今度こそ立ち直れないようにクソ部長に鉄槌を下します
「君さえいなければこの世界はもっと穏やかだったんだよ、ガクくん」
「穏やかだと? それはお前たちが上に立ち、下を奴隷にして踏みつけてただけだろ」
「違うなぁ、そういう仕組みが“正しい”って話なんだよ。契約とはね。秩序そのものなんだよ」
「いいや、違う。お前の言う秩序はただの支配だ」
ダンリッドの目が血走る。
「ならば……私の秩序でこの世界を塗り替えてやるッ!」
ヤツのスキル、《契約束縛・最終形》が展開された。
空間そのものに文字が浮かび、あらゆる契約を上書きするような異様な力場が広がっていく。
「契約破棄が十分ではなかったか……」
初めてのパターンだ。
これまでだったら相手のスキルを破棄した時点で、相手はスキルが使えなくなるのが普通だった。
こいつが強敵ってヤツか……。
「スキルの上達具合によっては他のスキルからの干渉を跳ね返すことができる。これ常識だよ。あ、君は最近スキルを手に入れたから知らないか。残念だねぇ」
「ガクを馬鹿にした! 燃やし尽くす!」
するとリリーナが突如、ブレスを吐き散らす。
「ああ! リリーナ。やりすぎはダメよ!」
「え? ダメなの?」
「ダメに決まってるわよ。ここで殺したら尋問とかできないじゃない!」
「へー、人間の文化って面白いねー」
と、むちゃくちゃな会話をしているが――――。
「やれやれ。ドラゴンを連れているとは――――君は昔から変な生き物に好かれる体質だったね」
当のダンリッドは無傷であった。
スキルをうまく使えばこんなこともできるのか?
それとも俺と同じく複数のスキル持ちか?
「《火球》、《落雷》、《水斬》」
俺は再契約によって保持していたスキルをしようする。
正直、他人から奪ったものだからあまり使いたくはなかったが、相手が思った以上に強いので使用する。
だが――――。
「この程度の下級スキルじゃ私のスキルを打ち負かすことはできないよ」
やはり無傷であった。
この男、油断ならない。
「くっ……アリシア、みんな、下がれ!」
「ガクさん、あたしは――!」
「いいから下がれ!」
俺は《徳政令・再契約》を発動。
だが、ダンリッドのスキルは強力だった。再契約を跳ね返してくる。
このままじゃ……相殺しきれない……!
だが、そのとき――――。
「……ガクさん。女神の祝福を――今こそ使ってください!」
「セラ⁉」
セラが後方から両手を掲げ、俺の背中に祝福を授けてくれた。
「こんな時のために女神さまはあなたに《徳政令》をわたしに《聖女》のスキルを与えてくださったんです」
黄金の光が降り注ぐ。
《徳政令・女神の加護版》――発動!
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《徳政令・女神の加護版》が発動した瞬間――――。
世界が静止したかのような感覚に包まれた。
光が契約の文字列を包み込み、ダンリッドの空間を染めていく。
「なっ……私の《契約束縛》が崩れていく!? あり得ん……私はこのスキルでこの世界を手に入れたんだぞッ!」
ダンリッドの顔が歪む。
今までどれだけの契約で人々を縛ってきたのか。
それが、女神の加護を得た《徳政令》によってすべて無に帰されていくのだ。
「消えろ、ダンリッド」
俺の一言に呼応するように、空間に浮かんだ文字列が音を立てて崩壊していく。
《契約束縛》――解除完了。
「ぐ……うぅああああああああああッッッ!」
ダンリッドが膝をつき、口から血を吐いた。
スキルの反動か、それとも契約解除による精神的な反動か。そのどちらでもいい。
アリシアが剣を構え、リリーナが魔力を収束し、セラが女神の魔法を展開する。
そしてグレイは、震える手で俺の背を押した。
「お兄ちゃん、お願い……とどめを」
こいつはあらゆる奴隷の敵だ。
グレイがそう言うのも無理はない。
「……ああ、任せろ」
俺は静かに歩みを進め、ダンリッドの前に立った。
「前世でも今世でもお前は俺の人生を踏みにじった。だがな――」
ダンリッドが顔を上げる。
もう、かつての威圧的な目ではない。
ただの、哀れな老人のようだった。
「――お前に俺の人生を壊させるのはこれが最後だ」
《再契約》発動。
俺はダンリッドの持つすべてのスキル契約を解除し、その力を引き剥がす。
ダンリッドはなんの力も持たないただの人間に戻った。
「な、なんてことを……私は力がなければ……ただの有能な商人でしかない……」
「はぁ……もういいぞ」
俺はそれ以上、なにも言わなかった。
衛兵たちが駆けつけ、ダンリッドを取り押さえた。
彼は抵抗もせず、不気味な笑みだけを浮かべてただ運ばれていく。
「やっと……終わったんだな」
俺は天を仰いだ。煙は晴れ、青空が覗いていた。
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戦後――――。
反乱を企てた貴族や豪商たちは一斉に摘発され、王都の秩序は再構築された。
そして俺は正式に『契約改革の英雄』として称えられた。
女神からの神託により「契約の執行者」としても公式に認められた。
だが、俺にとって本当に大切なのは称号でも地位でもない。
「……セラ、アリシア、リリーナ、グレイ。お前たちがいてくれて、本当に良かった」
「ガクさん……」
「ずっと、信じてたわ!」
「いぇーい! お兄ちゃん最高ー!」
「ガク、飯いこー!」
俺の胸に熱いものが込み上げる。
もう、前世みたいな孤独には戻らない。今の俺には仲間がいる。
今この瞬間を噛みしめるように、俺は空を見上げた。
明日からまた、新たな戦いが始まるだろう。だが――――。
「今度は、俺が誰かの希望になる番だ」
そして俺は、歩き出した。
仲間とともに、契約に支配された世界を変えるために――――。
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