<Episode.07 戦車> 思考停止でもつれる感情
教会を出ると、石畳の道を大通りまで歩いた。
大通りの先はもう町外れらしく、隣町までは馬車が通れるくらいの幅の、舗装されていない道が続いているのが見える。
夕暮れに差し掛かった頃、遠くから、砂埃を巻き上げながらこちらへ向かってくる馬車があった。
進路が若干グラグラしているところを見ると、馬が暴走しているのではないかとみんなが心配そうに見ているのが伝わってくる。
「 危なっかしいな 」フールチャイルドが言った。
よく見ると、馬車ではなく4体のバラバラな生き物が戦車を引いていた。
「 こちらから出向かなくても向こうからやってくるあたり、さすがは君だね。無鉄砲というか、行動的というか 」
メーガスは少し呆れたように、でも優しくウンウンと頷きながら、暴走車を観察している。
私たち3人は、結婚式を終えたあとすぐに、トートタロット7番目の戦車のアルカナへと向かうところだった。
でも私のフットワークの軽さを象徴するかのように、向こうから目の前に現れた。
「 私はここでどんな問いをもてばいいの? 」
「 あの四体の生き物は、それぞれに君の内面のプロセスの状態を表している。それがそれぞれにどんな状態か、まず観察してごらん 」
メーガスが言った。
「 ライオンと牛が暴走してます。鳥と人面鳥が、なんとか後からついてきている。
ん?みんな上半身と下半身が違う。なんの生き物なの......?」
なんだかライオンの独走に負けじと牛が爆走し、その少し後ろを鳥が今にも転びそうな足どりで後に続き、一番後ろを人面鳥が走っている。
「 ライオンが直感、牛が感覚、鳥が感情、人が理性を表している。ちなみに全部スフィンクスだ。
あれはどこかゴールに向かっているのか? 」
見事な足取りのバラバラ加減に、フールチャイルドが含み笑いでこちらを見た。
直感と感覚フル活用でフットワークが軽い、というのは戦車の状態を見るに一目瞭然だ。
「 あれを見る限り、気持ちがついていってない上に思考停止しているっていう解釈で、あってるのかな......?
ゴールは、『理想の自分像』ってところだと思うんだけれど 」
うーん、と頭を一生懸命に巡らせる。
足がもつれそうなのに気づいてもらえない可哀想な鳥と、温度差にドンびいている残念な人間。
後ろから状況が見えているなら、人間がひと言皆のバランスを保つ気遣いを見せれば済む話なのに。
これがこれまでの自分の中で起きていることだったのだ。気づけてよかったが、なんとも残念な光景だ。
「 場所じゃなくて、随分抽象的なゴールなんだな 」
「 地下のモグラが地上に慣れようと、最近色々と慣れない事を一生懸命頑張ってたからなあ...... 」
必死な鳥の足のもつれっぷりに、とうとうフールチャイルドが吹き出した。
「 こんな夕暮れ時、この先はさらに陽が落ちて名実ともに、お先真っ暗な道なき道だ。あっはっは。
本当にそうならない為に、軌道修正が必要だな 」
「 もっとちゃんとケアします。ここ数年、仕事も自己実現も、進むのが早い人のペースに気を取られていました。
自分を整えているようで、だいぶ無理をしていたようです。あぁ、こんなだから私の女性性は少女のままで止まっていたのね。誰も私の話を聞いてくれないって。
拗ねていて声が聞き取りにくいから、とりあえず行動力でなんとかしようと、もの静かなあの青年一人に負担をかけていたんだ。本当に負のスパイラル。
結婚式で神父は青年に、2人で決めろって仰ってたのは、こういう事だったのね 」
「あっはっは。あー可笑しい。客観的に見れたのはよかったな。今すぐできることから、バランスをとっていけばいいさ」
フールチャイルドが涙を指で拭きながら慰めてくれた。
「直近の目的地を設定してあげるのも、良いかと思いますよ」
メーガスが丁寧にアドバイスをくれた。
直近の目的地かあ。
思った以上に無理が続いて、本来の私からズレてきてしまったようだ。
「はい、これから自分に嘘のない選択ができるよう出直します。ありがとう」
「 この分じゃ、次に会うヤツがどんな感じかも大体想像がつくが、まあとりあえず進むしかないな。続きはまた明日 」
ありがとうと告げてると、2人は姿を消した。




