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【第8章 第3話】 黄色の塔と埋もれた柱

測定器が指し示す東の微弱な反応。

その正体を突き止めるべく、主人公は人目を避けて早朝の街外れへと踏み出した。

──地図にも記録にもない「埋もれた遺物」が、世界の循環の真実を語り始める。

早朝の窓辺


空が白み始めた頃、俺は窓辺に立っていた。


測定器を東へ向ける。


光る。


昨日より、強い。


「……また、強くなってる」


後ろから、セラの気配。


「はい。昨日の1.2倍くらい」


振り返る。


セラが測定器を覗き込んでいる。


肩が触れる距離。


「これ……なんだろうな」


「北じゃない、東」


セラが頷く。


「測定器の反応、北は限界です」


「でも、東は測れる」


「ということは……」


俺は測定器を見る。


明滅が規則的だ。


「東に、何かある」


「そうですね」


セラが地図を広げる。


港町の簡易的な図。


「塔は、ここ」


指先が東の海岸を示す。


「測定器の反応が強いのは……」


俺が手を伸ばす。


塔より少し内陸。


「この辺り?」


「可能性があります」


窓の外を見る。


まだ暗い。


街灯の光だけが道を照らしている。


「……もし、東に干渉源があるなら」


「近づけば、反応が変わるはず」


セラが即座に続ける。


「変わらなければ?」


俺は考える。


「測定器の誤差」


「または……」


セラが地図に視線を落とす。


「全域が均一に強い。点源ではない」


「それだと、干渉源じゃない」


「ええ」


二人で黙る。


外から、波の音。


規則的で、穏やかだ。


「……もし補助装置なら」


セラが呟く。


「塔より、小さいはず」


「補助装置?」


「中継点」


セラが地図を見る。


「塔へマナを送る、補助的な装置」


「機能が限定されるなら……」


「記号も、少ないかもしれません」


俺は頷く。


「確かめよう」


セラが顔を上げる。


「東へ、行きますか?」


「測定器の反応を、距離で追う」


「強くなる地点を見つける」


「反対側に回れば、弱まるはず」


セラが頷く。


「それで、位置が分かります」


「ただし……」


俺は測定器を見る。


「これ、東でも飽和するかもしれない」


「可能性はあります」


「それに……」


セラが窓の外を見る。


「目立ちます」


ああ。


「港町の人たち、私たちを見てます」


昨日の視線を思い出す。


「あの子たちが……」という囁き。


「……早朝なら」


セラが俺を見る。


「人が少ない」


「迂回路を使えば、目立ちません」


俺は頷く。


「測定器が飽和しても、目で見れば分かるかもしれない」


「入口だけ、確認する」


「深入りしない」


セラが測定器を手に取る。


「観測優先。接触は最小限」


「もし危険なら、すぐ戻ります」


「……ガルムは?」


「父さんの指示で休ませてる」


「でも、連れて行きます」


セラが頷く。


「三人で」


「ああ」


窓の外が少し明るくなった。


「行こう」


東への移動


宿を出る。


ガルムが待っていた。


「東」


短く言う。


ガルムが頷く。


「俺が先」


「頼む」


三人で歩き出す。


港を避けて、北側の路地を抜ける。


迂回路だ。


人通りがない。


石畳の音だけが響く。


ガルムが先を行く。


耳を立てて、周囲を警戒している。


俺は測定器を持つ。


東へ向けたまま。


光っている。


明滅が規則的だ。


「反応、変わらない?」


セラが聞く。


「まだ同じ」


「距離は?」


「宿から……五十メートルくらい?」


セラがノートに記録する。


「基準値、1.0」


「ああ」


さらに進む。


路地を抜けると、視界が開ける。


東の空が赤く染まり始めている。


測定器を見る。


「……強くなった」


セラが即座にノートを開く。


「どのくらい?」


「分からない。でも、確実に強い」


「距離は?」


周囲を見る。


目印になる建物を探す。


「百メートルくらい?」


セラが記録する。


「推定1.3」


「もし補助装置なら……」


セラが呟く。


「この距離で反応が出るのは自然です」


「塔より近い位置にあるはず」


「進みます」


ガルムが振り返る。


「危険、ない」


「ただ……」


「何か、ある」


俺はガルムを見る。


「東に?」


「ああ」


三人で視線を交わす。


「行こう」


さらに東へ。


街の外れに出る。


建物が減り、草地が広がる。


海が近い。


波の音が大きくなる。


測定器を見る。


「……これ」


セラが覗き込む。


「強いです」


「昨日の、倍以上」


俺は測定器を持ち直す。


明滅が速い。


「ここ……?」


周囲を見回す。


草地。


海。


岩。


特に目立つものはない。


「でも、何もない」


セラが地図を広げる。


「位置的には……」


指先が地図上を動く。


「港町から東へ二百メートル」


「塔までの、三分の一」


俺は測定器を少し動かす。


北へ向けると、光が消える。


東へ戻すと、また光る。


「……方向、合ってる」


「でも……」


セラが前を見る。


「何もありません」


ガルムが一歩前に出る。


「ここ……」


「何か、埋もれてる」


「え?」


ガルムが地面を指す。


「ここ、昔、もっと大きかった」


俺とセラが地面を見る。


草が生えている。


石が散らばっている。


でも……


「これ……」


セラが屈む。


石の一つを手で払う。


表面に、線が見える。


「刻印……?」


俺も屈む。


石の表面をなぞる。


幾何学的な線。


規則的で、意図的だ。


「……記号?」


セラが息を呑む。


「塔と、似てます」


二人で顔を見合わせる。


「これ……」


「ずっとここにあった」


俺は石を見る。


「俺たち、知らなかった」


セラが頷く。


「ずっと、埋もれてた」


周囲の石を確認する。


いくつかに、同じような刻印がある。


「構造物……?」


ガルムが地面を掘り始める。


土が崩れる。


下から、石の表面が現れる。


「……柱?」


セラが測定器を向ける。


「反応、ここです」


「ここが、最大」


俺は石の表面を見る。


高さは……地面から一メートルくらい見えている。


でも、もっと深く埋まっているかもしれない。


「これ、何だ?」


セラが石を観察する。


「塔より、小さいです」


「記号も……」


指先でなぞる。


「六つ?」


「塔は十二個」


「半分……」


俺は測定器を見る。


「反応は強い」


「でも、塔ほどじゃない」


セラが頷く。


「機能も、半分かもしれません」


「半分?」


「補助装置……」


セラが俺を見る。


「塔へマナを送る、中継点の可能性があります」


「中継……」


俺は石柱の向きを確認する。


「これ、方向が……」


セラが気づく。


「塔を、向いてます」


「マナ、流れてる?」


セラが測定器を持つ。


石柱と塔の間に向ける。


「……反応、あります」


「弱いですけど」


「流れてる」


俺は石柱を見る。


表面の記号。


螺旋状の配置。


塔と似ている。


でも、数が少ない。


簡略化されている。


「……もし補助装置なら」


セラが呟く。


「塔の周りに、規則配置されてるはず」


「規則配置?」


「螺旋状」


セラが地図を広げる。


「十二の塔と、同じパターン」


「各塔の周辺に、補助装置が……」


「何個?」


「分かりません」


「でも、規則的なはず」


俺は頷く。


「だとすると……」


「他の塔にも、ある?」


「可能性はあります」


「世界中に」


二人で黙る。


世界規模の構造。


「……なんで、ここに?」


セラが地図を見る。


「距離……二百メートル」


「規則的な配置?」


「それとも……」


俺が続ける。


「地形の問題?」


「分かりません」


「でも、理由はあるはず」


セラが石柱を見る。


「それに……」


「なんで今、反応が強くなった?」


俺は考える。


「循環が、起動したから?」


「それとも……」


セラが塔を見る。


「北の変化と、連動してる?」


「分からない」


「でも、関係はあるはず」


ガルムが首を傾げる。


「おかしい」


「何が?」


「測定器、強いって言ってる」


ガルムが石柱を見る。


「でも、塔より、ずっと弱い」


「感覚で?」


「ああ」


セラが考える。


「埋もれてるから?」


「それとも……」


ガルムが石柱を触る。


「壊れてる?」


俺は測定器を東へ向ける。


さらに東。


反応が弱まる。


「……逆側、来た?」


セラが頷く。


「ここが、中心です」


「距離依存性、確認できました」


俺はノートを開く。


「仮説D……」


セラが続ける。


「半分、成立」


俺は石柱を見る。


「干渉源は、あった」


「でも……」


セラが地図を広げる。


「なんで半分なのか、分かりません」


「予想より、小さい」


「埋もれてる」


「記号が半分」


「理由が、見えない」


セラが測定器を見る。


「測定器……」


光が消える。


「……え?」


俺は測定器を振る。


反応しない。


「限界……」


セラが測定器を受け取る。


手のひらで包む。


何も起きない。


「北でも、東でも」


「完全に、限界です」


二人で測定器を見る。


「これ以上は……」


「測れない」


俺は測定器を見つめる。


三十三日間。


ずっと一緒だった。


「……終わった」


セラが頷く。


「数値観測、終了」


「これからは……」


俺が続ける。


「目で見る」


「記号を読む」


「構造を理解する」


セラが測定器をそっと置く。


「フェーズが、変わりました」


二人で黙る。


波の音だけが聞こえる。


「……一度、戻ろう」


セラが頷く。


「ノートにまとめます」


「エルネストに、報告しますか?」


「……分からない」


「でも、記録は残す」


「分かりました」


ガルムが立ち上がる。


「戻る」


「ああ」


三人で石柱を見る。


半ば埋もれた、古代の構造物。


塔へマナを送る、補助装置。


世界規模で配置された、中継点の一つ。


「明日、もっと調べよう」


セラが俺を見る。


「一緒に」


「ああ」


帰路


迂回路を戻る。


街が目覚め始めている。


煙突から煙が上がる。


扉が開く音。


人の声。


俺たちは足を速める。


宿に戻る。


部屋に入ると、ガルムが倒れ込む。


「疲れた」


「休め」


ガルムが目を閉じる。


俺とセラは窓辺に座る。


ノートを広げる。


「整理、しよう」


セラが頷く。


「東の干渉源、発見」


「石柱。高さ一メートル以上」


「表面に記号六つ」


「塔の半分」


俺が続ける。


「方向、塔を向いてる」


「測定器反応、距離依存性あり」


「中心地点で最大」


「マナの流れ、確認」


セラがペンを止める。


「仮説D、部分成立」


「でも……」


「分からないこと、多い」


俺は窓の外を見る。


東の空が明るい。


「なんでここに、補助装置がある?」


「他にも、ある?」


「塔の周りに、何個?」


「なんで今、反応が強くなった?」


セラが地図を見る。


「塔の周り、全部にあるかもしれません」


「螺旋状配置……」


「十二の塔と、同じパターン?」


「分からない」


「でも……」


セラが測定器を見る。


「これ以上は、測れません」


「限界、来ました」


俺は測定器を手に取る。


反応しない。


「……目で見るしか、ない」


「色、光、脈動」


「記号を読む」


「構造を理解する」


セラが頷く。


「ストップウォッチも、使います」


「はい」


「でも……」


俺は測定器を見る。


「これ、終わったんだな」


セラが測定器に触れる。


「三十三日間」


「ありがとう」


俺も頷く。


小さな光。


世界を測る、小さな目。


「……次は、俺たちの目だ」


セラが顔を上げる。


「はい」


二人で黙る。


窓の外から、街の音。


「……エルネストに、報告する?」


セラが考える。


「どうでしょう」


「目立つな、って言われてる」


「でも、これは……」


「重要な発見です」


俺は悩む。


「……もう少し、調べてから」


「補助装置の機能が分かってから」


「報告する」


セラが頷く。


「分かりました」


「今日は……」


俺は窓の外を見る。


北の塔。


まだ黄色く光っている。


「北を、測ろう」


「ストップウォッチで」


「はい」


窓辺の観測


俺は窓を開ける。


北へ向ける。


塔が見える。


黄色い光。


「脈動、測る」


セラがストップウォッチを持つ。


「準備できました」


俺は塔を見る。


光る。


「今」


セラがボタンを押す。


光る。


「今」


「……0.9秒」


光る。


「今」


「1.2秒」


光る。


「今」


「0.8秒」


セラが記録する。


「不規則、継続中」


「ああ」


俺は塔を見続ける。


黄色い光が、規則的でない間隔で明滅する。


「……次、何色だろうな」


セラが考える。


「青、緑、黄色……」


「波長順なら」


「橙? 赤?」


「分からない」


「でも、変わるはず」


俺は頷く。


「明日も、測ろう」


「東も、北も」


「記録、続けよう」


セラが窓の外を見る。


「一緒に」


「ああ」


二人で塔を見る。


黄色い光が、不規則に脈打つ。


何かが、近づいている。


何かが、始まろうとしている。


でも、まだ分からない。


「……明日」


セラが頷く。


「はい」


-----

(第8章 第3話 終)

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塔の半分ほどしか機能を持たない、地面に埋もれた謎の石柱。

主人公はそこで、長年愛用してきた測定器が完全に沈黙する瞬間に立ち会った。


次に主人公は、数値による裏付けを失った世界を、自身の“五感と知識”でどう読み解いていくのか。


よろしければ、ブックマークで続きを追っていただけると嬉しいです。

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