【第3章 第6話】 エルフの評価と人間の嫉妬
ギルドで冷たい視線に晒される中、エルフの学者アリエルから「古代知識の再現可能性が極めて高い」と評価され、エルフ領域への留学を提案される。
しかし、その特別な才能が故に、ギルドではベテラン冒険者による依頼の横取りや情報遮断といったあからさまな嫌がらせが始まる。
オープニング
ギルドの視線が、刺さる。
「……あれが、例の」
「エルフが認めたって?」
囁き声。
僕は受付に向かう。
背筋に冷たいものが這う。
(……また、始まった)
「レイ君、今日も?」
受付嬢が気まずそうに笑う。
「はい。依頼を」
カウンターに手を置く。
背後から、舌打ちが聞こえた。
アリエルの訪問
その日の夕方。
家に、アリエルが来た。
半年ぶりの定期測定。
「成長してるわね」
優雅な動作。
時間の流れを無視したような存在感。
「お久しぶりです」
僕は緊張する。
測定
「確率深度、0.28」
水晶球の数値。
「半年前より0.03上昇」
アリエルが呟く。
「実戦データも見たわ」
父が差し出した資料を手に取る。
「……6歳で、ここまで」
ページをめくる手が止まる。
「規格外ね」
警告
「でも」
アリエルが僕を見る。
目が、笑ってない。
「人間社会は、突出を嫌うわ」
「……知ってます」
僕は答える。
「今日も、ギルドで」
「そう」
アリエルが頷く。
「これから、もっと酷くなる」
エルフの評価
「エルフ長老会議の評価」
アリエルが資料を開く。
エルフ文字。
読めない。
「古代知識の再現可能性、極めて高い」
「……それって」
「あなたなら、失われた魔法を再現できる」
提案
「10歳になったら」
アリエルが言う。
「エルフ領域に来て」
「留学……ですか」
「正式に、魔法理論を学ぶの」
「古代の文献、遺跡、全てに触れられる」
僕の胸が高鳴る。
(すごい……でも)
「まだ、答えは出せません」
「構わないわ」
アリエルが微笑む。
「4年後。焦らなくていい」
「でも、覚えておいて」
「あなたは特別」
「エルフが認めた、人間の天才よ」
嫌がらせ
翌日。
依頼掲示板。
薬草採取の札に手を伸ばす。
——先に誰かが取る。
札が引き剥がされる音。
「悪いな、坊主」
ベテラン冒険者。
顔に傷。
「俺が先だ」
横取り
「でも……」
「エルフに気に入られてるんだろ?」
冒険者が睨む。
「こんな雑用、天才様には不要だろ」
周囲が笑う。
「そうだそうだ」
僕は何も言えない。
(ギルド規約第12条……先着順のはず)
(でも……言えない)
父が前に出る。
「失礼します」
冒険者を押しのける。
別の依頼を取る。
「……行くぞ、レイ」
「はい」
僕は俯く。
情報非共有
森。
依頼中。
ベテランパーティとすれ違う。
「この先、魔物は?」
父が聞く。
「さぁな」
冒険者が肩をすくめる。
「天才様じゃねぇから、分かんねぇよ」
嘘
僕は黙る。
(嘘だ)
(マナの流れ、見えてたはず)
(でも……教えてくれない)
父が僕の肩を叩く。
「気にするな」
「……はい」
(気にしないなんて、無理だ)
帰宅
家。
母が待ってる。
「おかえり」
「ただいま」
晩御飯。
でも、箸が進まない。
「……母さん」
「何?」
「僕……何か悪いことした?」
母が箸を置く。
父と顔を見合わせる。
「どうして?」
「ギルドで、依頼を取られる」
「情報も、教えてくれない」
真実
「……レイ」
父が口を開く。
「お前の普通が、周囲の異常なんだ」
「……え?」
「エルフに認められた6歳」
「周りの大人は……面白くない」
「理解されない。だから……」
「妬まれる」
母が僕の手を握る。
「あなたは悪くない」
「でも……世界は、そういうもの」
僕は俯く。
(悪くない?)
(でも、嫌われてる)
涙が出そうになる。
我慢する。
夜
部屋。
ベッドに入る。
眠れない。
(努力してるのに)
(ちゃんとやってるのに)
(嫌われる……)
窓の外、月。
独白
(悪意の理由が、分からない)
(プログラムにはなかった『感情的バグ』)
(この世界には……ある)
(デバッグ、できるのか?)
(それとも……僕が、バグなのか)
クレーム
翌日。
ギルド。
受付嬢が申し訳なさそうに言う。
「レイ君……」
「はい?」
「今日の依頼……少し待ってもらえる?」
「……どうしてですか?」
視線を逸らす。
「他の冒険者から、クレームが」
「『子供が依頼を取りすぎる』って」
「『大人の仕事を奪ってる』って」
僕は絶句する。
「……でも」
「僕、ちゃんと完了してます」
「分かってる。でも……」
受付嬢が頭を下げる。
「ごめんなさい」
父の交渉
父がカウンターを叩く。
「おかしいだろう!」
「レイは規則を守ってる!」
「それを……」
「すみません」
受付嬢が小さくなる。
「上からの指示で……」
ギルドマスター
「私から説明しよう」
奥からギルドマスター。
老人。
厳しい顔。
「レイ君」
「……はい」
「君は優秀だ」
「しかし……ギルド内の調和も大切だ」
「当面、依頼は週2回まで」
「他の冒険者に配慮してほしい」
僕は何も言えない。
(規則に基づけば、僕を制限する理由は存在しない)
(でも……言えない)
父が口を開きかける。
受け入れ
「分かりました」
僕が答える。
「週2回。守ります」
「レイ……」
父の声。
「大丈夫です」
僕は笑顔を作る。
(大丈夫じゃない)
(でも……これが、現実)
エピローグ
家。
母が抱きしめる。
「辛かったわね」
「……平気です」
「平気じゃないでしょ」
母の声が震える。
「我慢しなくていいのよ」
涙
僕は泣く。
声を殺して。
「……悔しい」
「何も悪いことしてないのに」
「ちゃんとやってるのに」
「嫌われる……」
母が強く抱きしめる。
「あなたは、悪くない」
何度も言う。
決意
夜。
涙が止まった。
ベッドに座る。
(週2回でも、やれる)
(魔法の研究は、続けられる)
(家族が、いる)
(……それで、十分だ)
窓の外、星空。
新しい出会いの予感
その時。
窓の外、庭。
誰かがいる。
小さな影。
月光に照らされた銀髪。
——女の子?
僕と目が合う。
一瞬。
驚いたような顔。
でも、すぐに笑う。
手を振る。
「……誰?」
立ち上がる。
窓を開けようとする。
でも——
影が消える。
風のように。
「……幻?」
僕は首を傾げる。
(でも……確かに、いた)
(あの笑顔……)
ベテラン魔法使いの罠
別の場所。
酒場の個室。
3人の魔法使い。
「あのガキ……調子に乗ってる」
「試してやろうぜ」
リーダーが笑う。
不気味な笑み。
「危険な依頼に誘導する」
「家族が同行できない時を狙う」
地図を広げる。
「森の奥、魔物調査」
「危険度は中級だが……」
「依頼書には『低級』と書く」
「ガキ一人で行かせる」
「……死んだら、まずいだろ」
仲間が不安そうに言う。
「死なせる気はない」
リーダーが笑う。
「ただ……恐怖を味わわせる」
「天才の化けの皮を剥がす」
3人が頷き合う。
「明後日、決行する」
画面に映る僕の顔。
謎の観察者
別の場所。
木の上。
銀髪の少女。
さっきの影。
「……面白い子」
呟く。
「泣いてた」
「でも……諦めてない」
月を見上げる。
「お父様の言った通り」
「特別な子だわ」
微笑む。
「また、会いましょう」
「レイ・ルーミナス」
風と共に消える。
翌朝。
ギルド。
「レイ君、今日は?」
「依頼、お願いします」
僕は笑顔を作る。
(負けない)
(嫌われても)
(妬まれても)
(僕には……やるべきことがある)
周囲の冷たい視線。
「頑張ろう」
父が肩を叩く。
「ああ」
ガルムが頷く。
(家族が、いる)
(……それで、十分だ)
(でも……)
胸の奥、小さな疑問。
(あの子は……誰だったんだろう)
(また、会えるかな)
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第3章 第6話 完
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ギルドマスターの裁定により「依頼は週2回まで」という不当な制限を受けながらも、主人公は「悔しさ」を胸に受け入れる。
その夜、彼は窓の外で銀髪の謎の少女と一瞬目が合うが、同時に、彼を陥れようとするベテラン魔法使いたちの罠が密かに仕掛けられ始めていた。
最適化された選択は、次にどんな形で世界から返ってくるのか。
次回 第3章 第7話 試練という名の罠
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