プロローグ
パスワーキング(Path-working)……
主に西洋魔術において、自己の意識を変容させ、精神的な成長や知識を得るために行われる「瞑想法」や「視覚化技法」のこと。
多くは生命の樹を基に行われる。
生命の樹にある10個の「球(セフィラ、太陽系の惑星に対応する)」と、それらを結ぶ22本の「道(パス、タロットカードの大アルカナに相当する)」を、タロットカードなどを使って意識の中で旅し、22のパス(道)を育てていくことを指す。
「 どうしても嫌、受け入れられない。こんな子を受け入れたらみんなに嫌われてしまう。」
胸の中に、行き場のない怒りが込み上げてきた。
目の前に広がるトートタロット19番目の大アルカナ、「太陽」の世界。
祝福のように燦々と降り注ぐ太陽の光の下、露わになった天真爛漫な内なる子ども・インナーチャイルドの光と影。
現状の流れを止めている原因が自分の内側にあると気づき、自然と足が向かったトートタロット大アルカナを辿るパスワーキングの旅も、ようやく終盤の19番目。
やっとここまで来たのに。
10番目の大アルカナ「運命の輪」が回らなかったのは、
「認めてはならぬ」と岩戸の奥に押し込められてしまった影の子どもを、スフィンクスが静かに流れを止めて守っていたからだったのだとこの期に及んで気がついた。
愛らしい光の子を恨めしく見つめる、影の子ども。
たくさんの恨みつらみと被害者意識を抱えながら、恐ろしく虚栄心が爆発しそうな顔をしている。
自分が一番だと言いたげな傲慢さをそこに感じ取った私は、受け入れ難い拒絶反応を覚えつつ、現実創造の流れが動かない一番の理由がこの子である、という答えに辿り着いた。
全てが自分の投影として現れるこのパスワーキングの世界では、見て見ぬ振りを出来るものなど、何ひとつない。
影の子どものありのままの姿に直面し、想像以上に胸に怒りが沸々と湧いて、どうにもおさまらない。
「あんな子を解放していい訳がない。明るみに出してはいけない。」
今にも自己顕示欲にのまれそうな影の子の表情を見て、迷わずにそう思った。
あの2人を統合するなんてできない。絶対に認めたくない。
影の子は、育て直さなければ……。
なんとかせねばと畳み掛けたその時、アルカナの門番、賢者フクチーぬの声が聞こえてきた。
「あくまであれは君の一部。自分のシャドウは自分自身がありのままを受け入れ、認めてあげなさい。
闇は光と表裏一体。変えようとせずとも、受け止めるだけで良い。
自分の全ての側面を受け入れてからが、理想の現実創造の始まりだよ。」
影の子どもとは、所謂自分のシャドウ、自分の嫌いな側面そのもの。
”ああいう人には絶対にならない” と今まで散々反面教師にしてきた人格が、実は自分のひとつの側面だという。
知識として理解してはいたものの、ここまで消化できていなかったなんて。
許せなくて、情けなくて、涙が止まらなかった。
フクチーぬの言葉に、自分のシャドウを消し去ろうとしていた怒りの炎の大きさに気がつく。
その怒りの炎も隠してきた影の子そのものも、長い間見て見ぬふりをしている間に、バケモノのように大きく膨れ上がってしまっていた。
突き放すことも、認めることもできない。
どれだけ泣いても胸が軽くなることはなく、怒りの炎に焼かれながら手の付けられない真っ黒なバケモノに、あんまり苦しくて私はふと、これまで一緒に旅をしてきた2人の守護精霊の方を見た。
” どんな君でも、私たちは君が大好きだけど?
火中(渦中)はもう苦しいだろう。気の済むまで燃やし尽くしたら、こちらへ出てくるといい。日の光はほら、あったかくてとても気持ちが良いぞ ”
守護存在の一人、フールチャイルドの冷静で温かい声が頭の中に響いた。
ひとしきり残りの火種を燃やし尽くすかのように、わんわん泣いたあと。
「……それにしても、こんなにありのままの自分を嫌われて、あなたも辛かったね。
ずっとずっと、無視してごめんなさい。
それからこんな私といつも一緒にいてくれて有難う。
今日までずっと、黙って待っててくれて、有難う。
......愛してるよ。一緒にいこう。」
言葉に先導してもらうように影の子を抱きしめ、頭を撫でる。光の子も嬉しそうに、ハグに加わる。言葉とはまるで、魔法の杖だ。
守護精霊たちの見守る中、怒りの炎は、いつの間にか青い浄化の火へと変化していた。
2人の子どもを両手いっぱいに抱きしめ、感謝と「完了」の意図を込めるように、それぞれの頬にキスをした。
陰と陽の渦巻きが、涙と浄化の炎を含んで水柱のように立ち、白日に照らされて溶け始めた……。
……わからなくても大丈夫。
進んでいけば、いつか過去にはわからなかったことが、スルスルと紐解けていくタイミングが必ず訪れる。
魂の錬金術の話をしよう。




