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上から目線だった部長に天誅を下します

 そこには――――。




 無数の契約書と鎖に繋がれた“奴隷たち”の姿があった。




「ま、まさか……大当たりだなんて」


 アリシアが絶句する。


「こんな場所が……まさか、ギルド公認……?」


 セラが震える声で呟く。


 そのとき、後ろから声が響いた。


「ようこそ、我が“契約倉庫”へ」



 現れたのは――――ダンリッド。



「お前……わざわざこれを見せびらかすために俺を――――」

「そうだよ。日本では奴隷なんていなかったからね。せっかく異世界に来たんだからしっかり奴隷をいたぶらないと。ほら、海外旅行とかでも現地のものを絶対食すタイプだから私」



 奴隷を本気で道具としか思っていない姿勢にグレイが反応する。

 もちろん悪い反応だ。

 眉間にしわを寄せ、明確な敵意を見せるグレイ。



「ごめんな。ダメな大人ばっかで。ちょっと後ろに下がっていて」

「う……うん」


 汚い大人同士の争いに子どもを巻き込むわけにはいかない。


「そういう正義ごっこ前世から大好きだったね。楽しいのそれ? ――――ま、いいや。さて、そろそろ“お遊び”は終わりにしようか、村上くん……いや、“ガク・グレンフォード”くん?」



 仮面が音を立てて剥がれるような感じがした。

 最悪な男の最悪な一面を目の当たりにしたかのような感覚だ。



 冷たい石畳に跪く奴隷たち。

 その上にダンリッド――かつてのパワハラ部長・檀助正だん すけまさが悠然と立っていた。



「お前……まずはその奴隷から降りろよ」

「いやはや……まさかこの異世界で再び君に会えるとはね。運命というのは皮肉なものだね」



 まったく俺の話に聞き耳を持たない。

 本当に好き勝手しゃべってやがる。



「運命? 笑わせるな。お前のようなクズがのうのうと生き延びているこの現実のほうがよっぽど皮肉だよ」




 俺は歯噛みしながら、檀助……ダンリッドを睨み据えた。




 倉庫の奥には奴隷契約で縛られた男たち女たち、子どもたちすらいた。

 契約書は神殿印が押された正規のものに見える。


 しかし、それは偽装されていた。


「これはすべて“合法”だ。彼らは自ら望んで契約した。契約とは誓約であり、誓約とは信仰なのだよ、ガクくん」


 俺の拳が震えた。

 セラが一歩前に出る。


「壇部長、あなた……女神の名を語ってまで、こんなことを……!」

「壇部長か……セラくん。いや経理の世羅くんでいいのかな。女神の名を語る? 違う違う、私こそが“女神の代行者”にふさわしいのさ。君みたいな小娘ではなくな」

「言ったな」



 俺は言葉を切った。



「スキルを持っているだけの女神の代行者を名乗れるなら……俺も名乗っていいことになるよな? 異議はあるか?」

「――――……」


 ダンリッドが一瞬、沈黙した。

 俺は右手を掲げ、力を集中させる。




「《徳政令》、発動」




 空間がねじれ、無数の契約書がバチバチと音を立てて燃え始める。


「な、なにを……ッ!」

「お前の奴隷契約、強制労働契約、さらには婚姻・命・魔族との契約――その全てをここで終わらせる」



 次の瞬間、鎖で縛られていた人々の腕輪が砕け、倒れていた彼らが目を覚ました。



「……ここは……?」

「呪縛が……解けた?」

「うわあああん、助かったあああ……!」


 次々に泣き出す人々。

 やつれた子供が俺の服を握りしめ、ぽろぽろと涙をこぼした。


「……ありがとう、おじちゃん……」


 俺はそっとその頭を撫でる。


「もう大丈夫だ」

「……ふざけるのもたいがいにしないか」

「なに?」

「私がこの世界に来た時には十分な契約という概念がなかった。もちろん王侯貴族や商人は基礎的な概念を理解していた。当然だよ、知らないと経済を回すことができないからね。でも、平民どもはまったく知らなかった。だから、私が普及させた。契約という概念を。私は実質的にこの世界における契約の神なのだよ。にもかかわらず貴様は好き勝手にあちこちで契約を破棄しまわって――――私の作った秩序をなんだと思っているんだ!」




 突然、ダンリッドが狂ったように叫び、背中から奇怪な印章を浮かび上がらせた。




「ならばこちらも……《契約束縛》、発動!!」


 ズォォン! と空間が歪み、契約の網が空間を包み込む。

 動こうとしたアリシアの身体が一瞬硬直する。


「くっ……身体が……!」

「お前たちはもう、私と“命の契約”を結んだ! 逆らう者には死が待つ!」

「それを解除するのが、俺の仕事だ」


 俺はすかさず《徳政令》を発動。


 アリシアたちに課された“命の契約”が消し飛んだ。


「無茶苦茶な……! こんな理不尽がまかり通るものなのかよ。存在することすら許されないスキルだぞ、君のものは」

「この世界の常識で俺のスキルを測るなよ」



 俺はゆっくりとダンリッドに歩み寄る。

 ダンリッドはその場で動かない。



「……なあ、部長。お前さ、昔からそうだったよな」

「……なにを言う……」

「自分より立場の弱い人間を見つけちゃ、怒鳴って、馬鹿にして、踏みにじって。そんなんで“上司”名乗ってた」

「貴様になにがわかる! 俺の苦労も、努力も、お前のような半端者に――!」

「違う」


 俺は言った。


「お前は“努力”じゃなくて、“搾取”してただけだ。部下の成果を盗み、同僚を陥れ、偉そうに椅子にふんぞり返ってただけだ」

「――――!」

「そして今、お前はまた同じことを繰り返してる。この世界でも自分が上に立って、誰かを蹴落として悦に浸ってる」


 俺は振り返り、解放された民たちを示す。


「だがもう、終わりだよ。お前の“契約支配”はここで終わる」


 ダンリッドは下唇を噛む。

 これからどうするべきか熟考しているのだろう。


 数秒後、いきなり手を伸ばしてきた。


「話し合わないか、商人らしく。私は君を高く評価している。この国をともに動かそう。その選択は必ず君にもメリットが――――」

「その言葉、前世でも聞いたよな。『君は優秀だ、だが空気が読めない』ってな」

「お、おおお……」

「お前の“評価”なんか、俺には必要ない」


 俺は最後に言い放った。


「お前に従う義理はもうこの世界にも存在しないんだよ――ダンリッド!」


 俺の《徳政令》が炸裂し、最後の契約が崩壊した。



 ________________________________________



 その後――――。

 ダンリッドはギルドマスターの座を追われ、王都に設けられた特別調査機関に身柄を拘束された。


「ふっ、まるで悪人みたいだな」


 自分のやってきた所業をまるで理解していないところは素直にすごいと思う。

 ヤツはこれからも死ぬまで反省することなどないのだろう。



 俺たちは契約に苦しめられていた民衆たちの眼前に立つ。


 すると民衆は歓声を上げ、俺たちを称えた。


「ガクさま万歳!」

「救世主だ!」

「女神の使徒よ!」



 アリシア、セラ、グレイ、リリーナが俺のそばに立つ。



「これで……少しは世界がマシになったかな」

「マシになってる。いい方向に向かってるわよ!」

「世界が少しでもよくなっていると願いたいです」

「よくわかんない……つまらない。戦いたいなー」

「お兄ちゃんは頑張ってるよ!」


 俺は空を見上げてつぶやいた。





 だが、これはまだ序章に過ぎない。


 契約の闇はまだこの世界に深く根を張っている。


 そして、俺の旅は続く。

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