【第7章 第30話】 積み重なる予感
レイは、グラフが描く「加速の曲線」という小さな仕様に強い興味を抱いた。
──それが、世界を同期させる「合図」の秒読みになるとも知らずに。
朝。
窓を開ける。
測定器を取り出す。
北へ向ける。
——光った。
「……!」
昨日より、強い。
確実に。
「セラ!」
セラフィナが駆け寄る。
「どうしました?」
「また強くなってる!」
測定器を見せる。
光。
明滅。
不規則。
だけど——昨日より速い。
セラフィナが目を細める。
「本当ですね……」
ノートを開く。
昨日の記録を見る。
そして——
指で、グラフをなぞる。
「……あ」
「どうしたの?」
「レイ、これ……」
「増加の仕方が、変わってます」
レイが身を乗り出す。
グラフを見る。
曲線。
最初は緩やか。
だけど——
途中から、カーブが急になる。
「加速してる……?」
セラフィナが頷く。
「はい」
「一定速度じゃない」
「何かが……速度を上げてます」
レイが測定器を見る。
明滅。
速い。
確実に。
「……面白い」
思わず、呟いていた。
セラフィナが微笑む。
「楽しいんでしょ?」
「え……」
「データが、揃ってきて」
「パターンが、見えてきて」
レイが頷く。
「……うん」
「面白い」
「すごく」
岸。
岩場。
塔を見る。
青い光の柱。
細く。
安定。
変わらず。
「塔は……」
「変わってないね」
セラフィナが測定器を回す。
北へ。
「……あ」
「また?」
「はい」
「朝より、もっと強いです」
レイが測定器を受け取る。
向ける。
光る。
明滅。
——数える。
「……五秒」
「昨日、六秒だった」
「また、速くなった……!」
セラフィナが呟く。
「加速してるだけじゃない……」
「明滅の間隔も、変わってます」
レイが目を見開く。
「じゃあ……」
「波が、近づいてるだけじゃない」
「波そのものが……」
「変化してる……?」
セラフィナが頷く。
「塔に、近づいてる」
「そして……」
「塔に、合わせてる」
レイが呟く。
「……合わせてる?」
ガルムが呟く。
「風が……」
「ざわついてる」
「北の方……」
「何か、大きくなってる」
レイが測定器を見る。
明滅。
五秒。
確実に、速くなってる。
「……記録、続けよう」
「明日も」
「きっと、もっと変わる」
セラフィナが頷く。
「はい」
「一緒に」
ギルド。
エルネストが地図を広げてる。
「おはよう」
「おはよう!」
レイが駆け寄る。
ノートを見せる。
「これ、見てください」
「加速してます」
「しかも、明滅も速くなって——」
エルネストがノートを見る。
グラフ。
曲線。
加速。
「……本当だな」
「他の塔は?」
マルコが紙を持ってくる。
「報告です」
エルネストが受け取る。
読む。
「……変わらず、か」
「他の塔は、三秒脈動で安定」
「光の強さも、変化なし」
レイが呟く。
「北だけ……」
エルネストが頷く。
「ああ」
「北だけが、変化してる」
レイがノートを見る。
グラフ。
カーブ。
「このままだと……」
「十九日より、早く着くかも」
セラフィナが呟く。
「いつ着くか……」
「計算、できません」
「加速率が、分からないから」
エルネストが腕を組む。
「ならば、観測を続けろ」
「データが増えれば……」
「何か、見えるかもしれん」
レイが頷く。
「はい!」
五日目。
朝。
測定器を向ける。
北へ。
光る。
明滅。
——三秒。
「……!」
ノートを開く。
書き込む。
「三秒……」
「昨日、五秒だった」
「また……」
「二秒も、速くなった……!」
セラフィナが測定器を見る。
「明日は……」
「もっと速く……?」
レイが呟く。
「分からない……」
「でも……」
「確実に、近づいてる」
岸。
測定器を向ける。
北へ。
光る。
明滅。
三秒。
変わらず。
「……あれ?」
セラフィナが覗き込む。
「止まりました?」
「うん……」
「朝と、同じ」
「三秒」
レイがノートを見る。
グラフ。
カーブ。
そして——
水平線。
「減速……?」
「いや……」
セラフィナが呟く。
「安定、です」
「何かに……」
「合わせた」
レイが目を見開く。
「……!」
「塔の脈動……三秒」
「北からの信号……三秒」
「同じ……!」
セラフィナが頷く。
「同期、したんです」
「塔と……」
「波が」
レイが測定器を見る。
塔を見る。
そして——
もう一度、測定器を北へ向ける。
光る。
明滅。
三秒。
三秒。
三秒。
——揃ってる。
完全に。
「……きれいだ」
思わず、呟いていた。
セラフィナが微笑む。
「はい」
「きれい、ですね」
ガルムが呟く。
「風が……」
「落ち着いてる」
「昨日より……」
「ざわざわしてない」
レイが測定器を見る。
「同期してから……」
「何かが、変わった」
セラフィナが呟く。
「準備、です」
「波が来るための……」
「準備」
六日目。
朝。
測定器を向ける。
北へ。
光る。
明滅。
三秒。
変わらず。
「……まだ、三秒」
セラフィナが測定器を見る。
「でも……」
「強度が、上がってます」
「昨日より……」
「確実に」
レイが目を見開く。
「本当だ……」
「同期してから……」
「強度が、上がってる」
セラフィナが呟く。
「近づいてます」
「ゆっくり……」
「でも、確実に」
夜。
窓辺。
測定器を向ける。
北へ。
光る。
明滅。
三秒。
だけど——
光が、強い。
朝の、倍。
「……!」
「セラ、これ……」
セラフィナが測定器を見る。
「……強いです」
「このままだと……」
「明日……?」
レイが頷く。
「明日、着くかも」
二人、顔を見合わせる。
「……本当に?」
「分かりません」
「でも……」
「もう、すぐそこです」
レイが測定器を見る。
光。
明滅。
三秒。
強い。
「明日……」
「何が、来るんだろう」
セラフィナが呟く。
「分かりません」
「でも……」
「きっと……」
「すごいこと、です」
レイが頷く。
「うん……」
「一緒に、見よう」
セラフィナが手を取る。
「はい」
「一緒に」
七日目。
朝。
窓を開ける。
測定器を取り出す。
北へ向ける。
光が、止まらない。
「……!」
測定器が、ずっと光ってる。
明滅、してない。
ただ——
光り続けてる。
「セラ……!」
「来た……!」
セラフィナが駆け寄る。
測定器を見る。
「……着きました」
「波が……」
「ここまで、来ました」
レイが窓の外を見る。
北の空。
何も、見えない。
だけど——
測定器は、光ってる。
「来てる……」
「確かに、来てる……!」
二人、顔を見合わせる。
笑う。
「やった……!」
「はい……!」
岸。
岩場。
塔を見る。
青い光の柱。
細く。
安定。
変わらず。
「……あれ?」
セラフィナが測定器を向ける。
「マナ濃度……」
「変わってません」
レイが測定器を回す。
北へ。
光る。
ずっと。
「波は、来てる……」
「でも、塔は……」
「何も、変わらない」
セラフィナが呟く。
「……待ってる」
レイが振り返る。
「待ってる?」
「はい」
「波が来ても……」
「塔は、動かない」
「何かを……」
「待ってます」
ガルムが呟く。
「塔が……」
「準備、してる」
レイが塔を見る。
青い光の柱。
細く。
安定。
静か。
不自然なほど——
静か。
「……何を?」
セラフィナが呟く。
「合図、です」
「波が来て……」
「塔が待ってて……」
「次は……」
「何かの、合図」
レイが頷く。
「合図が来たら……」
「塔が、動く」
セラフィナが測定器を見る。
「じゃあ……」
「明日も、測りましょう」
「合図が、どこから来るか……」
「確かめましょう」
レイが頷く。
「うん」
「明日、もっと近くで測ってみよう」
「塔の、すぐそばで」
セラフィナが微笑む。
「はい」
「一緒に」
二人、塔を見る。
青い光の柱。
細く。
安定。
静かに——
待っている。
何を待っているのか。
まだ、分からない。
でも——
確かに、次がある。
もうすぐ。
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第7章 第30話 完
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北からのマナの波が七日目に到達。
測定器は連続発光を示すが、塔は静かに待ち続ける。
次に来るのは——「合図」。
明日、二人は塔のすぐそばで、それを確かめる。
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