【第3章 第1話〜第4話:最近のあの子の噂】
六歳にして冒険者ギルドの準会員となった少年レイ。
地味な薬草採取でベテランを凌ぐ効率を見せ、魔法協会すらも困惑させる異質な術理を展開し始める。
周囲の大人が抱く「教わる」ことへの羞恥は、いつしか時代の変わり目への予感に塗り替えられつつあった
ルミナス港・波止場近くの酒場
時刻:夕刻、仕事終わり
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「なあ、レイのガキが冒険者になったらしいぞ」
「マジで? 6歳で?」
「ああ。準会員だけど」
「準会員って……冒険者じゃん」
グラスを置く音。
「で、何やったんだ?」
「薬草採取」
「……地味だな」
「地味どころじゃねえよ」
別の男が口を挟む。
「ベテランのグレンが道案内したんだけど、レイが『こっちです』って」
「で?」
「半分の時間で着いた」
「半分?」
「しかも薬草が山ほど」
誰かが吹き出す。
「ベテランが6歳に道教わってんのか」
「教わってるっていうか……ついてくだけ」
「シュールすぎだろ」
また笑い。
「グレン、メンツ丸潰れじゃん」
「メンツっていうか、実益取ったんだろ」
「……現実的だな」
「現実的っていうか、時代が変わったんだよ」
「……確かに」
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同じ酒場、別のテーブル
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「なあ、レイが薬草の根っこ残したって本当か?」
「根っこ?」
「ああ。切ったらしい」
「……なんで切るんだ?」
「根を残せば来年も生えるって」
沈黙。
「……え、それ普通じゃね?」
「普通じゃねえよ」
「俺なんて30年冒険者やってるけど、引っこ抜いてたぞ」
「俺も」
「俺も同じ」
「じゃあ、今まで無駄にしてたってこと?」
「……無駄だな」
誰かがため息。
「6歳に教わるとか……恥ずかしくね?」
「恥ずかしいけど、来年も採れるなら得だろ」
「……まあな」
「効率的って言ってたらしいぞ」
「効率って……6歳の言葉じゃねえだろ」
「だよな」
また笑い。
「でも、報酬1.5倍もらったらしいぞ」
「マジで?」
「品質が良かったって」
「……俺も切ろうかな」
「お前、やり方知ってるのか?」
「知らねえよ」
笑い声。
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ギルド受付カウンター近く
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「ねえ、聞いた? 協会の支部長が来たらしいわよ」
「支部長? あのセドリック?」
「そう。レイ君の魔法を見たくて」
「で、どうなった?」
「光球魔法を見せたんですって」
「光球? 普通じゃん」
「普通じゃないのよ。ほとんどマナ使ってないって」
「ほとんど?」
「ええ。普通の10分の1以下らしいわ」
誰かがグラスを傾ける音。
「……マジかよ」
「しかも、10分以上消えなかったって」
「10分? 通常は3分だろ?」
「3分のはずなのよ。でもレイ君のは延々と」
「……もう訳わかんねえな」
「訳わかんないっていうか、次元が違うのよ」
受付嬢が書類を整理する。
「あと、変な図を描いて説明してたらしいわ」
「変な図?」
「四角と矢印がいっぱい」
「……何それ」
「知らないわよ。《ここと、ここが無駄です》って言ってたらしいけど」
「6歳が無駄とか言うのか……」
「言うのよ。レイ君は」
また笑い。
「で、協会はどう反応したの?」
「揉めてるって」
「揉めてる?」
「ああ。革新派と保守派に分かれたって」
「……ああ、そうなるわな」
「そうなるよね」
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最初のテーブル(再び)
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「なあ、レイがダンジョン行ったらしいぞ」
「マジで? 6歳で?」
「ああ。調査依頼」
「で、どうだった?」
「罠の場所も魔物のパターンも全部分かったって」
「全部?」
「全部」
沈黙。
「……エスパーか?」
「エスパーっていうか、マナの流れが見えるらしい」
「またそれか」
「またって、見えるんだから仕方ねえだろ」
「でも、ダンジョンの中まで見えるって……」
「透視だろ、もう」
「透視っていうか……生きた地図?」
「生きた地図って……」
誰かが吹き出す。
「でも、便利だよな」
「便利っていうか、罠も避けられるなら安全じゃん」
「報酬も上がるし」
「夢があるな」
グラスを傾ける音。
「つーか、ダリウスのパーティに入ったんだろ?」
「入ったっていうか、誘われた」
「戦術提案が完璧だったって」
「……6歳が戦術?」
「6歳が戦術」
「もう、何でもありだな」
「何でもありっていうか……時代が変わったんだよ」
「変わりすぎだろ」
「お前が年取っただけだ」
笑い声。
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ギルド掲示板前(夕方)
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「なあ、これ見ろよ」
「何?」
「レイの呼び名、また増えてる」
「どんな?」
「《マナが見える子》《6歳の参謀》《効率の化身》」
「効率の化身って……」
誰かがため息。
「もう、何が本当か分かんねえよ」
「本当っていうか、全部本当なんだろ」
「全部本当とか、やめてくれ」
また笑い。
「でも、パーティに入ったってことは仲間ができたのか?」
「仲間……どうだろうな」
「どういう意味だ?」
「いや、なんか距離があるって聞いたぞ」
「距離?」
「ああ。年齢差もあるし、才能が違いすぎて」
「……まあ、そうなるよな」
「6歳と20代じゃあな」
沈黙。
「でも、頼りにはされてるんだろ?」
「頼りにされるのと、仲間は違うだろ」
「……確かに」
「でも、レイはどう思ってるんだろうな」
「どうって?」
「嬉しいのかな。認められて」
「……嬉しいんじゃね? 普通」
「普通、か」
「普通って何だろうな」
グラスを置く音。
「怖いけど——」
「怖いけど?」
「頼もしいだろ?」
「……まあな」
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ギルド掲示板(翌朝)
貼り紙が更新されていた。
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【港の噂】
あの子が6歳、冒険者デビュー
・薬草採取で半分の時間(道案内?)
・根っこ残して来年も(効率的)
・協会支部長が来訪(魔法チェック)
・光球のマナ、ほとんど使わない
・ダンジョン調査で罠も魔物も把握
・ダリウス隊に参加(戦術提案)
【新しい呼び名】
マナが見える子/6歳の参謀
効率の化身/生きた地図
【噂】
・協会で揉め事
・パーティに入ったけど距離あり
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誰かが落書きを追加する。
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「もう何でもありだな」
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別の誰かが返信。
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「時代が変わった」
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さらに別の誰かが追加。
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「俺も一緒に潜りたい」
```
またさらに別の誰かが返信。
```
「でも会話合わなそう」
```
最後に。
```
「それでも仲間になれるかな」
```
そして、隅っこに小さく。
```
「……応援したいな」
```
その下に、別の筆跡。
```
「俺も」
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【サブログ 終了】
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レイの存在は、既存の戦術や魔法の常識を根底から揺さぶり、ギルド内に「効率の化身」という新たな呼び名を定着させる。
だが、その圧倒的な才能ゆえに生じる周囲との距離は、彼を頼もしい協力者としながらも、どこか異質な存在として際立たせていた。
小さな背中が示す合理性は、次に誰の常識を書き換えてしまうのか。
次回 第3章 第5話 密猟者と正義の境界
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