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【第8章 第4話】 揃った脈動

測定器を失い、自らの目とストップウォッチで世界に向き合い始めた主人公。

そこで目にしたのは、昨日までの揺らぎが嘘のように「一秒ちょうど」で揃った不気味な脈動だった。

──完璧すぎる同期は、世界が次のフェーズへ移行するためのカウントダウンに他ならない。

朝。


窓を開ける。


測定器は、もうない。


昨日、さよならを言った。


三十三日間、ありがとう。


でも、俺たちには、まだ目がある。


「……レイ」


セラが、隣に立つ。


窓の外を見る。


北。


塔が、光ってる。


黄色。


昨日と、同じ。


「……変わってない?」


「はい。でも——」


セラが、目を細める。


「脈動、測れますか?」


「……ストップウォッチ、持ってくる」


部屋の隅から、持ってくる。


窓辺に戻る。


光る。


ボタンを押す。


光る。


止める。


「……一秒ちょうど」


「……え?」


セラが、振り向く。


「一秒?」


「ああ」


もう一度。


光る。


押す。


光る。


止める。


「……一秒」


もう一度。


「……一秒」


三回連続。


完全一致。


「……昨日は?」


「昨日は……0.8、0.9、1.2……バラバラだった」


「それが、今日は——」


「一秒ちょうど。三回とも」


二人、顔を見合わせる。


「……揺れが、ない」


レイが、呟く。


「完璧すぎる」


「……はい」


セラが、頷く。


「機械的です」


「昨日の不規則の方が——」


「自然でした」


沈黙。


レイが、ノートを開く。


三十三日分の記録。


脈動間隔の変化。


三秒。


二秒。


一秒。


不規則。


そして——


「……揃った」


「はい。でも——」


セラが、北を見る。


「なんで、揃ったんでしょう」


「……分からない」


「もし準備なら——」


「次に、何が起きる?」


「……色が変わるかもしれません」


「橙?」


「はい。波長順なら」


「他には?」


「……音、かもしれません」


セラが、考える。


「振動、かもしれません」


「何かが——」


「来る、かもしれません」


二人、黙る。


レイが、ノートに書く。


34日目、

早朝脈動:1.0秒(誤差ゼロ、三回確認)


色:黄色(変化なし)


仮説C:否定 → 再解釈脈動は安定ではなく、揃った異常に正確。


機械的次の変化:色?音?振動?何か?


「……セラ」


「はい」


「今日、東に行こう」


「補助装置?」


「ああ。昨日見つけたあれが、本当に中継なら——」


「何が分かりますか?」


「……分からない。でも——」


レイが、東を見る。


「確かめたい」


「……賛成です」


セラが、頷く。


「記号、見てみましょう」


「ああ」


二人、窓を閉める。


港。


朝の光。


漁船が、二隻。


昨日と、同じ。


でも——


「……網、多い」


レイが、呟く。


甲板に、銀色が跳ねてる。


魚。


昨日より、明らかに多い。


「……戻ってきたんだな」


ガルムが、隣で呟く。


「海が」


「ああ」


「……いつから?」


「分からん。でも——」


ガルムが、港を見る。


「最近だ」


「脈動が揃った日から?」


「……かもな」


三人、歩く。


漁師が、こっちを見る。


視線。


「……あの子たちが」


「……塔を」


小声。


でも、聞こえる。


レイ、俯く。


「……目立ってる」


「はい」


セラが、小さく答える。


「でも、仕方ありません」


「……そうだな」


ガルムが、前を歩く。


「気にするな」


「……ああ」


港を抜ける。


東へ。


二百メートル。


塔までの、三分の一。


「……あそこ」


レイが、指差す。


石柱。


半ば、埋もれてる。


「……昨日と、同じ」


ガルムが、呟く。


「変わってない」


「ああ」


三人、近づく。


レイ、しゃがむ。


石の表面。


記号。


六つ。


螺旋状に、刻まれてる。


「……塔と、似てる」


「はい。でも——」


セラが、隣にしゃがむ。


「半分です」


「塔は十二個。これは六個」


「……意味、あるのかな」


「あります」


セラが、記号をなぞる。


「六個で一つの処理、のはずです」


「……処理?」


「はい。塔は、四段階でした」


レイ、思い出す。


一から三。


受け取り。


四から六。


変換。


七から九。


出力。


十から十二。


復元。


「じゃあ、これは——」


「たぶん、二段階」


セラが、記号をなぞる。


「一から三。受け取り」


「四から六。出力」


「……変換は?」


「ないかもしれません」


「……なんで?」


「中継なら——」


セラが、振り向く。


「受け取って、送るだけ」


「……シンプル」


「はい。だから、小さい」


レイ、頷く。


ノートを開く。


スケッチ。


記号を、描く。


一つ目。


二つ目。


三つ目。


「……セラ、これ」


「はい?」


「一つ目、塔の一つ目と同じじゃない?」


セラ、覗き込む。


「……同じです」


「二つ目も」


「はい」


「三つ目も」


「……そうです」


二人、顔を見合わせる。


「前半三つ、塔と同じ」


「受け取りの記号」


「じゃあ、四から六は——」


レイ、スケッチを続ける。


四つ目。


「……あ」


「……どうしました?」


「これ、塔の七つ目と同じだ」


「……七つ目?」


セラ、ノートを見る。


沈黙。


「……本当です」


「五つ目は?」


レイ、描く。


「……八つ目」


「六つ目は?」


「……九つ目」


二人、黙る。


「……つまり」


レイが、呟く。


「前半三つは、塔の前半三つ」


「後半三つは、塔の後半最初の三つ」


「受け取って——」


「出す」


「……変換なし」


「たぶん、中継」


セラが、頷く。


「仮説D、ほぼ成立です」


「完全に?」


「いえ」


セラが、立ち上がる。


「なぜこの位置なのか、分かりません」


「……二百メートル」


「はい。塔までの三分の一」


「規則的?」


「たぶん。でも——」


セラが、周囲を見る。


「確証がありません」


「……他にも、あるってこと?」


「はい」


「どこ?」


「分かりません。でも——」


セラが、考える。


「もし規則配置なら——」


「他にも、見つかるはず」


レイ、立ち上がる。


ノートに書く。


仮説E:補助装置の規則配置


成立条件:他の補助装置が見つかる


否定条件:ここだけ検証方法:探す


「……どっち探す?」


「西か、南」


「……どっちが近い?」


「たぶん、西」


「じゃあ、西」


ガルムが、頷く。


「行くか?」


「……今日は、ここまで」


レイが、首を振る。


「もう少し、ここ見る」


「……何を?」


「埋もれてる部分」


レイ、石柱を見る。


「本当に六個だけか、確かめたい」


ガルムが、手で掘る。


土が、崩れる。


石が、現れる。


「……深い」


「どれくらい?」


「まだ、見えない」


レイ、しゃがむ。


土を、払う。


石の表面。


記号の、続き。


「……あ」


「……どうした?」


「記号、まだある」


「……下に?」


「ああ」


セラ、覗き込む。


「……七つ目?」


「いや——」


レイ、土を払う。


「これ、区切りだ」


「……区切り?」


「ああ。塔の六つ目と十二個目にあった」


「線が、一本多い」


「……じゃあ」


セラが、息を呑む。


「六つじゃない」


「……十二個?」


「可能性、あります」


ガルム、掘り続ける。


土が、崩れる。


石が、深い。


「……レイ」


「ん?」


「無理だ」


「……なんで?」


「深すぎる。このままだと——」


ガルムが、手を止める。


「崩れる」


「……壊れてる、のかな」


「壊れてる」


ガルムが、断言する。


「完全じゃない」


「……そっか」


レイ、立ち上がる。


ノートに書く。


補助装置、


地下部分あり記号、


六つ以上の可能性区切り記号確認完全な構造、


未解明劣化・破損の可能性ガルム


「……帰るか」


「はい」


三人、石柱を離れる。


港を通る。


漁船。


網。


銀色。


「……増えてる」


レイが、呟く。


「魚」


「ああ」


ガルムが、頷く。


「海が、戻ってる」


「……塔が、治したのかな」


「分からん。でも——」


ガルムが、港を見る。


「いいことだ」


「……うん」


セラが、黙ってる。


「……セラ?」


「……レイ」


「ん?」


「私たち、何を直したんでしょう」


「……え?」


「塔を、修復しました」


「ああ」


「循環が、起動しました」


「うん」


「海が、戻ってきました」


「……そうだな」


「でも——」


セラが、立ち止まる。


「何を、直したんでしょう」


「……分からない」


レイ、正直に言う。


「まだ、分からない」


「……でも」


「でも?」


「もし他の地域でも——」


セラが、考える。


「同じ変化が起きているなら」


「……分かるかも?」


「はい」


セラが、レイを見る。


「エルネストに、聞いてみましょう」


「……他の塔の報告?」


「はい」


「……そうだな」


レイが、頷く。


「確かめよう」


二人、歩き出す。


ガルムが、前を歩く。


部屋。


窓を開ける。


北。


塔が、光ってる。


黄色。


「……まだ、黄色」


「はい」


「一秒、ちょうど?」


レイ、ストップウォッチを持つ。


光る。


押す。


光る。


止める。


「……一秒」


もう一度。


「……一秒」


「変わりませんね」


「ああ。完璧に」


レイ、ノートに書く。


34日目、

夕方脈動:1.0秒(誤差ゼロ継続)


色:黄色


補助装置:記号六つ以上、地下部分あり、破損?


仮説E:検証中


次の変化:色?音?振動?何か?


「……セラ」


「はい」


「明日、西に行こう」


「補助装置、探しますか?」


「ああ」


「……賛成です」


セラが、頷く。


「もし見つかれば——」


「規則配置、確定する」


「そうしたら——」


「北の役割も、分かるかも」


「……うん」


レイ、窓を閉める。


「じゃあ、明日」


「はい」


「一緒に」


「……一緒に」


二人、ベッドに座る。


ガルムが、床で丸くなる。


夜。


静か。


でも——


北の空に。


黄色い光が、脈打ってる。


一秒。


一秒。


一秒。


揺れが、ない。


完璧すぎる。


何かが、揃った。


だとしたら——


次は?


まだ、分からない。


-----

(第8章 第4話 終)

-----

埋もれた石柱に刻まれた記号を読み解き、それが塔の機能を補完する「中継点」である確信を得た。

だが、規則的に並ぶはずの補助装置の全貌は、いまだ土の下に隠されたままだ。


次に主人公は、この仮説を証明するためにどの“地点”へ踏み出すのか。


よろしければ、ブックマークで続きを追っていただけると嬉しいです。

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