【第4章 第1話】 八歳の誕生日と孤独な解析者
八歳の誕生日、レイの観測ノートには、観測ノードのデータに「異常パターン」が現れたことが記録される。
同じ頃、ギルドの使者がもたらした軍事演習開始の報は、平和な家族の団欒に冷たい影を落とし、世界の異変がレイの身近な場所へと迫り始める
オープニング
朝日が観測ノートを照らす。
```
送信周期: 10分03秒 → 9分58秒(変動)
魔法使用時の増加率: 1.47倍
異常パターン検出: 3回/週
```
八歳の誕生日。
データが——変わり始めてる。
「レイ!朝ごはんよ!」
母の声。
ノートを閉じる。
階段を駆け下りる。
誕生日の朝
食卓。
小さなケーキ。
蝋燭が八本。
「おめでとう」
父が笑う。
母が抱きしめてくれる。
温かい。
「願い事は?」
(システムを理解すること)
でも——
「家族が幸せでいること」
母が目を潤ませる。
「優しい子」
蝋燭を吹き消す。
煙が昇る。
この瞬間だけは——
解析も、システムも、忘れられる。
父の違和感
「そういえば」
父がケーキを切りながら。
「レイ、最近の本……難しくないか?」
「魔力循環理論とか」
母が頷く。
「八歳には……」
僕は笑う。
「数式で書けるんです、魔力の流れ」
「面白くて」
父が首を傾げる。
「普通の冒険譚とか、読まないのか?」
(読んだ。矛盾だらけだった)
「……今度、読んでみます」
母が微笑む。
でも——
その笑顔の奥に、少しだけ。
不安が見える。
戦争の影
午後。
玄関のノック。
ギルドの使者。
「アルタニア王国が軍事演習を開始」
書類を父に渡す。
「国境付近、三千の兵」
父の手が止まる。
「……戦争か」
母の顔が青ざめる。
「大丈夫?」
「分からん」
使者が去る。
静寂。
父が書類を握りしめる。
「準備、しておかないとな」
僕は——何もできない。
八歳の体では。
公園での実験
夕方。
「公園、行かない?」
母が背中を押す。
公園。
子供たちの笑い声。
鬼ごっこ。
かくれんぼ。
僕は——
マナ視覚化。
子供たちの周りに、色が見える。
赤——興奮。
黄——楽しさ。
青——安心。
「……仮説、正しい」
小声で呟く。
感情がマナに変換される。
ノートを——
「何してるの?」
女の子。
「……観察」
「変なの」
彼女が笑って走り去る。
僕の周りは——
灰色。
無彩色。
感情が、違う種類。
断絶
ベンチ。
一人。
子供たちの色が、眩しい。
母が隣に座る。
「大丈夫?」
「……うん」
嘘。
母が抱きしめてくれる。
「無理しなくていい」
「あなたのままで」
涙をこらえる。
(前世の記憶があるから)
(大人の思考があるから)
(合わないんだ、この世界に)
でも——
母の温かさは、本物だ。
夜の解析
部屋。
観測ノート。
今日のデータ。
```
誕生日: 八歳
感情マナ相関: 確認
戦争: 可能性大
孤独: 深化
次の目標: 異常パターンの原因特定
```
ペンを走らせる。
「観測ノードの送信先——」
「まだ、分からない」
窓の外。
観測ノードが光ってる。
世界が、見てる。
でも——
誰も僕を理解してくれない。
「……一人でも、やる」
父の言葉
ノック。
「入るぞ」
父。
「また研究か」
「観察です」
父が笑う。
「お前は変わってる」
「……ごめんなさい」
「謝るな」
父が頭を撫でる。
「変わってていい」
「でも」
父が真剣な顔。
「一人で抱え込むな」
「困ったら、言え」
「……はい」
ドアが閉まる。
少し——
楽になった。
ガルムの肯定
廊下の足音。
ガルム。
「眠れねぇのか」
「少し」
彼が座る。
「お前、変わってるよな」
「……知ってます」
「でもな」
ガルムが笑う。
「変わってるから、強い」
「普通の奴は世界を疑わねぇ」
「でも、お前は疑う」
「それが——強さだ」
彼が立ち上がる。
「一人でも大丈夫」
「お前には力がある」
去っていく。
一人。
でも——
孤独じゃない。
少しだけ。
エピローグ:観察者の視線
木の上。
銀髪の少女。
手のひらにデータが流れる。
観測ノードとは——違う。
別のシステム。
「八歳……早いわね」
彼女の瞳に、コードが走る。
レイと同じ——
解析のコード。
「レイ・ルーミナス」
「あなたは、まだ知らない」
風が吹く。
「でも——私は知ってる」
彼女が消える。
「あなたの未来を」
翌朝
朝日。
窓を開ける。
新しいデータが待ってる。
観測ノードの異常パターン。
戦争の気配。
そして——
「誰かが、見てる」
直感。
視線を感じる。
観測ノードじゃない。
別の——何か。
「……気のせいか」
階段を降りる。
家族が待ってる。
朝ごはん。
温かい。
この温かさがある限り——
僕は、諦めない。
世界を理解する。
システムを解析する。
「今日も、始まる」
ノートを手に取る。
新しい一日が——
動き出す。
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『第4章 第1話 完』
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同年代の子供たちとの決定的な断絶を感じたレイだが、父とガルムの言葉に支えられ、世界の真実を一人で解析し続ける孤独な決意を新たにする。
その裏側で、彼と同じ解析のコードを持つ銀髪の少女が、レイの未来を見通すかのように現れては消える。
最適化された選択は、次にどんな形で世界から返ってくるのか。
次回 第4章 第2話 制限解除の選択と新たな重圧
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