7章サブ話①④: 『波のリズム』
主人公は、波のリズムが以前のような規則的なものに戻っている点にだけ引っかかっていた。
それは漁師たちの間でも気づかれ始めているが、現時点では確かな根拠のない体感として扱われている。
波のリズム
観測者: 漁師エドガー(45歳)
場所: 港町・船着き場
時刻: 夕刻
状態: 絶望 → 困惑 → 恐怖
また、今日も。
網は、空のまま。
船を出しても意味がない。
東の沖は、もう、ダメだ。
魚が逃げる。
網が裂ける。
海が、何かを拒んでる。
このまま続けば——
家族を、養えない。
仲間のトムが、昨日、街を出た。
ジョンも、先週。
みんな、諦めた。
「……おい」
隣の船のジムが、呟いた。
「なんか……静かじゃねえか?」
……静か?
耳を澄ます。
波の音。
いつもの、打ち寄せる音。
でも——
「……あれ?」
***リズムが、違う***
ここ数日、ずっと、
波は不規則だった。
叩きつけるように。
怒っているように。
まるで、何かが——
███を███ように。
でも、今は——
「……普通、だな」
ジムが、ぽつりと言った。
そう。
普通。
昔みたいに、
規則的に、
穏やかに、
波が、寄せてる。
「……気のせいか?」
分からない。
でも、確かに——
何かが、変わった。
東を見る。
塔は、まだ光ってる。
青い光。
でも——
音が、違う。
あの、低く、規則的な音。
ここ数日、ずっと聞こえてた、
不気味な音。
今も、聞こえる。
でも——
「……大きく、なった?」
ジムが、首を傾げた。
そう。
大きい。
前は、どこか——
遠くで、か細く、
そんな音だった。
でも、今は——
「……近い」
【怖い】
海に、手を入れてみる。
「……あれ?」
冷たい。
いや、
少し、だけど——
「……冷たく、なった?」
ここ数日、
海は、妙に温かかった。
季節に合わない、
不自然な温かさ。
でも、今は——
「……少し、冷たい」
ジムも、手を入れる。
「……本当だ」
二人で、顔を見合わせる。
「……何が、起きた?」
分からない。
でも——
何かが、変わった。
確かに。
「……まだ、怖いな」
ジムが、小さく呟く。
「ああ」
俺も、頷く。
***まだ、怖い***
東の沖には、まだ、近づけない。
あそこには——
何かが、いる。
波が、穏やかだ。
音が、大きい。
海が、少し、冷たい。
「……様子を、見るしかねえな」
ジムが、そう言った。
「……ああ」
俺も、頷く。
分からない。
でも——
何かが、変わった。
でも——怖い。
もっと、怖い。
未記録事項:
∙海水温の正確な低下幅(体感のみ)
∙波のリズム変化の物理的根拠
∙塔の音質変化の原因
∙「東の沖に、何がいるのか」
∙「誰が、何をしたのか」という問いへの答え
次回観測予定: 不明
主人公は、海水温が不自然な温かさから本来の冷たさへと近づいている状況を確認した。
結果として、海に生じていた違和感がわずかに解消されつつあるという事実だけが残された。
ただ、その変化の先に何があるのかは分からない。
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