7章サブ話①⑥: 『観測値の乖離』
主人公は、港町にある塔の脈動間隔が、各地の報告にある「三秒」ではなく「一秒」に固定されている点にだけ引っかかっていた。
それは観測値の上では明らかな乖離だが、この場では特に問題視されていない。
観測値の乖離
《南の塔》── 港から三日の距離、海沿い
「────光った」
漁師のジェイクは、網を繕う手を止めた。
東の空。
水平線の向こう。
青い、光の柱。
「なんだ、あれ……」
隣で作業していた若い衆が、立ち上がる。
網を落とす。
「塔が……」
彼らの背後にも、塔がある。
村の外れ。
誰も近づかない、古い石の塔。
ずっと、そこにあった。
ずっと、何もしなかった。
──でも、今。
「光ってる……!」
青白い光。
脈動している。
三秒ごとに、明滅を繰り返している。
「東も……!」
ジェイクは振り返る。
東の空。
遠く、かすかに。
同じ青い光。
「二つ……?」
違う。
「いや、三つだ……!」
南西の空にも。
北の空にも。
青い光の柱が、立っている。
「全部……?」
村中の人間が、外に出てきた。
指を差す。
叫ぶ。
「塔が全部……!」
「神罰だ……!」
「いや、待て、うちの塔が最初だ!」
「違う、東が先に光った!」
「うちが中心だ!」
「世界が、俺たちの村を選んだんだ!」
ジェイクは何も言えなかった。
ただ、空を見上げた。
青い光の柱が、四方から立ち上っている。
誰も、答えを持っていない。
《西の塔》── 港から五日の距離、森の中
森番のエドは、斧を置いた。
「……なんだ、今の」
光が、見えた。
木々の隙間から。
青い光。
「塔……?」
森の奥。
誰も入らない、立ち入り禁止の場所。
古い塔が、ある。
エドは一度も近づいたことがない。
父から言われていた。
「近づくな。触れるな。見るな」
──でも、今。
「光ってる……」
青白い光が、木々の間から漏れている。
規則的に。
三秒ごとに。
「……まずい」
エドは走り出した。
村へ。
誰かに、知らせなければ。
でも。
「東……?」
走りながら、東の空を見た。
同じ光。
遠く、かすかに。
「……嘘だろ」
「うちの森が、最初じゃないのか……?」
《北の塔》── 港から七日の距離、山の麓
「────変化、確認」
観測所の研究員、リアムは記録を書き留めた。
観測日時: ████年██月██日 ██時██分
対象: 北方古代施設(通称:北の塔)
状態: ███ CRITICAL ███
脈動間隔: 3秒 → 2秒 → 1秒 → 停止 → 再開
現在: 1秒間隔で安定
色: 青 → 緑 → 黄 → 三色同時表示
光の柱: 太い、青い、空に向かって伸びる
マナ濃度: ███ OVERFLOW ███
測定器: 限界超過(振り切れ)
「……なんだ、これ」
リアムの手が、震えている。
三日前から、塔の光が強くなっていた。
脈動が速くなっていた。
──そして、今。
「港からの波が……消えた」
測定器が、示していた。
北から、何かが来ていた。
──それが、消えた。
同時に。
「塔が……」
一秒間隔の脈動。
太い光の柱。
三色の光。
「何が、始まった……?」
リアムは窓の外を見た。
東の空。
南の空。
西の空。
全部。
「全部、光ってる……!」
「でも……」
リアムは記録を見返す。
「北が、最初だった……はず……」
「北が、中心……」
「……そうだ、そうだろう?」
《ギルド本部》── 中央大陸
██████ 緊急報告 ██████
機密レベル: ██
発信元: 各支部(12箇所)
受信日時: ████年██月██日 ██時台(同時多発)
主人公は、大陸各地の支部から同時多発的に緊急報告が上がっている状況を確認した。
結果として、どの塔が最初に光ったのかという議論だけが各地域で繰り返されることになった。
ただ、観測値のズレが何を意味するのかは分からない。
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