【第3章 第2話】 魔法使いの常識、プログラマーの非常識
協会支部長の訪問と、その場で披露された「無駄を削っただけの光球魔法」。
主人公はまだ知らない。
この効率的な一歩が、世界の魔法体系と、大人たちの常識そのものを揺るがし始めていることを。
朝。誰かがドアを叩いた。
「ルミナス港魔法使い協会支部長のセドリックです」
父が玄関を開ける。顔が強張る。
「……協会の、支部長が?」
応接室
支部長は痩せた老人だった。長いローブ。杖。鋭い目。
「噂を聞きました。6歳の準会員が、独自魔法で最短ルートを発見したと」
「……はい」
「魔法を見せていただけますか?記録したい」
僕は父を見る。父が頷く。
「……わかりました」
支部長の後ろ。協会員が3人。若い男。中年の女性。老魔術師。
みんな、じっと僕を見てる。
(……緊張する)
実演
僕は手を前に出した。
「光球魔法です」
術式を構築。詠唱は省略。
——5秒。
光球が浮かぶ。
小さな太陽みたいに輝く。揺らぎゼロ。
支部長が測定器を取り出した。
「……マナ密度1.2。完全に安定してる」
器具が数値を表示する。
「消費マナは……9単位?」
「……はい」
僕は答える。
中年の協会員が叫ぶ。
「9単位!? 通常は100単位のはずだ!」
若い協会員が目を見開く。
「1/10以下……詠唱も省略……」
「しかも……」
老魔術師が呟く。
「10分経っても消えない。通常は3分が限界だ」
光球はずっと浮いてる。微動だにしない。
支部長が息を呑む。
「これが……お前の『普通』なのか?」
「……はい。なんで驚くんですか?」
説明
僕は紙を出した。フローチャートを描く。
「通常の光球魔法は、こう」
矢印。ステップを描く。
「マナ集束→確率操作→安定化→持続→解放」
「でも……」
×印をつける。
「ここと、ここが無駄です」
「最適化すれば……3ステップで充分」
支部長が図を凝視する。手が震えてる。
中年の協会員が呟く。
「……理論は分かる。でも……」
若い協会員が興奮する。
「天才だ!」
老魔術師が首を振る。
「異端だ」
父が頭を抱える。(また揉めてる……)
詳細
「詳しく説明してくれ」
支部長が言う。
「……はい」
僕は図を指差す。
「マナ集束。通常は半径1mで100単位。でも……必要なのは10単位だけ」
「だから……半径0.3mで10単位」
老魔術師が口を挟む。
「範囲が狭すぎる。制御できない」
「……できますよ?」
僕は首を傾げる。
「マナの流れが見えるから」
「見える……?」
「はい。だから……正確に絞れます」
実験
「では……試してみよう」
支部長が言う。
若い協会員が前に出る。
「やってみます」
手を前に。集中する。
「マナ集束……半径0.3m……」
汗が額に滲む。
「……狭すぎる。制御できない」
光球が揺らぐ。消える。
中年の協会員が試す。
「確率操作……範囲を絞って……」
彼女の手が震える。
「……感覚で決めてる。正確に絞れない」
光球が歪む。消える。
老魔術師が最後に試す。
「安定化……一重だけ……」
魔法を発動。
光球が浮かぶ——が、すぐに揺らぐ。
「……持続しない」
消える。
「……」
支部長が僕を見る。深いため息。
「お前は……特別だ」
「……そうなんですか?」
僕は驚く。
「ふつうに……できると思ってました」
「普通じゃない」
支部長が苦笑する。
「その『普通』がね……」
協力要請
「協会として、お願いしたい」
支部長が言う。
「月に一度、魔法の実演を」
「……毎月?」
「研究のために」
僕は父を見る。
「月一回なら……」
父が言う。
「でも、冒険の邪魔にならない範囲で」
「もちろんだ」
支部長が頷く。
帰宅後
「疲れた……」
僕は椅子に座る。
「大変だったね」
母が紅茶を出す。
「なんで……あんなに驚くんだろう」
「無駄削っただけなのに」
母が微笑む。
「あなたの『普通』は、他の人の『天才』なのよ」
「……そうなのかな」
「そうよ。でも、それで良いの」
母が僕の頭を撫でる。
夜
父と母の会話。
「また注目されてる」
母が心配そう。
「……ああ」
父が黙る。
「でも……協力関係なら、守ってもらえる」
「……そうね。でも……目立ちすぎないか心配」
「俺たちが見守る。それしかできない」
エピローグ
協会内部。会議室。
「彼の魔法は……革新だ」
支部長が言う。
老魔術師が反論する。
「危険だ。既存の体系を否定する」
若い協会員が声を上げる。
「でも、効率化は事実だ!」
中年の協会員が冷静に言う。
「それが……問題なのです」
協会内。革新派と保守派が対立し始めた。
デモン監視システム。
画面に映る主人公の顔。
警戒度、微増。
その夜。
僕は窓から星を見てた。
「冒険の方が……楽しいな」
協会は……難しい。
母が来る。
「どうしたの?」
「……なんでもない」
僕は笑う。
「明日、また依頼受けたい」
「……そう。じゃあ、早く寝なさい」
「……うん」
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第3章 第2話 完
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常識を覆す魔法は事実として記録された。
だがその代償として、魔法使い協会内部に革新と保守の新たな対立構造が生まれる
最適化された選択は、次にどんな形で世界から返ってくるのか。
次回 第3章 第3話 小さなダンジョンと大きな発見
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