【第2章 第1話〜第4話:最近のあの子の噂】
港の酒場では、日々成長する少年レイについての噂が絶えない。
二歳にして熟練魔法使いに匹敵する適性を示し、挙句の果てにはギルドの深部で「コア」を見抜いたという。
酒を酌み交わす大人たちは、その規格外の才能に期待と、得体の知れない恐怖を抱き始めていた
ルミナス港・波止場近くの酒場
時刻:夕刻、仕事終わり
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「聞いたか? あのガキ、また何かやらかしたらしいぞ」
「レイか?」
「ああ。魔法適性検査で」
「形式的なやつだろ? 俺も受けたけど、5分で終わったぞ」
「普通はな」
グラスを置く音。
「0.25出したって」
「……は?」
「熟練魔法使いレベル」
「1歳で!?」
「もう2歳だぞ」
「あ、そっか。時間経つの早えな」
「早いっていうか……お前、この前『三ヶ月の赤ん坊』って言ってなかったか?」
「言ってた」
「じゃあもう2歳か……」
「成長速度やばくね?」
「やばいっていうか、普通だろ。俺らが年取っただけだ」
笑い声。
「で、0.25ってどれくらいすごいんだ?」
「お前、魔法使えないのか?」
「使えるけど、光球くらいしか」
「じゃあお前は0.05くらいだな」
「マジで?」
「マジ」
「……じゃあ、レイって俺の5倍?」
「そういうこと」
「2歳で?」
「2歳で」
沈黙。
「……ま、そうなるわな」
「何が?」
「監視対象リスト入りしたって」
「マジか」
「マジ」
「でも本人、気づいてないだろうな」
「2歳だし」
また笑い。でも、乾いてる。
「つーか、監視って誰が?」
「魔法管理局じゃね?」
「あー、あの面倒くさい連中か」
「報告義務とかあるらしいぞ」
「親、大変そうだな」
「大変っていうか……商人だろ? あの家」
「ああ、マナ精製品扱ってる」
「じゃあ金はあるな」
「金で解決できる問題じゃねえだろ」
「まあな」
グラスを傾ける音。
「でも、才能があるっていいよな」
「お前、才能欲しいのか?」
「欲しいよ。俺なんて光球しか使えねえし」
「光球使えるだけマシだろ。俺なんて魔法適性ゼロだぞ」
「え、マジで?」
「マジ。だから冒険者じゃなくて荷運びやってる」
「……そっか」
「ま、才能なんてなくても生きていけるさ」
「そうだな」
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同じ酒場、別のテーブル
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「おい、火災起こしたらしいぞ、レイのガキ」
「は? 火事?」
「光球の実験で暴走したって」
「2歳で実験……」
「複数同時とか試したらしい」
「アホか」
誰かが笑う。
「でも、怪我はなかったんだろ?」
「ああ。使用人が消火魔法で」
「使用人、有能すぎだろ」
「元冒険者らしいぞ」
「え、マジで?」
「マジ。だから反応早かったんだろうな」
「……でも、2歳で火災って」
「やばくね?」
「やばいけど、誰も死んでないなら……」
「問題ないのか?」
「問題だろ」
笑い声。
「つーか、親は怒らなかったのか?」
「怒ったらしいけど、地下に実験部屋作ってやったって」
「甘やかしすぎだろ!」
「いや、逆だ」
別の男が口を挟む。
「ルール決めて、監視付けたらしい」
「監視?」
「ああ。獣人の警備も雇った」
「ガルムか」
「知ってるのか?」
「辺境からの避難民だろ。真面目な奴だぞ」
「で、今はレイのガキの監視役」
「監視っていうか……ベビーシッター?」
「ベビーシッターが魔法暴走を止める時代か」
「世の中おかしいな」
また笑い。
「でも、実験部屋作ってもらえるとか、羨ましくね?」
「羨ましいか?」
「俺なんて子供の頃、親に『魔法なんて使うな』って怒られたぞ」
「普通はそうだろ」
「レイのガキは特別扱いか……」
「才能あるからな」
「才能か……」
沈黙。
「……ま、港も変わったよな」
「変わったな。ダンジョンも出たし」
「魔物も増えたし」
「避難民も来たし」
「変な時代だ」
「変な時代に、変なガキが生まれた」
「ぴったりじゃん」
笑い声。
「でも、あのガキ、将来どうなるんだろうな」
「知るか」
「英雄になるかもな」
「災厄になるかもな」
「どっちだ?」
「……わからん」
「わからんよな」
グラスを傾ける音。
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ギルド受付カウンター近く
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「ねえ、聞いた? レイ君、コア見に来たらしいわよ」
「コア? あの地下の?」
「そう。アリエル様が連れてきたの」
「2歳児をコアに? 危険すぎだろ」
「でも、連れてきたのよ」
「で、何があった?」
「コアの構造、見抜いたって」
「……見えるわけねえだろ」
男が声を荒げる。
「俺、10年冒険者やってるけど見えたことねえぞ」
受付嬢がため息。
「でも、現場の人が言ってたわ」
「誰が?」
「血まみれの男の人。傷だらけで帰ってきたあの人」
「ああ、あいつか……」
男が腕を組む。
「あいつが認めるなら、マジかもな」
「認めてたわよ。『すげえガキだ』って」
「……マジか」
「で、ギルドで噂になってるの」
「どんな?」
「《港町に、コアを見抜くガキがいる》って」
「《次世代の英雄》とか言ってる人もいるわ」
「2歳で英雄……」
沈黙。
「つーか、呼び名ってどうなってるんだ?」
「まだバラバラよ」
「レイ、あの子、港の天才児、コアを見抜く子……」
「統一しろよ」
「でも2歳よ? 誰も本気で呼び名つけてないの」
「……まあ、そのうち広まるか」
「そうね」
受付嬢が書類を整理する。
「でもね——」
「でも?」
「怖いのよ」
「何が?」
「だって、2歳で熟練魔法使いレベルでしょ?」
「ああ」
「10歳になったらどうなるの?」
「……」
沈黙。
誰も答えない。
「想像したくないわ」
「同感」
「でも、気になるよな」
「気になる」
「10歳で……何ができるんだろうな」
「ダンジョン一人で攻略とか?」
「やめろ、怖いから」
笑い声。
「でも、もしレイが冒険者になったら」
「なったら?」
「パーティー組みたいよな」
「お前、さっき怖いって言ったろ」
「怖いけど、頼もしいだろ?」
「……確かに」
「コア見抜けるなら、ダンジョン攻略も楽になるし」
「報酬も増えるかもな」
「夢が広がるな」
「広がるけど、まだ2歳だぞ」
「10年後には12歳だ」
「まだ子供じゃねえか」
「まあ、そん時考えるさ」
また笑い。
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最初のテーブル
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「なあ、レイって結局何者なんだ?」
「知るか」
「でも、確実にやばい」
「やばいって、いい意味で?」
「いや、両方」
「両方?」
「すごいけど、怖い」
「……ああ」
男が酒を飲み干す。
「才能ってのは、諸刃の剣だからな」
「使い方次第か」
「そうだ」
「で、あのガキはどっちに転ぶと思う?」
「……わからん」
「わからんよな」
「でも、親はいい人そうだし」
「ああ、商人の旦那も奥さんも評判いいぞ」
「じゃあ、大丈夫じゃね?」
「大丈夫かねえ……」
「才能があっても、育て方次第だろ」
「そうだな」
「ま、見守るしかねえだろ」
「見守る?」
「ああ。俺たちには何もできねえし」
「……まあ、そうだな」
男が立ち上がる。
「ただ——」
「ただ?」
「もしあのガキが冒険者になったら」
「なったら?」
「一緒に潜りたいな」
「……お前、さっき怖いって言ったろ」
「怖いけど、頼もしいだろ?」
「……確かに」
「コア見抜けるなら、罠も見抜けるかもな」
「そしたら安全に稼げる」
「夢があるな」
「夢っていうか、現実的な話だろ」
「まあな」
扉が閉まる。
残された男たちは、また酒を飲み始める。
「……でも、10年後か」
「長えな」
「長いけど、あっという間だぞ」
「そうだな。この前『三ヶ月の赤ん坊』って聞いたと思ったら、もう2歳だし」
「時間経つの早えな」
「俺らが年取っただけだ」
笑い声。
「……ま、とりあえず今は酒だ」
「そうだな」
「明日も仕事だし」
「おう」
グラスを傾ける音。
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ギルド掲示板(翌朝)
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貼り紙が更新されていた。
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【噂の続報】
港町の天才児レイ
・魔法適性0.27
・火災を起こすも無事
・コア構造解析成功
・冒険者に認められる
【呼び名候補】
・レイ(本名)
・あの子(一般的)
・港の天才児(公式っぽい)
・コアを見抜く子(ギルド内)
・次世代の英雄(冒険者)
・バグハンター(誰かの落書き)
【今後の予測】
・10歳でどうなる?(不明)
・冒険者になる?(期待)
・災厄になる?(不安)
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誰かが新しい落書きを追加する。
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「10歳が楽しみだな」
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別の誰かが返信。
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「怖いけどな」
```
さらに別の誰かが追加。
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「でも、一緒にダンジョン潜りたい」
```
またさらに別の誰かが返信。
```
「お前、さっき怖いって言ってたろ」
```
最後に。
```
「怖いけど、頼もしいだろ?」
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誰かが吹き出したように、小さなインクの染みがついていた。
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【サブログ 終了】
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町の人々は、レイという存在を「英雄」か「災厄」か測りかねながらも、その成長を注視している。
ギルドの掲示板に刻まれた数々の呼び名は、彼がすでに周囲にとって無視できない「変数」となっている証左でもあった。
小さな天才がもたらす熱狂と不安は、静かに、だが確実に港の空気を変えていく。
次回 第2章 第5話 密航と最適解
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