【第5章 第4話】 観察者の再訪
九歳と三ヶ月。留学まで九ヶ月と迫った朝、差出人不明の手紙がレイの元に届く。
「約束の時」を告げるその内容は、満月の夜、港の灯台へ一人で来いという観察者からの呼び出しだった。
辺境でのシステム介入が招いた「特別監視」の影がちらつく中、少年は家族の心配を背負い、世界の裏側に潜む存在との対峙を決意する。
オープニング:封筒に、名前はなかった
九歳と三ヶ月。留学まで、あと九ヶ月。
「レイ、これを見てくれ」
朝食の席で、父が手紙を差し出した。
封筒は白。封蝋なし。差出人も、住所も——何も書かれていない。
「……どこから?」
「今朝、玄関に置いてあった」
母が不安そうに見る。ガルムが立ち上がる。
開ける。一枚の紙。
レイへ
約束の時が来た。
次の満月の夜、港の灯台へ。
一人で。
——観察者
息が、止まる。
「観察者……」
父が眉をひそめる。
「知り合いか?」
「三ヶ月前に、一度」
ガルムが手紙を覗き込む。
「一人で、だと? 危険すぎる」
父が腕を組む。
「行くな。無視しろ」
でも——手紙の裏に、小さな文字。
「辺境の祠。知っているわね」
背筋が、凍る。
(観測ノードのこと——彼女が見ていた?)
「……行きます」
「レイ!」
母が叫ぶ。
「でも、一人じゃありません。ガルムと一緒に」
父が迷う。
「……条件がある。エドワードに相談しろ。護身魔法を学べ。それができないなら、禁止だ」
頷く。
「分かりました」
満月まで、あと三日。
展開1:魔法協会——過去に、警告された者がいた
魔法協会。エドワードの研究室。
「観察者?」
彼が資料を探す。
「以前、似た事例があった」
古い記録を開く。
「五十年前。古代魔法を解読した研究者が——突然、監視された。三ヶ月後、デモンから警告が来た」
「警告……」
「『研究を中止しろ』と。彼は従った。一年後、監視は解除された」
エドワードが僕を見る。
「お前も、辺境でシステムと対話した。だから——」
「僕も、監視対象になった」
観測装置を見せる。四つ目の光点が、明るく脈動している。
エドワードが息を呑む。
「これは……特別監視フラグだ」
「観察者は——システムの一部、かもしれない」
「だから、危険だ」
エドワードが立ち上がる。
「今すぐ、護身魔法を教える」
展開2:訓練場——格子の障壁
協会の訓練場。
「防御障壁。マナを均等に広げて、膜を作る」
エドワードが手を上げる。透明な膜が、彼を包む。
僕も試す——
バチッ!
膜が、すぐに破れる。
「難しい……」
「均等配置は、高度な制御だ。でも——お前なら、別の方法がある」
「別の?」
「プログラミング的に考えろ。膜じゃなく——格子だ」
格子……?
頭の中で、イメージする。碁盤の目。縦横に交差するマナの線——
シュッ!
光の格子が、僕の周りに浮かんだ。
エドワードが目を見開く。
「……一発で?」
小石が飛んでくる——格子が光り、跳ね返す。
「衝撃が、分散されてる」
エドワードが笑う。
「化け物だな、お前」
クリスタルを渡される。
「これは緊急信号。危険なら、マナを流せ。すぐに駆けつける」
「ありがとうございます」
「生きて帰ってこい」
夕暮れ。満月まで、あと二日。
展開3:夜の対話——家族だからな
自室。深夜。
ガルムが地図を広げる。
「灯台は港の突端。周囲は開けてる。俺は五十メートル先に隠れる」
「信号を出せば、十秒で駆けつける」
彼が、ナイフを渡す。
「護身用だ」
軽い。でも、重い。
「……ガルム」
「なんだ?」
「なぜ、僕のために——」
彼が笑う。
「家族だからな」
胸が、熱くなる。
「でも——真実を知りたいのは、なぜだ?」
沈黙。答えを探す。
「……分からないことが、怖いんです」
「怖い?」
「世界の仕組み。僕が転生した理由。観察者の正体——全部」
ガルムが頷く。
「なら、俺は守る。お前が真実を知るまで」
窓の外、月が昇る。
クライマックス:灯台——システムは三重の影
満月の夜。
灯台の石段。風が強い。
ガルムが影に消える。
「行け」
頷いて、登る。
頂上——彼女がいた。
黒いローブ。月明かりが、銀髪を照らす。
「よく来たわね、レイ」
「……観察者」
彼女がフードを下ろす。
尖った耳。丸い目。金色の瞳。
「私は——システムの調整者」
「調整者……?」
「システムは三重の影。自動監視、調整者、そして——創造者」
彼女が一歩近づく。
「創造者はもういない。Cycle 2の崩壊で、消えた」
頭が、混乱する。
「消えた……?」
「残されたのは、システムと私たち。世界を、維持するために」
彼女が海を見る。
「あなたは特別。システムに提案を通した。九歳で」
「だから——協力したい」
「協力?」
「私は情報を与える。あなたは観測データを共有する」
これは——取引だ。
(信じていいのか?)
「……条件があります」
彼女が目を細める。
「条件?」
「データは部分的に。プライバシーは守る」
「協力は一年間。試験的に」
彼女が笑う。
「賢いわね。いいわ、飲む」
握手。
彼女が水晶を渡す。
「これで、連絡できる」
冷たい。
「一つだけ——先に教えておく」
「何ですか?」
「エルフ領域の遺跡。そこに、創造者の最後のメッセージがある」
心臓が、跳ねる。
「でも、危険よ。神代魔法の罠が、至る所に」
「一人では無理。でも——私と協力すれば」
風が吹く。
「次は、エルフ領域で」
彼女の姿が、霞んで消える。
一人になる。
ガルムが駆け上がってくる。
「レイ!」
「……大丈夫です」
でも、手が震えている。
エンディング:二つの窓
翌朝。
観測装置の光点——明るさが、半分に。
(監視が、緩和された)
装置の隣に、水晶。
二つの窓。
システムへの窓——観測ノード。
調整者への窓——水晶。
どちらも、真実への道。
どちらも、危険な道。
ノートに書く。
契約成立。
条件:部分的共有。
期間:一年間。
リスク:未知。
窓から、灯台が見える。
(エルフ領域で——何が待ってる?)
ドアがノックされる。
「レイ、朝食よ」
母の声。
「今行きます!」
水晶をポケットに入れる。
日常が、続いている。
でも——僕の日常は、もう普通じゃない。
世界の裏側に——足を踏み入れた。
戻れない。
でも——
戻る気もない。
遠く。星の下。
観察者が、窓を見る。
「レイ——あなたは、どこまで行けるかしら」
笑みを浮かべる。
「でも、教えなかったことがある」
「創造者のメッセージ——それは、祝福でもあり、呪いでもある」
風が吹く。
星が、瞬く。
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第5章 第4話 完
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灯台の頂上で対面した観察者は、自らを「システムの調整者」と名乗り、失われた創造者の断片を巡る危険な協力を提案する。
レイは一抹の疑念を抱きながらも、真実を掴むために未知の存在との契約を結び、一歩踏み出せば戻れぬ深淵へと足を踏み入れた。
最適化された選択は、次にどんな形で世界から返ってくるのか。
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