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バロックとの再会と復讐

 アグノスの下町。


 商人ギルドから追放されて以来、俺――ガク・グレンフォードはこの裏通りでひっそりと暮らしている。



 ――――だが今は違う。



 俺はもう罪人のように人の目にさらされない場所を探してそこに逃げ込むようなみじめな日々は送っていない。

 スキル《徳政令》を手に入れ、次々と理不尽な契約を破壊し、困っている人々を救っているのだ。


「ありがとうございます! ガクさま!」

「この借金、帳消しになったって本当ですか!?」

「はい……! おかげで娘が奴隷にならずに済みました……!」


 道を歩けば自然と感謝の声がかかる。

 なにが嬉しいって、見返りなんて求めてないのに、『ありがとう』と言ってもらえることだ。


 俺は今この世界で『誰かの役に立てている』。

 その実感がかつての俺――村上岳の惨めな人生を少しずつ塗り替えてくれていた。



 ________________________________________



 そんなある日――――。


「おい、見ろよ。あれが『スキル無しの無能』だったって噂の……」

「でも最近、すげぇんだろ? 『徳政さま』って呼ばれてるじゃん」

「クソが! あんなオッサンがチヤホヤされて、俺たちはなんなんだよ……」


 嫉妬まじりの視線があちこちから突き刺さってくる。

 まあ、気持ちはわからんでもない。



 けどな――――。



「お前、まだ街にいたのかよ!」


 その声には久しく感じなかった『苛立ち』が混ざっていた。


「……バロックか」


 そう呟いた俺の前に幹部服を着た男がふんぞり返って立っていた。

 数人の取り巻きを引き連れ、鼻で笑うように俺を見下ろしている。


「なんだそのツラ。まだ自分がギルドに戻れるとでも思ってんのか? ああ?」



 バロック・ハンベルグ。

 その正体を俺は知っている。


 俺の頭の中に流れ込んできた村上岳の死後の記憶。

 そこにはっきりとバロックの身体に流れ込んだ魂の正体が映し出されていた。



 ――――バロックは前世で俺の同僚だった『大仲博』だ。



 あのブラック企業で常に俺の手柄を横取りし、嫌味と皮肉でマウントを取ってきた男。

 そして、今のこの世界では、俺を『ギルド追放』に追い込んだ張本人でもある。


「まだしぶとく生きてやがるとはなぁ。無能のくせに」


 その言葉に俺の隣にいた少女グレイが怒りをあらわにする。


「お兄ちゃんは無能なんかじゃない! たくさんの人を助けてきたもん!」

「ガキが口出しすんな。こいつに恩を感じてるとか、正気かよ? お前騙されてるぞ!」 


 バロックが嘲るように笑ったその瞬間。

 俺の中でかつての怒りが音を立てて蘇った。


「ああ。そうだな。無能だと思ってるだろうよ、お前は」

「……あ?」

「だがな、バロック。今のお前――俺の敵じゃない」



 ________________________________________



「へぇー。じゃあ、やっぱお前が今話題の《徳政様》ってわけ?」


 俺はバロックに追放後の自分がなにをしてきたのかを明かした。


「人の借金や契約、勝手に壊して歩く、契約破りのチンピラじゃねぇか。ちょっとは人様の迷惑を考えろよ」


 取り巻きの1人がわざとらしく吐き捨てる。

 だが俺は胸の内で静かにスキルを展開していた。


「ふざけやがって……おい、こいつを潰せ」


 バロックの指示で、配下が俺に殴りかかろうとする。



 その瞬間――――。



「――――《徳政令》発動!」


 俺は彼らの『雇用契約』と知らず知らずのうちに結ばされていた『忠誠契約』を強制解除した。


「うっ……あ、頭が……」

「……な、なんだこれ……? 俺は、なんで……こいつのために……?」


 次々と配下たちの目が正気に戻る。

 契約の縛りから解放され、彼らは自分の行動を見失ったように混乱していた。


「な、なにしやがった!?」

「別に契約を破棄しただけだ――――強制的な契約で縛らないと部下をまとめることができないとか終わってるな」


 バロックが目を見開き、恐怖の混じった声を漏らす。


「お前……!」



 ――――その時だった。



「……顔が変わっても、その腐った態度はやっぱ変わんねぇな」



 俺が――――村上岳が口にしたその言葉で、バロックの表情が凍りついた。



「お前……“村上”か……⁉」


お読みいただきありがとうございました!


今日は余裕があったので2回更新することにしました。

次は18:00頃の更新になると思います!


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よろしくお願いします!


※この作品はカクヨムでも連載しています。

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