【第5章 第2話】 エルフ語と古代魔法の予習
九歳と二ヶ月。アリエルとの遠隔講義により、レイはエルフ語が単なる伝達手段ではなく、世界に直接干渉する「魔法言語」であることを知る。
一方、エドワードとの共同研究では、観測ノードが世界規模で同期している事実が発覚。
自身の仮説が裏付けられていく高揚感の裏で、少年は世界の中心から向けられた「視線」の正体に近づきつつあった
オープニング:声が空気を——変える
九歳と二ヶ月。留学まで、あと十ヶ月。
「Vara」
僕が発音した瞬間——書斎の空気が、温かくなった。
マナ密度計の針が、わずかに振れる。1.05。
水晶球の向こう、アリエルの緑の瞳が見開かれる。
「……初めてで、この反応?」
彼女の声に、驚きが混じる。
三日前から始まった週一の遠隔講義。エルフ語の、最初の単語。
「もう一度、言ってみて」
「Vara」
今度は、もっとはっきりと——空気が震えた。
窓の外の桜の枝が、風もないのにゆれる。
「レイ……あなた、音の構造を理解してるの?」
「いえ、でも——」
ノートを見る。走り書きしたメモ。
```
音の振動 → マナ波長との共鳴?
言語 ≒ 関数呼び出し
```
「音が、直接マナに作用してる気がします」
アリエルが静かに笑う。
「その通り。エルフ語は——魔法言語なの」
展開1:言語が、プログラムになる瞬間
「人間の言葉は、情報を伝えるためにある」
アリエルが水晶球の中で手を動かす。
「でも、エルフ語は違う。音そのものが、マナを動かす」
彼女が何かを唱える。
「“Sil’en ara velth”」
水晶球が緑に光り——書斎の観葉植物が、一瞬で成長した。
新しい葉が、三枚。
「……今の、何を?」
「“森よ、応えよ”。直訳すると、そうなる」
アリエルが微笑む。
「でも、実際には——」
「“生命プロセスを加速せよ”、という命令」
ノートに書く。手が震える。
```
Sil = Tree()
En = Exist()
ara = Accelerate()
velth = LifeProcess()
→ Accelerate(LifeProcess(Exist(Tree())))
```
「……関数の、合成だ」
「そう解釈することもできる」
アリエルの声が真剣になる。
「でもレイ、焦らないで」
「言語は文化そのもの。構造を理解するのは良いけれど——」
「使いこなすには、森と共に生きる時間が必要」
胸に響く。
(急ぎすぎてる。いつも、そうだ)
「分かりました」
水晶球が消える。
一人になった書斎で、ノートを見つめる。
(魔法言語。世界に直接命令を送る、コード)
(これは——古代魔法理論に、繋がってるはずだ)
展開2:三つの点が、同時に脈動する
翌日。魔法協会。
「レイ、これを見て」
エドワードの声に、興奮が混じる。
観測装置の画面——三つの光点が、リズムを刻んでいる。
「三つのノードが……完全に同期してる」
「同期?」
「A、B、C——順番に反応した後、三つ同時にマナ密度が下がる」
エドワードが図を描く。
「タイミングが、完璧に一致してるんだ」
画面を凝視する。
(これは——中央制御だ)
「送信先が、同じ……?」
「おそらく」
エドワードが古い書物を取り出す。ページを開く。
そこに、一行だけ。
「“世界は、崩壊を防ぐため、自らを監視する”」
静寂。
「デモン監視システム……」
「君の仮説が正しければ、世界は常に——」
言葉を継ぐ。
「観測されてる」
背筋に、冷たいものが走る。
(僕の魔法も。ノートの内容も。全部、記録されてる?)
観測装置が、また脈動する。
三つの点が、世界の心拍のように。
展開3:手紙が告げる、辺境の異常
午後。帰宅すると、郵便が届いていた。
ダリウスからの手紙。
封を開ける——文字が、乱れている。
```
レイ
ダンジョンが連鎖してる。
一つ潰すと、近くに別のが出る。
カイルが怪我した。軽いけど、
今までと違うパターンだ。
来てくれないか。
```
手が、震える。
(連鎖——それは、システムの介入?)
ガルムが入ってくる。
「どうした」
手紙を見せる。
彼が眉をひそめる。
「行くのか?」
「……分からない」
窓の外、夕日が港を染める。
(ダリウスたちは、僕の最初の仲間だった)
(でも、留学準備も——)
選択が、重い。
展開4:家族会議——そして、決断
夜。食卓に、家族全員が集まる。
「ダリウスから、助けを求められた」
父が手紙を読む。
「辺境は今、戦争準備で緊張してる。危険だ」
母が不安そうに僕を見る。
「行くの……?」
沈黙。
考える。
(ダリウスたちは、僕がいなくても強い)
(でも、新しいパターンの魔物——解析が必要かもしれない)
(留学も、遅らせられない)
深呼吸。
「三日だけ、行きます」
父が頷く。
「ガルムと、護衛を二人つける」
「すぐ帰ってくるのよ」
母が手を握る。
「約束します」
決断が、固まる。
(ダリウス——待ってて)
クライマックス:禁書が示す、世界の骨格
深夜。父の書斎。
エルフ語の復習をしていると——本棚の奥に、古い背表紙が見えた。
(あれは……?)
手を伸ばす。埃まみれの革装丁。
タイトルが、かすれている。
「“Arcana Primus”……最初の魔法?」
ページを開く。
最初の一行が、目に入る。
「“警告:この書は、神代魔法理論を含む”」
息を呑む。
(これは——禁書だ)
でも、手が止まらない。
次のページ。図が描かれている。
```
世界の階層
Layer 0: 物理層
Layer 1: 情報層
Layer 2: 確率演算層
Layer 3: 創発層
Layer 4: 監視層
```
(世界OS——設計図だ)
手が震える。ページをめくる。
数式が並ぶ。
Ψ(t)、ΔS、Total_Mana——
(セラフィナが残した数式と、同じ……)
最後のページに、手書きの文字。
「“我々は、世界を壊した”」
「“神の力を求め、制御を失った”」
「“学べ。しかし、使うな”」
「“理解と実行の間には、深淵がある”」
涙が、にじむ。
(古代文明の——最後のメッセージ)
本を閉じる。
ドアが開く。
「……見つけたか」
父が、立っている。
「父さん、これは——」
「俺も昔、読んだ」
父が書斎に入る。
「商人ギルドの地下で、偶然見つけた」
「なぜ、隠してたんですか?」
「危険だからだ」
父が僕の肩に手を置く。
「でも——お前なら、正しく理解できると思った」
「アリエルに頼まれてた。準備ができたら、この本のことを伝えろと」
胸が、熱くなる。
「学べ、レイ。でも、暴走するな」
父の言葉が、心に刻まれる。
「理解と実行の間の、深淵を忘れるな」
「はい」
本を本棚に戻す。
窓から、月が見える。
マナ密度計——1.06。
わずかな上昇。
(世界は——僕を見てる)
(でも、それでも——知りたい)
エンディング:旅立ちの朝
翌朝。
ガルムと護衛二人が、馬車の前で待っている。
「準備はいいか」
「はい」
父が剣を渡す。
「護身用だ。使うな。逃げろ」
母が抱きしめる。
「三日で、必ず帰ってくるのよ」
「約束します」
馬車が動き出す。
窓から、港が遠ざかる。
ガルムが言う。
「レイ、お前は変わった」
「一年前より、強くなった」
「でも——優しさは、変わってない」
胸が温かくなる。
馬車が、森に入る。
遠く。シルヴァン・イーヴンリース。
アリエルが水晶球を見つめている。
「レイが——禁書を見つけた」
緑の瞳が、複雑に光る。
傍らのエルフが問う。
「彼を、受け入れるのですか?」
「受け入れる。でも——制御する」
「一年後、彼がここに来る」
「その時——真実を全て見せる」
「そして——選ばせる」
窓の外、森が広がる。
古代遺跡が、木々の奥に眠る。
風が吹く。葉が揺れる。月が昇る。
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第5章 第2話 完
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父から託された禁書「アルカナ・プリムス」は、古代文明の崩壊と世界の階層構造をレイに突きつける。
仲間からの救援依頼と禁断の知識、相反する重圧を背負いながらも、少年は自らの意志で護衛と共に危険な辺境へと馬車を走らせる。
最適化された選択は、次にどんな形で世界から返ってくるのか。
よろしければ、
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