【第5章 第6話】 別れの任務
九歳と二ヶ月。エルフ留学を三週間後に控えたレイのもとに、血痕の付着した緊急依頼が届く。
送り主は、かつて共に戦ったダリウス。
「最後だ、来てくれ」という悲痛な呼びかけに応じ、レイは調査隊が全滅したという異常なダンジョンへと足を踏み入れる。
そこで彼を待っていたのは、魔物の姿ではなく、形を成した「死」そのものだった。
オープニング:血痕の手紙
朝。玄関に、封筒。
ギルドの紋章——だが、端に血痕。
手が、震える。
開ける。
【緊急依頼・Aランク相当】
依頼主:ダリウス・エドムンド
辺境ダンジョン・調査隊全滅
レイ、最後だ。来てくれ
(最後——)
父が、背後から。
「行くのか」
「……はい」
「死ぬかもしれんぞ」
ダリウスの顔が、浮かぶ。
あの日。彼は僕を、一人前として扱った。
「お世話になったから」
父が、肩に手を置く。
「五日以内に戻れ。エルフ語の試験まで——三週間だ」
重い。
でも——
「必ず」
展開1:ギルド——別れの予感
ギルド。
ダリウスパーティが、待っている。
リサの目が、赤い。
「……レイ」
抱きしめられる。
温かい。
でも——
震えてる。
マルクが、鎧を叩く。
「今回は——覚悟しろ」
ダリウスが、地図を広げる。
辺境。赤い印——大きく、滲んでいる。
「調査隊が二つ、戻ってこない」
「最後の通信は——『マナが腐ってる』」
息を呑む。
「腐る……?」
「ああ。お前なら、分かるかもしれない」
彼の目が、真剣。
「エルフに行く前に——」
「死の匂いを、知っておけ」
展開2:辺境への道——過去と決意
馬車。三日間の旅。
初夜。焚き火。
リサが、シチューを作っている。
でも——
手が、止まる。
「……調査隊の一人、知り合いだったの」
「先月、結婚したばかり」
沈黙。
マルクが、薪をくべる。
「俺も。先週、酒飲んだ」
「『次の依頼で引退する』って、笑ってた」
ダリウスが、炎を見つめる。
「レイ」
「……はい」
「お前は——何のために、戦う?」
視線が、重い。
「システム理解? データ収集?」
「それだけか?」
家族の顔が、浮かぶ。
母。父。ガルム。
「……家族を、守るため」
「そうか」
彼が、頷く。
「なら——それを、忘れるな」
「死にかけた時、それだけが支えになる」
風が、吹く。
焚き火が、揺れる。
星が、瞬いている。
展開3:ダンジョン入口——異常
三日後。辺境。
ダンジョン入口。
洞窟——
でも。
「……静かすぎる」
リサが、弓を構える。
「魔物の気配が、ない」
ダリウスが、手を上げる。
「レイ、マナを」
目を閉じる。
マナ視覚化——
青い光の川が、ない。
代わりに。
赤黒い、霧。
「マナが——」
息が、詰まる。
「腐ってる」
全員が、固まる。
ダリウスが、舌打ち。
「Aランクどころじゃない」
「撤退しましょう」リサが叫ぶ。
「いや」
彼が、洞窟を睨む。
「あいつらが、中にいる」
「見捨てられない」
マルクが、剣を抜く。
「隊長らしいな」
僕も——
頷く。
でも。
手が、震える。
(怖い)
クライマックス:深部——死の声
ダンジョン。
通路が、歪んでいる。
壁が——脈打つ。
生きてる?
リサが、壁に触れる。
「温かい……」
マナを、見る。
赤黒い霧が、濃い。
ダリウスが、指差す。
奥——
松明の、残骸。
「近い」
進む。
足音が、反響する。
でも——
「待って」
全員が、止まる。
「足音が——五つ」
「俺たち、四人なのに」
背筋が、凍る。
振り返る——
影。
人型。
でも——
「魔物!」
リサが、矢を放つ。
影が、避ける。
速い。
マルクが、斬りかかる。
剣が——空を切る。
「実体がない!?」
ダリウスが、叫ぶ。
「レイ!」
目を閉じる。
赤黒い霧の中——
人型の、影。
でも——
(これ……人間?)
「魔物じゃない」
「腐ったマナの、集合体だ」
ダリウスが、理解する。
「討伐じゃなく——?」
「浄化です!」
リサが、詠唱を始める。
でも——
影が、襲いかかる。
マルクが、防ぐ。
「早く!」
僕も、詠唱。
《ルミナス・サンクティファイ》
光が、溢れる。
影が——
悲鳴を上げる。
人の、声。
「助けて……」
「誰か……」
(調査隊……!)
光が、影を包む。
影が——消える。
静寂。
通路に、倒れている。
五人の、遺体。
腐敗してない。
でも——
目が、見開いたまま。
口が、叫びの形。
マルクが、膝をつく。
「……知り合いだ」
「先週、笑ってたのに」
リサが、泣いている。
ダリウスが——
拳を、握りしめている。
軋む音。
転換:外——生の重さ
ダンジョンを出る。
夕日が、赤い。
ダリウスが、水晶を取り出す。
ギルドへの報告。
「調査隊——全滅」
「ダンジョンは、Aランク以上」
「即座に、封鎖を」
通信が、切れる。
沈黙。
リサが、座り込む。
「私たち——何のために……」
誰も、答えられない。
マルクが、空を見上げる。
「分からねえ」
「でも——」
「俺らが行かなかったら、誰も真実を知らなかった」
ダリウスが、頷く。
「冒険者の仕事は——」
「勝つことじゃない」
「生き延びて、伝えることだ」
視線が、僕に。
「レイ」
「……はい」
「あいつらも、ベテランだった」
「でも——死んだ」
「なぜか、分かるか?」
「……分かりません」
「運だ」
風が、吹く。
「どんなに強くても、賢くても——」
「運が悪ければ、死ぬ」
「だから——」
「生きろ」
涙が、出そうになる。
でも——
「はい」
エンディング:帰路——別れ
五日目。ルミナス港。
ギルド前。
ダリウスパーティと、別れる。
「じゃあな」
「また、依頼を」
「……いつか、必ず」
リサが、抱きしめる。
「エルフで、いじめられたら——」
「手紙ちょうだい」
「助けに行くから」
「ありがとうございます」
マルクが、肩を叩く。
「強くなれよ」
「はい」
ダリウスが、最後に。
「お前は——きっと、偉大な魔法使いになる」
「でも——」
「人間であることを、忘れるな」
頷く。
彼らが、去る。
背中が、遠ざかる。
(また、会える)
(でも——)
(もう、同じじゃない)
時間が、全てを変える。
空を、見上げる。
雲が、流れる。
【同時刻。エルフ領域。評議会。】
長老が、報告を受ける。
「人間の子——Aランク相当の腐敗マナを、浄化した」
ざわめき。
若いエルフが、立つ。
「九歳で?」
「興味深い」
長老が、顔をしかめる。
「危険だ」
「あまりに早すぎる」
議長が、手を上げる。
「試験の難度を——最高位に」
「彼が、真に理解しているか——」
「確かめる」
アリエルが、立つ。
「お待ちを」
「彼はまだ——」
「子供です」
長老が、冷たく。
「子供だからこそ、危険なのだ」
「神代の過ちを——」
「繰り返してはならない」
窓の外。
森が、ざわめく。
風が——
試練を、運んでくる。
【深夜。レイの部屋。】
窓辺。
ノートに、書く。
【ダンジョン調査 報告】
腐敗マナ:エントロピー異常値
浄化条件:純粋マナによる上書き
残留思念:死の瞬間の感情が固定化
ペンが、止まる。
【所感】
死は——理不尽だ
システムは、完璧じゃない
だから——
母の声が、聞こえる気がする。
「どんなに遠くても、あなたは私の子供よ」
だから——生きる
ペンを、置く。
窓の外。
星が、瞬く。
エルフ領域の方角。
(あと三週間)
手を、握る。
(行く)
深呼吸。
机に、向かう。
エルフ語の教科書。
Lesson 47: 死の表現(七つの段階)
ページを、めくる。
指先が——
震える。
(今なら、理解できる)
夜が、更ける。
勉強の、音だけが響く。
そして——
遠く、エルフ領域。
森の奥。
古の遺跡が——
目覚める。
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第5章 第6話 完
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腐敗したマナの霧を浄化し、理不尽な死の痕跡を目の当たりにしたレイ。
ダリウスたちとの別れを経て、「生き残って伝える」という冒険者の覚悟を刻んだ彼は、自らも死の表現を学ぶ一人の人間として留学への最終準備に向かう。
最適化された選択は、次にどんな形で世界から返ってくるのか。
よろしければ、
ブックマークで続きを追っていただけると嬉しいです。




