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転生プログラマーが魔法をデバッグしたら、世界OSから監視される件 ―6歳幼児が異世界の仕様をハックし始めた  作者: プラナ
『森の学舎(まなびや)と古(いにしえ)の遺跡 ——九歳からの留学記、世界設計図の断片——』〜戦争が引き裂く故郷と、エルフ領域に眠る世界の核心〜
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第5章 第3話〜第5話:最近のあの子の噂

辺境のダンジョンが、討伐隊の動く前に四つ同時に消滅した。

現場で目撃されたのは、石碑に触れるだけで魔物の群れを退ける九歳の少年の姿。

酒場に集う者たちは、そのあまりに非現実的な噂に、静かな戸惑いを隠せずにいた。

場所:

ルミナス港・冒険者ギルド酒場(深夜)


「……なあ」


カウンターで酒を煽る冒険者が、隣の男に声をかけた。


「辺境のダンジョン、全部消えたらしいぞ」


「ああ、聞いた。四つ同時に」


受付嬢が帳簿を閉じながら首を傾げる。


「討伐隊でしょ? ダリウスさんたちの」


「それが——違うんだ」


冒険者が声を潜める。


「討伐隊が動く前に、消えた」


「……は?」


「九歳のガキが祠に入って——石碑に触っただけで、全部」


受付嬢の手が止まる。


「九歳って……まさか」


「ああ。例の」


奥のテーブルから、魔法協会の研究者が顔を上げた。


「レイ・アルブライトですか。観測ノードへのアクセス権を持つ唯一の——」


「理論の話はいいんだよ!」


別の冒険者が割り込む。辺境から戻ったばかりの男だ。


「俺は見たんだ。石碑に手ェ置いた瞬間、靄が薄れてくの」


「魔物も襲わなかった。スパイクウルフの群れが、一言で逃げた」


受付嬢が眉をひそめる。


「一言……?」


「『退け』って」


研究者がメガネを押し上げる。


「感情マナ相関でしょう。攻撃性を鎮静化させる——高度な制御ですが」


「九歳が?」


「……統計的には0.002%ですが」


冒険者が酒をあおる。


「化け物だな」


「でもよ——」


奥の暗がりから、低い声。


誰も振り返らない。


「満月の夜、灯台行ってたぞ」


「……は?」


「一人で。黒ローブの誰かと」


受付嬢が息を呑む。


「黒ローブ……」


「ガルムが五十メートル先にいたから、護衛付きだろうが——」


「夜中に灯台で密会なんて——」


研究者が首を振る。


「憶測は危険です。エドワード先生の関与も——」


「でも変だろ?」


カウンターの冒険者が話を遮る。


「それよりエルフ語だ」


「……エルフ語?」


「ああ。必死で勉強してるらしい」


受付嬢が帳簿を開く。


「留学の準備ですね。八ヶ月後にシルヴァン・イーヴンリースへ」


「エルフ語って、習得に二十年——」


研究者が苦笑する。


「エルフの時間感覚は人間の十倍遅い。会話一つで十五分」


「九歳が理解できるのか?」


「アリエル・シルヴァが直接指導してるそうです」


冒険者が首を傾げる。


「でも——庭で赤い魔力が暴走したって聞いたぞ」


「……は?」


「植物が枯れたんだと。アリエルが慌てて止めた」


受付嬢が青ざめる。


「赤い魔力……Cycle 2の——」


「おい、縁起でもねえ!」


研究者が手を上げる。


「感情マナ共鳴の訓練中、制御を誤っただけでしょう。怒りの感情が——」


「九歳が、そんなに怒ること——」


「……前世の記憶、でしょうね」


沈黙。


奥の声が、再び。


「母親、泣いてたぞ」


「……泣いてた?」


「夕食作りながら。九歳が遠くへ行く」


受付嬢が俯く。


「そりゃ……ね」


冒険者が杯を置く。


「留学費用、白金貨百二十枚だってな」


「家が買える」


「それでも行かせるのか」


研究者がメガネを外す。


「エルフ評議会が試験を課したそうです。合格しなければ遺跡への立ち入りすら——」


「九歳に——」


「でも、彼は行くでしょう」


受付嬢が帳簿を閉じる。


「……なんでそんなに必死なの?」


誰も答えない。


風が、窓を揺らす。


奥の声だけが、呟く。


「知りたいんだろうな——世界の仕組みを」


「でも——」


「知りすぎた子供は、消される」


冒険者が振り返る。


「おい——」


椅子は、空だった。


沈黙。


研究者が立ち上がる。


「……帰ります」


「おい——」


「何も聞いてません。忘れてください」


扉が閉まる。


受付嬢が震える手で、帳簿を開く。


「……レイ・アルブライト。九歳。ランクE」


「依頼達成率……100%」


「最新の依頼——」


ページをめくる。


「——『辺境ダンジョン連鎖の調査』」


「報酬……未受領」


冒険者が呟く。


「化け物か、英雄か——」


受付嬢が首を振る。


「どっちでもない」


「ただの——」


窓の外、月が雲に隠れる。


「——九歳の子供」


カウンターの酒が、揺れる。


誰も、続きを言わない。


ただ——


遠くで、鐘が鳴る。


深夜二時。


港が、眠る。


でも——


どこかで、誰かが。


レイ・アルブライトを。


見ている。

-----

【サブログ 完】

-----

九歳の子供として扱われる一方で、その実績と異常な学習速度は周囲に底知れぬ恐怖を与え始めていた。

世界の仕組みを渇望する少年の背後で、かつての崩壊を象徴する赤い魔力が微かに揺らめく。

この小さな子供が背負う「知りたい」という欲求は、どこまで許容され続けるのか。


よろしければ、

ブックマークで続きを追っていただけると嬉しいです。

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