あちこちから上がる火の手
「王都第二区画、商人街で火の手が!」
「クソっ、もう始まりやがったか!」
衛兵たちの怒号が飛び交い、王都の一角に煙が立ち昇る。
静穏だった朝は一転、混沌とした戦場へと変貌を遂げていた。
俺――ガク・グレンフォードは立ち込める煙を見上げながら、拳を握りしめた。
……やはりこのままでは終わらなかったか。
契約社会の闇を見た感じだ。
俺はあらゆるダンリッドを始めとする悪人の契約を片っ端から破棄したつもりだった。
しかし、どうやら破棄漏れがあったようだ。
「ガクさん、壇部長が……部下たちに救出されたとの報告です」
「やっぱり用意周到なあいつは監獄にも手下を配置していたというわけか」
結論から言えば壇助正ことダンリッドは逃亡した。
収監されていた監獄から何者かの手引きによって連れ出されたのをアリシアが発見。
すぐに捜索命令を出すも結局見つからなかった。
「ごめんなさい……まさかあいつがここまで手を回してるなんて」
「たぶん、自分を助ける契約をあらかじめ看守と結んで、自分が収監されたタイミングで発動させたのだろう」
いくら俺のスキルでもそいつがどんな契約を結んだのかをだいたいは把握しておかないと破棄すらできない。
最近はスキルの進化で自動的に契約破棄も行えるようになったのだが、ダンリッドはうまく俺から契約を隠し通し、このような結果になった。
「これまずーいよね。戦いは避けられないよー」
「それはわかっている。だが、できるだけ死者は出ないようにしたい」
そして、あろうことかダンリッドは事前に潜ませていた兵士を動員。
実質、反乱のような行動を取っている。
商人街に火の手が上がったのもそれが理由だ。
商人が商人街を焼くのか……。
「お兄ちゃん、戦争……大丈夫?」
「ああ。問題ない。グレイはいつもどおり俺の後ろに隠れていればいい」
本格的な戦争になる。
――命の奪い合い。
それが起ころうとしていた。
「アリシア、リリーナ、セラ、グレイ。全員、戦闘準備だ。もう来やがったぞ」
「あれだ! 徳政の神とかなんとか言われて調子に乗ってるおっさんだ!」
「しかも騎士団長もいるぞ! 殺せ!」
ヤツらの目は完全に正気を失っているそれだった。
強制力のある契約に操られているのだろう。
「了解だわ、ガクさん! 騎士団長としてあたしが前衛を張る!」
「やってやるよー! 久々のドカーン、炸裂タイム!」
戦闘民族のおふたりは当たり前のように前線に突撃した。
「ギャアアアア! なんでドラゴンなんか。や、やめろおおおお!」
「おい、誰だよ。騎士団長大したことないって言ったヤツはめちゃくちゃ強いじゃないか!」
「テンション上がってきたー」
「リリーナ。あんまり調子に乗ってると痛い目見るわよ」
「ふぁーい」
あっちは大丈夫そうだな。
なんか見るたびに言い合いしている2人だが戦闘の時のコンビネーションはかなりいい。安心して任せられる。
「神殿ルートの情報ではすでに貴族傭兵団と騎士団の一部も裏切ってます。気をつけてください……」
「お兄ちゃん、わたしも頑張る!」
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街中はまさに地獄絵図だった。
火が舞い、爆発が起き、通りのあちこちで混乱する人々。
装備を身につけた傭兵たちが暴徒と化し、正規の衛兵隊と衝突していた。
その中心にいたのはダンリッドの配下である豪商や黒装束の傭兵。
彼らは『ガクを殺せ!』と叫びながら、暴れ回っていた。
「やれやれ人気者になっちまったな……」
「来たか、ガク・グレンフォード! ここで殺してやる!」
声を上げて俺の前に立ちふさがったのは騎士団一番隊隊長を名乗る男だった。
「ちょっとあんた! なんでダンリッド側なのよ!」
「うるさい! お前のせいで……次は俺が騎士団長になる予定だったのに。お前がいたせいでなれなかったじゃないか!」
「そんなの実力で選ばれてんだから当たり前の話じゃない!」
「うるさい! そうだ。ここでこいつを殺せば俺は騎士団長になれる――――死ねよ、ガク・グレンフォード」
こいつは確か王都での会議でも俺を小馬鹿にしていた連中の1人だ。
アリシアの同僚と言ったが……なかなか面倒だな。
「お前のせいで契約秩序が滅茶苦茶だ! 徳政令? ふざけるな! 契約は絶対でなきゃいけねぇんだよ!」
「絶対? ……それはお前らの都合だろうが」
俺は静かにスキルを展開した。
《徳政令・展開》
隊長の目が見開かれる。
「な、なんだ……身体が……動かない!?」
「お前が交わした雇用契約、忠誠契約、裏の誓約……全部解除させてもらった」
「え……うっ――――なんでこんなに興奮していたんだ……」
隊長はその場に崩れ落ちた。
「あんたはもともと出世に興味がない人間でしょ。契約でおかしくなってたのよ……」
「だ、団長……」
「ま、今回の騒動は全部ダンリッドが悪いってことで処理する気満々だからあんたが罪に問われることは、まぁあんまりないわ。少なくとも殺されることは絶対ない――――だから安心して原隊復帰しなさい。あんたたちも!」
アリシアの言葉をきっかけに隊長の部下たち武器を捨て始める。
「これで一番の激戦区は乗り越えたって感じね」
「そうだな。セラ手当ての方は?」
「大丈夫そうです。みなさん命に別状はありません」
こういう時セラを頼るしかない。
回復系のスキルは彼女しか持っていないからな。
その後、俺たちは各地を転々とし、反乱を鎮圧。
そして、ヤツと邂逅する。
「やぁ、また会ったね。契約破棄のクソ英雄さん」
煙の向こうから、ついにヤツが現れた。
ダンリッド――いや、檀助正。




