でも古代の真実見て」
「神代魔法の理論知って」
「それで——」
言葉が途切れる。
「……帰ろう」
「そうだな」
散っていく。
足音が遠ざかる。
ただ一人。
最後まで残った者が呟く。
「知りすぎた」
誰にも聞かれない。
「知りすぎたら——」
言葉は風に消える。
【次回予告的な何か】
「五重魔法陣、成功したって」
「……何日で?」
「二週間」
「は?」
「私たち——」
「言うな」
「……あの子、どこまで行くの?」
「さあ」
「でもまだ帰らないって」
「なんで?」
「もっと学ぶって」
「何を?」
「世界を守る方法」
「……守る?」
「壊すんじゃなくて?」
「壊さないって言ってる」
「信じる?」
「……さあ」
「でも選択肢はある」
「選択肢?」
「守るか」
「壊すか」
「どっちも」
「……怖いね」
「怖い」
「でも——」
「見たいよね」
「見たくない」
「嘘つけ」
「……ちょっとだけ」
「正直でよろしい」
笑い声。
でも——乾いてる。
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【サブログ 完】
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少年は禁忌の知識を手にしながらも、それを使わないという約束を交わし、平然と日常へと戻っていった。
しかし、戦争が終結したはずの世界で、マナ濃度が下がらないという奇妙な現象が観測され始めている。
誰もが口を閉ざすその違和感は、少年の存在とどう関わっていくのか。
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