異世界にやってきた元同僚の姿
「……これが俺の頭に入ってきた“前世の記憶”だ」
俺は焚き火の前で呟く。
隣で寝息を立てているグレイ、少し離れて見張りをしてくれているアリシア。
「前世でもあなたは辛い思いをしたのね……頑張ってるのに認められなくてそんな最期を迎えるなんて。報われなさすぎだわ。せめて今世では幸せになってほしい」
ちゃんと前世のことを伝えようと思って覚悟を決めた俺はすべてを明かした。
前世の記憶は完璧ではないが、頭に流れ込んできた内容は全部話した。
すると、アリシアは俺を憐れんで手をぎゅっと握ってくれる。
体温が伝わる。
アリシアの柔らかい手の感触に少しどぎまぎしてしまう。
「よし! これからは幸せな日々を送りましょ! さっそく明日は市場に行くわ」
「いきなりだな」
「だってガクさん。働いてばっかで市場でショッピングとかしたことないでしょ。いろんな楽しさを知ってほしいのよ。ね、だから行きましょっ」
「わかった。明日、3人で市場に行こう」
そう言ってすぐに眠りについた俺たち。
――――翌朝。
グレイがパンを手に跳ねるように近づいてくる。
「お兄ちゃん、今日は市場に行くんでしょ? おっきい野菜見たいな!」
「おう、行くぞ」
「あー、ごめんなさい。一緒に行く予定だったんだけど急遽騎士団の視察の仕事が入って。終わったらあたしも合流するわね!」
「謝らなくていい。仕事優先だ。頑張ってこい!」
アリシアは鎧をつけると元気よく笑った。
「ふふっ。今日は訓練、明日は巡回、そのあとは……またガクさんと一緒にいられるかな?」
「時間さえあれば一緒にいてやるよ」
ほんの数日前まで、泥水すすって生きていたというのに。
今ではこうして心許せる仲間と朝食をとっている。
俺は確実に幸福な人生を手に入れつつある。
――――だが。
「全部、終わってねぇんだよな」
ガク・グレンフォードが満足しても、村上岳は満足しない。
頭の隅で今も渦巻くのは、かつての連中の顔。
田永。小林。丹羽。そして――――部長の檀助正。
ヤツらはこの世界に転生あるいは転移している。
なぜ確信したか。
それは流れてきた記憶の中にヤツらの転生後の姿が映し出されていたからだ。
「これは復讐しろと女神から言われているようなもんだろ……」
前世で俺を嘲笑い、踏みにじってきた連中が権力を握り、この世界を牛耳っているかもしれない。
それを思うと、自然と拳が握りしめられていた。
「ガクさん……?」
アリシアがそっと、俺の手に手を重ねた。
「なにか思い悩んでいるようだけど……相談乗るから。安心して」
「……ああ。ありがとう。なんかあったら相談する」
――――スキル《徳政令》。
この力があれば、どんな契約でも、どんな支配でも、打ち砕ける。
俺を縛りつけていた、あの連中の呪縛すらも――――。
この世界は契約で成り立っている。
そして俺のスキルはあらゆる契約を無効にできる
つまり俺はこの世界の『根幹』すら壊せるかもしれない。
だったらやるしかねぇよな。
今度こそ、俺が“俺”として生きるために。
“無能”でも“無スキル”でもねぇ、“俺自身の価値”を証明してやる。
仲間たちを背に――――俺は静かに立ち上がった。
この世界の理不尽を俺がぶっ壊す。
その最初の標的は――アグノス商人ギルドの腐敗の象徴、バロックだ。
「待ってろよ、バロック。今度は、お前が這いつくばる番だ――」
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――――ガクとバロック。
因縁の相手がついに再会する。
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