7章サブ話①②: 『港町異常事態・観測ログ(一般市民視点)』
主人公は、波の音がいつもより穏やかに聞こえる点にだけ引っかかっていた。
それは一部の漁師の間でも囁かれているが、この場では特に問題視されていない。
港町異常事態・観測ログ
(一般市民視点)
【記録日時】修復当日・夕刻より翌朝
■ 観測者:名もなき港町住民たち
夕方、港の倉庫前にて
「……おい」
「なんだ」
「塔の、音が」
「……」
二人は黙って、東を見た。
いつもの、低い音。規則的な、呼吸のような音
でも——
「……違うな」
「ああ」
前より、力強い。
魚屋が、眉をひそめた。
「……何が起きた」
「分からん」
「……不気味だ」
「ああ」
二人は、それ以上何も言わなかった。
その夜、宿の窓辺
商人の妻が、窓を開けた。
風が、入ってくる。
「……あら」
いつもより、軽い。
空気が、軽い。
あの、重苦しさが——
少し、薄れている。
彼女は夫を呼んだ。
「ねえ、あなた」
「ん?」
「外の空気、なんか……」
「……分かるか」
夫も、窓に近づいた。
「変わったな」
「うん」
「……でも」
「ん?」
「これが、良いことなのか」
「……」
夫は、答えなかった。
二人は、しばらく黙って東を見た。
塔は、相変わらず光っていた。
青い光。
前より、少しだけ明るい。
「……怖いわ」
「ああ」
翌朝、市場
「聞いたか?」
「何を」
「塔だよ、塔」
「……ああ」
魚屋が、声を潜めた。
「昨日の夜、音が変わったって」
「俺も聞いた」
「本当か?」
「ああ。いつもより、力強い音だった」
「……それで?」
「それで、って……」
魚屋は、言葉に詰まった。
何が起きたのか、分からない。
でも、何かが——変わった。
「……あの子が、何かしたのか?」
「分からん」
「調査団が、一緒に塔に入ったんだろ?」
「ああ」
「それで?」
「……何も、聞いてない」
魚屋が、舌打ちした。
「いつもそうだ」
「ん?」
「彼等は、何も教えてくれない」
「……」
「でも——」
魚屋は、東を睨んだ。
「魚が、戻るかもしれん」
「は?」
「塔が、変わったんだ」
「海も、変わるかもしれん」
「……お前、本気で言ってるのか」
「分からん。でも——」
「賭けてみる価値は、ある」
昼過ぎ、港
漁師が、一人で海を見ていた。
「……おかしい」
彼は呟いた。
波の音が、違う。
いつもの、不規則な音じゃない。
少しだけ、穏やかになっている。
「……気のせいか?」
彼は首を傾げた。
でも——
確かに、違う。
彼は東を見た。
塔が、光っている。
青い光。
いつもより、少しだけ明るい。
「……触れるべきじゃなかったのかもしれん」
彼は呟いた。
「昔から、言い伝えがあった」
「『東の塔には、近づくな』」
「『触れれば、世界が変わる』」
「……俺たちは」
彼は、言葉を飲み込んだ。
——何かを、起動させてしまったのか?
夕方、街角
「ねえ、聞いた?」
「何を?」
「塔が、動いたって」
「動いた?」
「ああ。昨日の夜」
「誰が言ってた?」
「……みんな」
女性は、声を潜めた。
「音が変わったって」
「光も、少し明るくなったって」
「それで?」
「それで……」
彼女は、言葉に詰まった。
何が起きたのか、誰も分からない。
でも——
確かに、何かが変わった。
「……あの子が、何かしたの?」
「分からない」
「調査団は?」
「何も言わない」
「……」
女性は、東を見た。
「……神様が、怒ってるのかしら」
「は?」
「だって——」
「子供が、塔に触れたんでしょ?」
「古いものに、触れてはいけないって」
「昔から、言われてたじゃない」
「……」
「それを、破ったのよ」
「……」
「だから——」
彼女は、震えた。
「罰が、下るかもしれない」
その夜、宿の食堂
「なあ」
「ん?」
「お前、どう思う?」
「何が」
「塔だよ」
商人が、声を潜めた。
「昨日から、様子が変わった」
「ああ」
「音が、力強くなった」
「光も、少し明るくなった」
「空気も、軽くなった」
「……それで?」
「それで……」
商人は、言葉に詰まった。
何が起きたのか、分からない。
でも——
確かに、変わっている。
「……これを、商売に使えないか」
「は?」
商人が、目を細めた。
「塔が、動いたんだ」
「世界が、変わるかもしれん」
「なら——」
「先に動いた者が、勝つ」
「……お前、本気で言ってるのか」
「ああ」
商人は、東を見た。
「塔は、金になる」
「……」
「変化は、金になる」
「……お前、怖くないのか」
「怖い」
商人は、笑った。
「でも——」
「恐怖より、欲の方が強い」
翌朝、ギルド前
「おい、見ろ」
「何だ?」
「あの子だ」
「……ああ」
レイが、ギルドに入っていく。
セラフィナと、父親と一緒に。
「昨日、塔に入ったんだろ?」
「ああ」
「それで、何かしたのか?」
「……分からん」
「でも——」
男は、言葉を続けた。
「塔が、変わった」
「音が、変わった」
「光が、変わった」
「空気が、変わった」
「……あの子が、何かしたんだ」
「……」
二人は、黙ってレイを見た。
——何者なのか、分からない。
——でも、普通じゃない。
「……触れた子、か」
「ん?」
「塔に、触れた子」
「ああ……」
「そう呼ばれ始めてる」
「……」
「怖いな」
「ああ」
「でも——」
「ん?」
「止められない」
「……何が」
「もう、動き始めてる」
その日の夕方、市場
「聞いたか?」
「何を?」
「塔を動かした子、だって」
「誰が?」
「……あの子だよ」
魚屋が、声を潜めた。
「測定器の子」
「ああ、あの……」
「そうだ」
「本当か?」
「分からん。でも——」
魚屋は、東を見た。
「塔が、変わったのは確かだ」
「音が、力強くなった」
「光が、明るくなった」
「空気が、軽くなった」
「……それで?」
「それで……」
魚屋は、言葉に詰まった。
何が起きたのか、分からない。
でも——
あの子が、何かをした。
「……普通じゃないな」
「ああ」
「……でも」
「ん?」
「誰も、止められない」
「……何が」
「世界は、もう動き始めている」
その夜、宿の窓辺
レイとセラフィナが、窓から塔を見ていた。
塔は、静かに光っていた。
青い光。
前より、少しだけ明るい。
街の人々は、その光を見ながら呟いていた。
「何が起きた?」
「あの子が、何かした」
「塔が、動いた」
「音が、変わった」
「光が、変わった」
「空気が、変わった」
「……怖い」
「でも——」
「止められない」
「世界は、もう動き始めている」
誰も、真実を知らない。
誰も、何が起きたのか分からない。
でも——
確かに、何かが変わった。
そして——
あの子が、何かをした。
【観測終了】
未解明事項:
∙塔内部で何が行われたのか
∙「触れた子」は何者なのか
∙なぜ音が力強くなったのか
∙なぜ光が明るくなったのか
∙なぜ空気が軽くなったのか
∙これが、良いことなのか、悪いことなのか
確定事項:
∙塔の状態が変化した
∙変化は「あの子」と関連している
∙世界は、もう動き始めている
街の認識:
∙恐怖と打算と偏見の混在
∙「塔を動かした子」「触れた子」という呼称の発生
∙誰も、止められない
次の観測が、必要である。
【記録者:名もなき住民たち】
【記録日:修復当日〜翌日】
【記録場所:港町全域】
——誰も、真実を知らない。
——でも、確かに世界は変わり始めている。
——そして、誰も止められない。
主人公は、街のあちこちから視線を向けられながらギルドへと入っていった。
結果として、塔の様子が変わったという認識だけが住民の間に広がることになった。
ただ、その変化が何をもたらすのかは分からない。
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