【第2章 第6話】 警告:アクセス違反
4歳になり、主人公は詠唱を省略し術式を直接構築する「簡略化」魔法を完成させる。
しかし、その強力な炎の矢は予想を超えて暴走し、実験室の壁を貫通。
直後、彼の脳裏に響いたのは、世界のシステムからの視覚的な「警告メッセージ」と、脳を掴まれたような激しい痛みだった。
「できた……!」
僕は震える声で呟いた。
4歳になって、半年。
ずっと考えてた魔法——完成した。
実験部屋
母が許可してくれた実験部屋。
地下倉庫の一角。
石壁に囲まれた安全な場所。
(詠唱は安全装置……でも制御できるなら不要)
アリエルさんの言葉が頭に残ってる。
「詠唱なしだと、暴走のリスクが——」
(リスク管理できれば問題ない)
僕は手を前に伸ばす。
「ファイアボルト——簡略化」
詠唱を省く。
代わりに、術式を直接構築。
空中に光の糸が見える。
指を動かす。
光の糸が編まれる。
複雑な構造。
でも、詠唱より早い。
「……いけ!」
炎の矢が飛ぶ——
壁に命中。
ボッ!
小さな焦げ跡。
成功。
「やった!」
僕は飛び跳ねた。
(できた! 詠唱なしで!)
(これなら戦闘で有利だ!)
興奮が止まらない。
「もっと強く——」
僕は再び手を伸ばす。
術式を構築。
光の糸が激しく脈動する。
(威力上げて……射程も……)
「いけ!」
炎の矢が飛ぶ——
その瞬間。
異常
炎が——膨らんだ。
「え?」
予想の3倍の大きさ。
白く輝く炎。
空気が悲鳴を上げる。
「やばい!」
炎の矢が壁に命中——
ドガァン!
石壁が砕ける。
破片が飛ぶ。
衝撃波が床を揺らす。
炎が壁を貫通。
「うわああああ!」
隣の家の庭に着弾。
ドカン!
木が燃える。
「え……え……」
僕は呆然と立ち尽くす。
手が震える。
(なんで!?)
(計算は合ってたのに!?)
自分の手を見る。
恐ろしくて。
そして——
その瞬間。
ノイズ
脳内に——音が響いた。
ザザザザザッ!
耳を塞ぐ。
でも止まらない。
視界が歪む。
世界が——ぐにゃりと曲がる。
「うわ……あ……」
脳髄を直接掴まれたような激痛。
足がもつれる。
倒れる。
床が冷たい。
ザザザザザッ!
視界が赤く点滅する。
エラー画面——?
そして——
視界に、文字が浮かぶ。
光の文字。
```
【警告】
許可深度超過
Level 3相当の確率操作を検知
デモン監視システムより警告
再発時は強制措置を実行
```
文字が消える。
ノイズが止む。
でも——
頭が痛い。
焼けるように痛い。
「いた……い……」
涙が溢れる。
(せかい……おこった?)
恐怖が襲う。
(ぼく……なにしたの?)
(これは……システムメッセージ?)
(やっぱり、この世界はプログラムなのか?)
でも——
考える余裕がない。
体が熱い。
駆けつける母
「何事!?」
母が階段を駆け下りる。
「壁が——火が!」
母が僕を見る。
床に倒れてる僕。
「あなた!?」
母が抱き起こす。
「熱い……」
僕の体が熱い。
高熱。
「大丈夫!?」
「まま……ごめん……なさい……」
「喋らないで!」
母が僕を抱き上げる。
「マルタ! 水を!」
「はい!」
マルタさんが走る。
父も駆けつける。
「どうした!?」
「魔法の暴走! 熱が!」
父が僕の額に手を当てる。
「これは……」
父の顔が青ざめる。
「マナ焼けだ……」
「失いたくない……」
父が僕を見る。
「お前を失いたくないんだ」
寝室
ベッドに寝かされる。
冷たい布が額に乗せられる。
でも——熱い。
体が焼けるように熱い。
「ごめん……ごめんなさい……」
僕は何度も謝る。
「いいの、いいから……」
母が手を握る。
「静かにして……」
でも、僕は喋り続ける。
「けいさん……あってた……のに……」
「なんで……つよく……なったの……」
涙が止まらない。
高熱で意識が朦朧とする。
「せかい……おこった……」
「こわい……こわいよ……」
「まま……」
母が泣き始める。
「もう……無理しないで……」
「ごめん……ごめんね……」
僕は意識を失った。
緊急来訪
翌朝。
ドアが激しくノックされる。
「開けて!」
アリエルさんの声。
父がドアを開ける。
「アリエル!?」
「彼は!? 無事!?」
アリエルさんが飛び込んでくる。
息を切らして。
「寝てる……高熱が」
「見せて!」
アリエルさんが寝室に駆け込む。
僕の額に手を当てる。
「……これは」
アリエルさんの顔が強張る。
「デモンの警告よ」
「警告?」
「彼が、システムの許可を超えた」
アリエルさんが震える声で言う。
「Level 3相当の魔法を使った」
「4歳で!?」
「詠唱を省略して、出力を直接制御した」
アリエルさんが僕を見る。
「それは……ハッキングよ」
「ハッキング?」
「世界のシステムに、無許可でアクセスした」
アリエルさんが立ち上がる。
深刻な顔。
「だから、世界が怒った」
「警告として、マナ焼けを起こした」
母が顔を覆う。
「この子は……」
「天才よ。でも——」
アリエルさんが言葉を切る。
「同時に、世界にとっての脅威になりつつある」
目覚め
夕方。
僕は目を覚ました。
頭が痛い。
でも、熱は下がってる。
「まま……」
「起きた!?」
母が飛んでくる。
「大丈夫? 痛い?」
「……だいじょうぶ」
嘘だ。
痛い。
でも、心配かけたくない。
「ごめんなさい……」
「いいの」
母が涙を拭く。
「もう、無理しないって約束して」
「……うん」
その時、アリエルさんが入ってくる。
「起きたのね」
「アリエルさん……」
「話がある」
アリエルさんが真剣な顔。
「あなたがやったこと——世界が認めなかった」
「……せかい?」
「そう。デモン監視システムよ」
アリエルさんが座る。
「世界には、ルールがある」
「るーる……」
「年齢や能力に応じた、使っていい魔法の限界」
「あなたは、それを超えた」
「だから、警告された」
僕は黙る。
(ルール……)
(そんなの、あったんだ)
「次に同じことをしたら——」
アリエルさんが言葉を切る。
「魔法が使えなくなる」
その言葉に、僕は凍りつく。
「つかえなく……」
「そう。永久に」
アリエルさんが僕を見る。
「だから、約束して」
「もう、無理な魔法はしないって」
「……」
僕は考える。
魔法が使えなくなる。
その恐怖。
でも——
(世界が怒った)
(今の僕では……世界に勝てない)
(ぼくは……やりすぎた)
「……やくそくする」
「本当?」
「うん」
僕は頷く。
「もう……むりしない」
アリエルさんが微笑む。
「いい子ね」
でも、その笑顔は悲しそうだった。
魔法使用禁止令
翌日。
家族会議が開かれた。
「当面、魔法は禁止だ」
父が言う。
「え……」
「お前の体を守るためだ」
父が真剣な顔。
「失いたくないんだ」
「でも——」
「ダメだ」
父が厳しい顔。
「今回のことで分かった」
「お前は、自分の限界が分からない」
「だから、俺たちが決める」
母も頷く。
「せめて、6歳まで」
「それまで、魔法は使わない」
「……」
僕は黙る。
反論できない。
(ぼくが……悪いんだ)
(守ろうとして……逆に心配かけた)
「……わかった」
「本当に?」
「うん」
僕は頷く。
「まほう……やめる」
(でも……守りたい気持ちは変わらない)
父が僕の頭を撫でる。
「ありがとう」
一人の時間
その夜。
僕は一人でベッドに座ってた。
(魔法……禁止か)
手を見る。
震える手。
(この手で……世界を怒らせた)
恐怖が蘇る。
あのノイズ。
歪む視界。
警告文字。
(世界は……ぼくを見てる)
(ぼくが……ルールを破ったら)
(魔法を奪う)
背筋が寒くなる。
(今は……従うしかない)
僕は毛布に包まる。
(6歳まで我慢しよう)
(それから……考えよう)
そう決めた。
エピローグ
アリエルの報告書。
```
【緊急報告】
対象:港町の異常個体
年齢:4歳
事象:詠唱省略によるLevel 3魔法発動
結果:デモン警告発動、マナ焼け
対応:魔法使用禁止令(6歳まで)
評価:
- 理論理解:博士級
- 実践制御:幼児級
- 危険度:極高
- 監視:継続強化
所見:
天才と怪物の境界線上。
家族の管理下で成長を見守る。
次回違反時は、強制隔離も検討。
```
デモン監視システム。
新しいログ。
```
【対象:個体ID-7829】
警告:実行完了
反応:服従
評価:学習能力あり
監視:継続
次回違反確率:32%
対応:待機
```
水晶球が静かに脈動する。
港町の酒場。
冒険者たちが噂してた。
「あの天才児、魔法禁止されたって」
「マジで?」
「暴走して、家の壁ぶち抜いたらしい」
「4歳で……」
「天才すぎて、危険なんだろうな」
「世界が怒ったって噂もある」
噂が広がる。
《天才児の暴走》
《魔法禁止令》
そして——
《世界が怒った子供》
僕は知らない。
自分が——恐怖の対象になり始めてることを。
翌朝。
僕は母の膝で泣いてた。
「こわかった……」
「うん……」
「せかい……おこった……」
「分かってる」
母が僕を抱きしめる。
「でも、大丈夫」
「まま……とうさん……いる?」
「ずっといるわ」
母が優しく言う。
「どんなことがあっても」
「あなたは、私たちの子供」
「……うん」
僕は母の胸で泣いた。
世界の巨大さに怯えながら。
でも——
家族の温もりに、救われながら。
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第6話 完
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詠唱省略によるLevel 3魔法の発動は「システムの許可深度超過」とみなされ、主人公はデモン監視システムから強制措置(魔法使用禁止令)の警告を受ける。
家族を心配させ、世界の力に恐怖した彼は従順を誓うが、その異常な才能は「世界の脅威」として、監視体制をさらに強化されることになる。
最適化された選択は、次にどんな形で世界から返ってくるのか。
次回 第2章 第7話 天才と怪物の境界
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