Episode.04 皇帝 鉄壁の要塞の中の青年
自分が思っていた以上に、自分の女性性は母の影響をネガティブに捉えて拗れていた。
ならばそれとペアの男性性もきっと、歪んでいるに違いない。
「 お城はここから見えているのに、これってめちゃくちゃ遠くないですか? 」
森の中を通って皇帝のいる城へ向かう道中、視界の遥か遠くに、浮いているように見える小高い場所に城が見えた。
「 そうだな、こんなに離れているのは珍しい 」
フールチャイルドはそう言って、メーガスの方に視線を移した。
「 あぁ、そういう事なら......そうね。とっとと行きましょう 」
メーガスは私とフールチャイルドの肩に手を添えて、ニッコリ笑いながら目を閉じた。
グワンと空間が歪み、バランス感覚を一瞬にして失ったかと思いきや、転んだ時にはお城の目の前にいた。
そう言えばメーガスは、そもそも大魔法使いだった。
「 いざ、中へ 」
二人とも楽しそうだ。
全てを持っている悠々自適のフールチャイルドには、お城が似合わないわけが無い。
メーガスだって、現実に存在するとしたら確実に王室のアドバイザーといったところだろう。王城にいるのがとても自然な2人。しかし何かが引っ掛かる。何だろう?この違和感は......。
女神イシスの白く柔らかな曲線の多い神殿とは違い、石畳の要塞に近い城の中、薄暗い長い廊下を進み、長い階段を上り、誰に案内されるでもなく王の部屋へと向かう。
王の間の扉の前に辿り着いた。思ったほど扉は大きくはない。
「 失礼します 」
扉の向こうに聞こえているのかは分からないが、どうするのがスマートなのか分からず、まるでスーツを着た会社員のような挨拶だ。
それにしても、王宮の王室というには煌びやかさが全くない。要塞の中にある皇帝専用の控室、といった雰囲気だ。
「 あっ 」
違和感の正体がわかった。
皇帝に会いに来たのに、ここはやはり、城とはいいがたいのだ。
皇帝とは豪華な王城にいるものと思い込んでいたが、同じ王城でもここは、はっきりいって殺風景な石造の要塞。
イメージとのギャップが違和感を生んでいたようだ。
「 ちょっと気付いたかな?さあ、中に入ろう 」
フールチャイルドの言葉に頷き、扉をそっと押してみた。
3人で室内へ入る。皇帝の執務室らしく、大きな机の向こうに青年が書類を片手に佇んでいた。
「 こんにちは 」
思ったよりも若くて緊張感が解ける。
「 よく来てくれた 」
とても紳士的で、若い帝は剣と盾よりも、ペンと書物が似合う参謀といった風貌だ。
「 皇帝はこの奥にいる。参られよ 」
青年は背中を向けて奥の扉へと向かった。なんだ、彼が皇帝なんじゃなかったのか。
「 さっきは使用人の疲れた中年女だったが、こちらは若くて頭がキレそうだな。何だかチグハグだな 」
フールチャイルドは青年を見ながら腰に手を当てた。その言葉に、てっきり皇帝と思った青年こそが自分の男性性の象徴なのだと理解した。
案内に促されて、3人で奥へ進む。
奥の部屋に、煌やかな玉座があった。そうそう、王城とはこういうものでしょ!という装飾の施された大きな一室。
「こんにちは」
玉座からこちらを見つめる眼力は、皇帝だけあってものすごいインパクトだ。
口元だけでニッコリ笑っている。
「 こんにちは、お会いできて嬉しいです。」
全てを見透かしたような強い眼差しに、余計な言葉は一切出てこない。昔の父系社会にいた家長というのが一番近い表現に違いない。とにかく威厳が「 こわい 」のだ。
「 質問させてください。素敵な男性と良きパートナーになるには、どうしたら良いですか? 」
皇帝はゆっくりと口を開いた。
「『 素敵なパートナー 」 とは抽象的すぎる。どういう人が君にとって素敵なのか、きちんと言葉にして把握したまえ。そしてどんなに小さな事でも自分との約束は、必ず守るということだ。
一度やるといったから必ずやり遂げる。そうやって君自身がまず自分にとって、一番最適なパートナーになりなさい 」
「 は、はい。有難うございます。まずは自分、ですね 」
言葉の重みが違う。
自分がひよっこすぎて、恥ずかしくなる。まだまだようやくスタートラインだ。
女帝に続いて、やはり私の中身はよく言えば伸び代しか無い。卑屈になったって、誰も自分以外に、私を助けることなんてできないのだから。
青年に有難う、と告げて、城を後にした。
自分の中のアニムス( 無意識の男性性 )は紳士的だけれど、男性的な力の勢いのようなものは感じられなかった。
そしてこの要塞のような城もきっと、そのヒントに違いない。私の心の壁とでもいうべきか、あんなに戦いそうにもないアニムスだから、きっとこのような砦で頑丈に守ってきたのだろう。
そのことがわかっただけでも、今日も一日成長できた。
「 次に来た時には、もっと強そうな子が出てくる予定だから 」
笑顔で二人に告げると、メーガスからとんでもない答えが返ってきた。
「 次来るといっても、このあと教皇のところへ行ったあとに、あの使用人のような女とさっきの青年は、結婚することになっているから 」




