【第7章 第22話】 逆から読む
記号が「欠けている」のではない。摩耗し、線の流れが「逆」に変わってしまっているのだ。
膨大なマナが熱として漏れ出し、システムを内側から焼き切ろうとしている。
──その「設計ミス」の正体に気づいたのは、世界でたった二人だけだった。
ノートを広げたまま、レイは朝を迎えた。
スケッチ。十二個の記号。
指が、止まらない。
一、二、三……そして、十二、十一、十——
「逆から……」
窓の外、塔の光。
青い。
昨日より、確実に青い。
セラフィナがドアをノックする。
「レイ、起きてますか?」
「入って!」
扉が開く。
「おはようございま——あ」
レイが振り返る。
「セラ、これ見て!」
ノートを差し出す。
「逆から読むと……」
セラフィナが覗き込む。
十二、十一、十……
「出力、変換、受け取り……」
二人、顔を見合わせる。
「逆の、流れ」
「四段階目は……」
同時に言う。
「復元!」
港。
調査団が集まっている。
エルネストが確認する。
「今日は、記号を詳しく調べる」
レイが測定器v2を腰に。
スケッチを懐に。
「準備OK」
ガルムが鼻を鳴らす。
「中、まだざわついてる」
父が頷く。
「無理はしないぞ」
海底。
扉を開ける。
通路を抜ける。
柱の部屋。
青白い光が、迎える。
「……昨日より青い」
マルコが測定器を向ける。
「濃度、上昇してる」
リディアが壁を見る。
「記号も、光ってる」
レイが駆け寄る。
三メートル。
柱の脈動。
六秒。
六秒。
「変わらない……」
セラフィナが壁に手を当てる。
「レイ、ここから」
螺旋の一番下。
一つ目の記号。
レイが指でなぞる。
石の表面。
冷たくて——微かに温かい。
「生きてる……」
二つ目、三つ目。
受け取り、分岐、集約。
四つ目、五つ目、六つ目。
「変換……」
区切りの記号。
線が一本多い。
「前半、終わり」
七つ目、八つ目、九つ目。
「後半は、逆」
十つ目。
指を当てる。
「……熱い?」
セラフィナも触る。
「本当だ」
マルコが測定器を向ける。
「三度高い」
十一つ目。
十二つ目。
「こっちも!」
エルネストが呟く。
「四段階目だけ、異常だ」
レイがスケッチと見比べる。
「なんで……」
セラフィナが記号を見つめる。
「復元が、うまくいってない?」
「だから、熱に……」
リディアが頷く。
「循環が、止まってる」
レイが十つ目の記号をなぞる。
線の流れ。
「あれ……」
止まる。
「この線……」
セラフィナが覗き込む。
「どうしました?」
「途切れてる」
二人で壁を見る。
線が、欠けている。
ほんの少し。
でも、確実に。
「あ」
「あ」
マルコが確認する。
「十一つ目も」
「十二つ目も!」
エルネストが壁に触る。
「記号が、壊れてる……」
レイが欠けた部分をなぞる。
ざらざらしている。
「削れたみたい」
セラフィナが呟く。
「時間が、経ちすぎて……」
レイが前に出る。
「試したいことが、あります」
エルネストが振り返る。
「何だ?」
「記号を……マナで補う」
「レイ、それは——」
セラフィナが止める。
「危険すぎます」
「でも、欠けてるだけなら……」
父が前に出る。
「ダメだ」
「お父さん……」
「ここじゃ分からない。一度、外に出る」
岸。
岩場に座る。
エルネストが記録を見る。
「四段階目、三つとも損傷」
「復元処理が止まって、マナが熱として逃げてる」
リディアが頷く。
「修復には、記号の完全な理解が……」
レイが海を見る。
塔の光。
青い。
六秒ごとの脈動。
「このまま……」
セラフィナが隣に座る。
「レイ」
「ん?」
「焦らないで」
「……うん」
「方法は、必ずあります」
エルネストが立ち上がる。
「今日は、ここまでだ」
夜。
宿の窓から塔を見る。
青い光。
昨日より、濃い。
脈動。
まるで、苦しそうに。
レイがノートを開く。
記号をなぞる。
十、十一、十二……
欠けた部分。
「ここを、マナで満たせば……」
でも——
ノートを閉じる。
ベッドに入る。
眠れない。
記号が、頭から離れない。
欠けた線。
その流れ。
方向……
「……あ」
起き上がる。
ノートを開く。
十つ目の記号。
欠けた部分。
指でなぞる。
線の流れ。
方向。
「外向き……?」
他の記号は、内向き。
でも、十つ目だけ——
「そうか!」
セラフィナがドアをノックする。
「レイ?」
「セラ、来て!」
扉が開く。
「どうしました?」
「これ!」
スケッチを見せる。
「十つ目、欠けてるのはここ」
「ええ」
「でも、線の流れ……」
指でなぞる。
「外向き」
セラフィナが息を呑む。
「他は、内向きなのに……」
「そう!」
レイが前のめりになる。
「逆に、なってる」
「だから……」
二人、同時に言う。
「壊れた」
沈黙。
セラフィナが呟く。
「最初から、逆だった?」
「ううん」
レイが首を振る。
「途中で変わった」
「摩耗して、線が削れて……」
「流れが、逆になった」
セラフィナが頷く。
「それで循環が止まって、熱が発生して……」
「もっと削れた」
レイが立ち上がる。
「じゃあ、直す方法は——」
「向きを、戻す」
「マナで、補強する」
セラフィナが手を取る。
「でも、レイ」
「大丈夫」
「本当に?」
「向きが分かれば……」
レイが微笑む。
「流れに沿って、なぞるだけ」
セラフィナが不安そうに見る。
「……私も、一緒に行きます」
「え?」
「レイだけに、危ないことさせません」
レイが頷く。
「じゃあ、一緒に」
「はい」
窓を見る。
塔の光。
青い。
脈動。
でも——
レイが気づく。
「セラ、あれ……」
「……少しだけ、緑?」
「色が、また変わってる」
セラフィナが測定器を向ける。
「濃度も、上がってます」
レイがノートを開く。
記号をなぞる。
向きを、確認する。
「明日、試す」
「ええ」
「一緒に」
二人で窓を見る。
塔の光。
青と、緑。
脈動。
六秒。
六秒。
「待ってて」
レイが呟く。
「明日、流れを戻すから」
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第7章 第22話 完
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「流れを、元に戻す」
レイの導き出した答えはシンプルだが、それは巨大なシステムに直接介入することを意味していた。
セラフィナの手を握り直し、レイは暴走を始める古代の心臓部へと再び歩みを進める。
次に主人公は、何を“確かめにいく”のか。
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