【第5章 第10話】 帰郷の決断
世界の心臓部、プリムスマナへと接触したレイ。
膨大なソースコードの奔流に呑まれそうになりながらも、彼はシステムが提示する「能力主義」の選別基準に異を唱える。
文明とは、そして強さとは何のためにあるのか。
観察者を前に、レイが導き出した「弱き者を守る」という答えが、長きにわたり停滞していた世界のアルゴリズムを揺り動かしていく。
クライマックス:システムの心臓部
【白い空間】
観察者の声が響く。
「選んで」
画面にルミナス港の住民リスト。
数万人。
「この中から——十家族」
「優先保護対象として」
手が震える。
ダリウス。
エドワード。
ロナン。
ガルムの家族。
そして——知らない名前が何千人も。
(選べない)
「選べません」
観察者が頷く。
「予想してた」
「でも——選ばないことも選択」
「システムはランダムに選ぶ」
(ランダム?)
(それでいいのか?)
深呼吸。
「質問いいですか?」
「どうぞ」
「この『保護』って——具体的に何を?」
「避難時の優先順位」
観察者が説明する。
「魔物攻撃時の防御支援」
「戦闘地域からの脱出ルート確保」
「戦後の再建支援」
「生存確率を上げる——でも絶対ではない」
「わかりました」
「じゃあ——」
「基準を教えてください」
「システムが通常使う基準を」
画面が変わる。
```
Standard Priority:
1. Contribution (30%)
2. Innovation (25%)
3. Stability Impact (20%)
4. Reproduction (15%)
5. Random (10%)
```
「これがアルゴリズム」
「能力主義」
「貢献度が高い者が優先される」
(能力主義)
Cycle 2の記憶が蘇る。
優秀な者が優遇された。
そして——傲慢になった。
崩壊した。
「違う基準を提案します」
観察者の目が光る。
「聞かせて」
「弱い者を優先してください」
声を張る。
「子供」
「老人」
「病人」
「戦えない者たち」
「彼らこそ——最も助けが必要です」
沈黙。
長い。
観察者が口を開く。
「それは——効率的ではない」
「文明の再建には強い者が必要」
「わかってます」
息を吸う。
「でも——文明って何のためにあるんですか?」
観察者が目を見開く。
アリエルが横で頷く。
「強い者だけが生き残るなら——」
「それは文明じゃない」
「ただの弱肉強食です」
拳を握る。
「文明は——」
「弱い者を守るためにある」
「そう思います」
観察者が——笑った。
「なるほど」
「それがあなたの答え」
画面を操作する。
```
Priority Adjustment:
Proposed: Ray Albright
Factors:
1. Vulnerability (40%)
2. Dependents (30%)
3. Community (20%)
4. Random (10%)
Status: APPROVED (Experimental)
Scope: Lumis Port Only
```
「実験的に——採用する」
胸が熱くなる。
(システムを——変えた)
「ありがとうございます」
「礼には及ばない」
「あなたは協力者」
「そして——もう一つ、見せるわ」
【プリムスマナ接触】
画面が真っ暗になる。
何かが蠢く。
「これが——プリムスマナ」
「世界のソースコード」
コードが浮かぶ。
古代の言語。
読めない。
でも——
構造は理解できる。
「触れますか?」
「危険じゃ?」
「あなたなら大丈夫」
「契約者だから」
「ただし——読み取りのみ」
「神代魔法を使った者たちは——」
「ここを書き換えようとして崩壊した」
手を伸ばす。
震える。
触れる。
冷たい。
情報が奔流となって流れ込む。
頭が割れそう。
でも——
一部だけ。
わかる。
```
// Mana Conservation
if (conservation_check == false) {
return ERROR;
}
// Permission Check
if (user.depth < spell.required) {
return DENIED;
}
// Demon Monitor
if (lei > THRESHOLD) {
schedule_intervention();
}
```
(これが——世界)
(全てがプログラムされてる)
もっと読みたい。
でも——
頭が限界。
手を離す。
膝をつく。
「無理しないで」
アリエルが支える。
「凄かった——」
息が荒い。
「世界のコア部分」
「マナ循環」
「魔法の権限」
「デモンの監視」
「全部——プログラムでした」
観察者が頷く。
「その通り」
「世界はシステム」
「そして——」
「あなたはそれを理解できる数少ない存在」
「期待してる」
「いつか——」
「このコードを改善してくれることを」
立ち上がる。
ふらつく。
決意は固い。
「やってみせます」
「より良い世界に」
「Cycle 2の過ちを繰り返さずに」
観察者が微笑む。
「楽しみにしてる」
転移魔法の光。
エンディング:決断の時
【エルフ領域・レイの部屋】
夜。
ベッドに座る。
手紙を書く。
```
お父さん、お母さんへ
世界の仕組みを学びました。
デモンシステムのことも。
戦争のことも。
僕はもう少しここで学び続けます。
約束通り、10歳の誕生日まで。
あと三ヶ月。
その間に——できることを全部やります。
戦争の被害を減らす方法。
マナ効率の良い防衛術。
避難計画の最適化。
全部エルフから学んで。
帰ったら教えます。
だから——待っててください。
絶対に無理しないでください。
僕が帰る頃には——
もっと強く、賢くなってます。
家族を——みんなを——
守れるように。
レイより
```
封をする。
窓の外。
星が輝く。
ルミナスの方角を見る。
(待っててね)
ノック。
「レイ?」
ガルムの声。
「入って」
彼が小包を持って入る。
「これ——届いてた」
差出人——ダリウス。
開ける。
守護の護符。
パーティー全員のサイン入り。
手紙も。
```
レイ
お前が帰ってくるまで——
俺らがルミナスを守る。
お前の家族も。
友達も。
全部。
だから安心して学べ。
帰ったら——
また冒険しような。
今度は平和な。
待ってるぜ。
ダリウス、マーラ、フィン、ソラより
```
涙が溢れる。
「ありがとう——みんな」
ガルムが肩を叩く。
「坊ちゃんは一人じゃない」
「みんながついてる」
「だから前を向いて」
頷く。
涙を拭う。
護符を首にかける。
温かい。
繋がってる。
家族と。
友達と。
みんなと。
【同時刻・三つの場所】
ルミナス港——
父が書斎で地図を広げる。
防衛計画。
避難ルート。
「これで——いけるか」
母が温かいお茶を持って入る。
「無理してない?」
「大丈夫だ」
「レイが帰ってくるまで——絶対に守る」
「この港を」
「この家を」
「みんなの未来を」
母が抱きしめる。
「一緒に頑張りましょう」
窓の外。
港が見える。
平和。
でも——遠くに暗雲。
嵐が近づいてる。
アルタニア王国——
作戦会議室。
国王が立つ。
「三ヶ月後——開戦する」
将軍たちが敬礼。
「ルミナス港を制圧」
「沿岸都市連合を屈服させる」
「そして——大陸の覇権を」
地図に赤い線。
侵攻ルート。
ルミナス港を囲む。
デモン中枢——
モニター。
データ更新。
```
War Probability: 75% (↑7%)
Outbreak: 87 days
LEI Current: 0.054
War Impact: +0.016
Projected: 0.070
Intervention: ARMED
Type: Level 2
Target: Both Kingdoms
Trigger: LEI > 0.070
Special:
Ray Albright
Protection: ENHANCED
Monitoring: CONTINUOUS
```
冷たい光。
アルゴリズムが動く。
感情なく。
公平に。
確実に。
【エルフ領域・夜空】
レイが窓から空を見上げる。
星が無数に。
「三ヶ月——」
呟く。
「それまでに——できることを全部やる」
「そして——帰る」
「絶対に」
背後でアリエルの声。
「レイ——まだ起きてたの?」
「眠れなくて」
彼女が隣に座る。
一緒に空を見る。
「不安?」
「少し」
「でも——やるしかない」
「そうね」
「でも——忘れないで」
「あなたは子供よ」
「まだ10歳」
「全てを背負う必要はない」
微笑む。
「ありがとう、アリエル」
「どういたしまして」
星が流れる。
「願い事した?」
「うん」
「どんな?」
「言ったら叶わないから——秘密」
彼女が笑う。
でも——
願いは一つ。
(みんなを守れますように)
(戦争が最小限で終わりますように)
(家族に会えますように)
星が消える。
夜は深い。
でも——
朝は必ず来る。
エピローグ:カウントダウン
【レイの部屋・掲示板】
```
帰郷までのカウントダウン
目標日:生後10歳誕生日
残り:87日
To Do:
□ 古代魔法理論完全習得
□ 戦術魔法マスター
□ マナ効率化実践
□ 避難計画最適化
□ 家族への定期連絡
□ エルフへの恩返し
完了:
✓ Cycle 2の真実理解
✓ デモンシステム契約
✓ 観察者との協力確立
✓ 弱者保護アルゴリズム提案
```
ベッドの横。
護符が微かに光る。
守られてる。
繋がってる。
(頑張る)
(絶対に)
目を閉じる。
ようやく眠れる。
明日からまた——
学びの日々。
最後の三ヶ月。
濃密な成長の時間。
```
戦争勃発まで——87日
レイの帰郷まで——87日
デモン介入まで——LEI +0.016
全ての運命が——交差する
```
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第5章 第10話 完
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システムに新たな「保護」の形を刻み込んだレイは、10歳の誕生日という期限を胸に、故郷への帰還を決意する。
迫りくる戦争の足音とデモンの介入、そして遠く離れた地で彼を信じて待つ仲間たちの想いが、運命の交差点へと集結し始めていた。
最適化された選択は、次にどんな形で世界から返ってくるのか。
よろしければ、
ブックマークで続きを追っていただけると嬉しいです。




