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転生プログラマーが魔法をデバッグしたら、世界OSから監視される件 ―6歳幼児が異世界の仕様をハックし始めた  作者: プラナ
境界線の観測者 ―身分なき少女と、許可深度を超過した少年の2週間―
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【第11講:セラ先生の世界講座】戻れなかった場合の話

レイ

「先生、それ。……またAdmin Magicのログ、こっそり消そうとしてません?」


セラ

「え? 消してないよ。ただ、無かったことにしようとしてるだけ」


レイ

「いや、それを世間では『消去』って言うんですよ。普通、失敗したらやり直したいじゃないですか」


セラ

「そう? みんなやり直せてないでしょ。ただ、上書きしたことに気づいていないだけで」

パチ、パチ。


静かな音が、いつもより重く響く。


セラは黒板の前に立ち、こっちを見ている。


じーっ。


「……」


俺は、何も言えない。


何となく分かる。


今日の授業は、嫌な予感しかしない。


「今日は——」


セラが、一度息を吸った。


「戻れなかった場合の話です」


「……」


俺は立ち上がった。


「やめろ!」


カン、と指示棒が黒板を叩く音。


「座ってください」


「……」


俺は、観念して座った。


セラは、満足そうに頷く。


「拍手、お願いします」


「……」


俺は、ため息をついて、手を叩いた。


パチ、パチ。


重い音。


セラは頷いて、黒板にチョークを走らせ始めた。


黒板に、文字が並ぶ。


```

【戻るとは】


・状態が以前と同一である

・代償ログが存在しない

・世界から見た"意味"が同じ

```


セラは、チョークを置いた。


「レイ、戻るとは何ですか?」


「……元に、戻ることだろ」


「曖昧です」


ピシッ、と指示棒が黒板を叩く。


「気分の話ではありません」


「仕様の話です」


「世界が見ているのは、状態です」


俺は、黙って黒板を見た。


「ゲームで例えます」


「最初からそうしろよ……」


セラは、俺の呟きを無視して続ける。


「セーブデータに戻る——これが戻るです」


「別のセーブデータに切り替える——これは戻るではありません」


「……」


「代償のログが残っていれば——」


セラは、黒板の文字を指さす。


「それは上書き保存されたファイルです」


「元データは、消えています」


「……」


「つまり——」


セラは、真っすぐにこっちを見た。


「完全に元通り。それだけが、戻るです」


セラは、新しく文字を書き始めた。


```

【Admin Magic】


・完成品

・確定出力

・ログ保存

・ロールバック不可

```


「Admin Magicは、完成品です」


セラは、淡々と説明する。


「一度実行されれば、それは”確定”します」


「確定した瞬間、世界は”前”を失います」


「……」


俺は、息を呑んだ。


「失う……?」


「はい」


セラは頷く。


「前の状態は、もう存在しません」


「上書き保存されて、元データが消えたのと同じです」


「……」


「え、マジで? セーブデータないの?」


「ありません」


セラは、即答した。


「じゃあログ消せばいいじゃん」


「削除権限、ありません」


ピシッ。


指示棒が黒板を叩く。


「……」


「戻るには、世界そのものを書き換える必要があります」


セラは、静かに言った。


「それは、許可されていません」


俺は、黙って黒板を見ていた。


「つまり……一度やったら、もう戻れない?」


「はい」


セラは、即答した。


「Admin Magicは、ロールバック不可です」


「確定した時点で、前の状態は消えます」


「……」


「それが、Admin Magicの仕様です」


セラは、また新しく文字を書いた。


```

【誤解】


× 元に戻った

○ 別の状態に移行した

```


「レイ、前回の授業を覚えていますか?」


「……揺らぎの話、だろ」


「はい」


セラは頷いた。


「True Magicは、揺らいでいます」


「確定していません」


「つまり——」


セラは、黒板の文字を指さした。


「元の状態に戻したのではありません」


「確定前の揺らぎ状態に移っただけです」


「……」


俺は、眉をひそめた。


「……それって、どう違うんだ?」


「まったく違います」


セラは、きっぱりと言った。


「セーブデータではありません」


「チェックポイントでもありません」


「そもそも、セーブという概念がありません」


「……」


「リアルタイム進行です」


セラは、真っすぐにこっちを見た。


「別ルートに入っただけです」


「似ているだけです」


「戻ったように”見える”だけです」


俺は、黙り込んだ。


何となく、分かる。


第6章で、俺が使った魔法。


あれは、一発で決まった。


失敗したら、もう戻れなかった。


でも、第7章で作った測定器は——


「……あれ、戻ってたんじゃない」


俺は、ぽつりと呟いた。


「そもそも——」


「もう、前の場所にはいなかったんだ」


「……はい」


セラは、静かに頷いた。


「あの時、レイが何度も試せたのは——」


セラが、言いかけて止める。


「……揺らいでたから、だろ?」


俺は、自力で気づいた。


セラは、微笑んだ。


「はい」


セラは、また黒板に向かった。


新しい文字が、ゆっくりと書かれていく。


```

【戻れなかった場合】

```


「……」


俺は、息を呑んだ。


セラは、チョークを置いて、振り返った。


「戻れなかった場合——」


「人は——」


セラは、一度言葉を切った。


「前より弱くなることもあります」


「……」


「便利だったものが、二度と使えない場合もあります」


「……」


俺は、何も言えなかった。


「断定ではありません」


セラは、すぐに続けた。


「可能性として、提示しています」


「でも——」


セラは、真っすぐにこっちを見た。


「それが、“戻れない”ということです」


俺は、ゆっくりと息を吐いた。


「……取り返しは、つかないんだな」


「はい」


セラは、静かに頷いた。


「じゃあAdmin Magicって——」


俺は、顔を上げた。


「完全に罠じゃん」


「そうとも言えます」


「そうとも言えます、じゃねえよ!」


俺は、思わず声を上げた。


「なんでそんなの使ってたんだよ!」


「……」


セラは、少し黙った。


「それは——」


「次回です」


「……は?」


「次回、説明します」


「今聞かせろよ!」


「育成順です」


「……」


俺は、ため息をついた。


セラは、また黒板に向かった。


```

【まとめ】


Admin Magic

・確定する

・戻れない


True Magic

・揺らぐ

・戻らない

```


「これが、二つの魔法の違いです」


セラは、黒板を指さした。


「Admin Magicは、確定します。だから、戻れません」


「True Magicは、揺らぎます。だから、戻りません」


「……」


「良い悪いの話ではありません」


セラは、チョークを置いた。


「順番の話です」


「育成順です」


俺は、黙って黒板を見ていた。


何となく、分かる。


Admin Magicは、後戻りできない。


True Magicは、そもそも後戻りという概念がない。


どっちも、“戻る”ことはできない。


「……」


重い。


でも、事実なんだろう。


セラは、黒板を消し始めた。


「レイは、もう後戻りできません」


「……」


「でも、それでいいんです」


「……それ、フォローなのか?」


「事実です」


セラは、即答した。


-----

【第11講・終】

-----

次回予告


「次回は——」


「……」


俺は、顔を上げた。


「なぜAdmin Magicが危険とされたかの話です」


「……それ、今聞くやつじゃないの?」


「まだです」


セラは、淡々と答えた。


「じゃあ言うなよ!」


「育成順です」


「……」


俺は、ため息をついた。


「拍手は、いつもより重くお願いします」


「重さの指定まであるのかよ……」


俺は、渋々、手を叩いた。


パチ、パチ。


いつもより、ずっと重い音。


セラは、満足そうに頷いた。


レイ

「……先生、今の話が本当なら、俺が第6章で失ったものも、もうどこにも残ってないってことですよね。上書きされて、元データごと」


セラ

「そうかもね」


レイ

「“そうかも”じゃないですよ。……もし、いつか俺が『True Magic』すら使いこなせなくなって、全部めちゃくちゃにしたら。その時も先生は『仕様です』で済ませるんですか」


セラ

「長く使ってるとさ。どこまでが自分の意志で、どこからが不可逆なエラーだったか、分からなくなるんだよ。戻れない場所まで来たこと自体が、一つの『進捗』かもしれないしね」


レイ

「……」


(チャイムが鳴る)


セラ

「気になるなら、あとで見返せばいいよ」


レイ

「……はい」

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