錬金術小話④『呪いの色』
錬金術小話④『呪いの色』
『魔術師の杖②ネリアと王都の錬金術師たち』に出てくる〝呪いの色〟。呪術師が作り出したという、ファンタジックな設定です。
こちらの世界で〝呪いの色〟として有名なのは、スウェーデンの薬剤師カール・ヴィルムヘルム・シェーレが、18世紀に合成した『シェーレグリーン』でしょう。
当時の薬剤師は薬局経営のかたわら、店の裏でいろいろと錬金術っぽい化学実験をしていたようです。
天然素材の染料は高価で、安価で大量に作れる合成染料の登場はもてはやされました。こういった実験で培った知識や技術が、後の薬品合成の土台となっていきます。
それはさておき、シェーレグリーンは美しい明るい緑色で、絵画を彩る絵具や壁の塗料に使われ、「この色を塗った壁には虫がつかない」と好評でした。
時の英雄ナポレオン・ボナパルトもこの色を好みました。彼が幽閉されたセント・ヘレナ島の屋敷の内装に、この色はふんだんに使われました。風呂場の壁にも塗られたといいます。
鮮やかな明るい緑は女性たちも魅了します。この色で染めた布を使った緑色のドレスは大流行。けれど着た女性たちが次々に早死にしてしまいます。
実はこの色の正体……猛毒のヒ素化合物でした。発ガン性があり、シェーレ自身も43歳で亡くなりました。
そんな塗料に囲まれて暮らしたナポレオン。彼の直接の死因は胃ガンです。けれどその遺体から採取した頭髪から、大量のヒ素が検出されています。
もしもシェーレがこの色を作らなければ……天才軍師だったナポレオンは再起して、ヨーロッパの歴史を変えていたかもしれません。
もちろん歴史に『もしも』はありませんが……。









