【第7章 第29話】 信号の先
レイは、北から届く「不規則な明滅」という小さな違和感に強い興味を抱いた。
──それが、世界を一周する巨大な「循環」の胎動であるとも知らずに。
朝。
窓を開ける。
今日も、測る。
塔を見る。
青い光の柱。
細く。
まっすぐ。
空に向かって。
「……変わってない」
セラフィナが隣に来る。
「安定してます」
「昨日と、同じ」
レイが測定器を取り出す。
向ける。
光る。
弱く。
「マナ濃度も、変わらない」
セラフィナが頷く。
「塔は、安定しました」
レイが測定器を回す。
東。
南。
西。
北。
「……北」
測定器が、光る。
弱く。
不規則に。
「昨日と、同じ……」
「まだ、来てる」
セラフィナが測定器を覗き込む。
「何でしょうね」
「分からない」
「でも……」
「確かめたい」
ギルド。
エルネストが地図を広げてる。
「おはよう」
「おはよう!」
レイが駆け寄る。
地図を見る。
十二の点。
すべてに、丸。
「全部、まだ光ってますか?」
エルネストが頷く。
「ああ」
「今朝も、報告が来た」
「すべての塔で、光が継続している」
レイが測定器を取り出す。
地図に向ける。
回す。
東。
南。
西。
北。
「……やっぱり」
「北が、一番強い」
エルネストが地図を見る。
「北……」
「北の塔は、ここだ」
指が、点を指す。
大陸の北端。
山脈の奥。
「七日の距離」
「ここから、一番遠い」
レイが測定器を見る。
「でも……」
「信号、来てる」
セラフィナが呟く。
「なぜ、北だけ……?」
エルネストが腕を組む。
「他の塔は、どうだ?」
レイが測定器を回す。
東。
「港の塔……強い」
南。
「南の塔……少し反応」
西。
「西の塔……弱い」
北。
「北の塔……」
測定器が、明滅する。
不規則に。
「変な感じ……」
「他と、違う」
セラフィナが測定器を受け取る。
向ける。
「本当です……」
「規則的じゃない」
「まるで……」
「……何かが、動いてる?」
レイが目を見開く。
「動いてる……近づいてる……?」
エルネストが立ち上がる。
「待て」
「近づいてる、とは?」
レイが測定器を見せる。
「昨日より、強い」
「少しだけど……」
「確かに、強くなってる」
セラフィナが頷く。
「昨日の夜、測りました」
「今朝も、測りました」
「確かに……強くなってます」
エルネストが地図を見る。
「北の塔から……」
「何かが、来てる?」
レイが頷く。
「分かりません」
「でも……」
「信号は、確かに」
マルコが入ってくる。
紙を渡す。
「北の塔から、連絡だ」
エルネストが受け取る。
読む。
目を細める。
「……何だ、これは」
レイが覗き込む。
「どうしたんですか?」
エルネストが紙を見せる。
レイが読む。
目を走らせる。
「北の塔……光が強くなった……?」
「三日前から……」
「脈動が……速くなった……?」
セラフィナが覗き込む。
「三秒から……二秒……?」
エルネストが頷く。
「港の塔と、逆だ」
レイが測定器を見る。
「……あ」
エルネストが続ける。
「港の塔は、安定した」
「北の塔は……」
「何かが、始まった」
レイが呟く。
「塔が……」
「何か、送ってる……?」
セラフィナが呟く。
「レイが、修復したから……」
「北の塔が、反応した……?」
エルネストが地図を見る。
「可能性は、ある」
「港の塔が、信号を送った」
「他の塔が、受け取った」
「そして……」
「北の塔が、何かを、始めた」
レイが地図を見る。
螺旋状の配置。
東から、南へ。
南から、西へ。
西から、北へ。
「流れ……」
「マナが、流れてる」
「そして……」
「北が、最後……?」
セラフィナが頷く。
「螺旋の、終点」
「もしくは……」
「始点、かもしれません」
エルネストが呟く。
「終点か、始点か……」
「どちらにせよ……」
「北が、鍵だ」
レイが測定器を握る。
「行きたい」
「北の塔……」
「見てみたい」
エルネストが首を振る。
「七日の距離だ」
「しかも、山脈の奥」
「子供が行ける場所じゃない」
レイが俯く。
「でも……」
「分からないと……」
セラフィナが手を取る。
「大丈夫」
「今すぐじゃなくても」
「いつか、行けます」
レイが顔を上げる。
「……うん」
「いつか」
エルネストが地図を畳む。
「だが、観測は続けろ」
「北からの信号……」
「お前たちが、一番よく捉えてる」
レイが頷く。
「はい!」
「毎日、測ります」
港。
岩場。
塔を見る。
青い光の柱。
細く。
安定。
レイが測定器を向ける。
「変わらない……」
「塔は、安定してる」
セラフィナが測定器を回す。
北へ。
「……あ」
「どうしたの?」
「強くなってます」
「朝より……」
「確かに、強い」
レイが測定器を受け取る。
向ける。
光る。
明滅。
不規則。
「本当だ……」
「近づいてる……!」
ガルムが呟く。
「風が……」
「ざわついてる」
レイが振り返る。
「風?」
「うん」
「北の方……」
「何か、来てる」
レイが測定器を見る。
明滅。
強くなってる。
確かに。
「セラ……」
「これ……」
セラフィナが頷く。
「何かが、来てます」
「北から……」
「確実に」
レイが空を見る。
北の空。
雲。
風。
「……見えない」
「でも……」
「感じる」
セラフィナが測定器を取り出す。
向ける。
「マナの……」
「波……?」
レイが目を見開く。
「波……!」
「そうか……」
「信号じゃない」
「波だ……!」
セラフィナが頷く。
「塔が送った、マナの波」
「それが……」
「世界を、巡ってる」
レイがスケッチを取り出す。
螺旋を、なぞる。
「東から、南へ」
「南から、西へ」
「西から、北へ」
「そして……」
指が、止まる。
北。
「北から……」
「どこへ?」
セラフィナが呟く。
「もしかして……」
「戻ってくる……?」
レイが顔を上げる。
「循環……!」
「世界を一周して……」
「また、港の塔に……?」
セラフィナが測定器を見る。
「だとしたら……」
「あと、何日で……?」
レイが計算する。
指を折る。
「東から南……三日」
「南から西……五日」
「西から北……七日」
「北から……」
「また七日……?」
「全部で……」
「二十二日……?」
セラフィナが頷く。
「今日で、三日目」
「だとしたら……」
「あと、十九日」
レイが測定器を見る。
「十九日後……」
「波が、戻ってくる」
「そしたら……」
「何が、起きる……?」
セラフィナが呟く。
「分かりません」
「でも……」
「きっと、その前に……」
「何か、変わるかも」
レイが頷く。
「うん」
「毎日、測ろう」
「記録、残そう」
夜。
宿の窓。
塔を見る。
青い光の柱。
変わらず。
安定。
レイが測定器を向ける。
北へ。
光る。
明滅。
不規則。
「……また、強くなった」
セラフィナが隣に座る。
「少しずつ……」
「確実に、近づいてます」
レイがノートを開く。
書き込む。
時間。
強度。
パターン。
「記録、残す」
「毎日、測る」
「そしたら……」
「いつ、戻ってくるか……」
「分かるかも」
セラフィナが微笑む。
「いい考えです」
「一緒に、測りましょう」
レイが頷く。
「うん」
「一緒に」
測定器を見る。
光。
明滅。
不規則。
だけど……
確実に、強くなってる。
何かが、来てる。
北から。
波が、来てる。
そして——
その先に、何があるのか。
二人は、まだ知らない。
でも——
知りたい。
確かめたい。
記録したい。
それが、レイだから。
それが、二人だから。
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第7章 第29話 完
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北からの信号が「マナの波」であることを発見。
塔が送り出したマナが世界を巡り、循環している可能性に気づく。
レイは十九日後に波が戻ってくると推測し、毎日の観測記録を開始。
未知への探究は、新たな段階へ——。
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