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前世で一番嫌いだった胡散臭い部長

 国家商業会議――その場で俺が《徳政令》を発動した結果、複数の貴族や豪商たちが契約の解除に見舞われ、会議場は騒然となった。



「なにをするのだ!」

「我が家の奴隷契約が……!」

「バカな……あれは法的にも認可された神聖な契約のはず!」



 貴族たちは怒号を上げ、騒ぎは収まらない。



 だが、俺は動じない。



 この混乱こそが、『この国の病巣』の正体だった。



 セラが一歩前に出る。



「みなさま……どうかお静かに。これは、女神の意思によって執行された“正当な解除”です」

「聖女セラ、あなたまで……!」

「女神は語られました。『理不尽なる契約によって搾取される者たちを救え』と」



 騒ぎの中、壇上に立つ王都商人ギルドマスター・ダンリッドが場を収めようと口を開く。



「……これはあくまで“スキルの発動”にすぎません。皆様、あまり騒ぎ立てぬよう……」


 表面上は穏やかに見せかけているが、その瞳は氷のように冷たい。



 やはり、こいつ……。



 俺は確信する。

 このダンリッド――前世ではパワハラ部長・檀助正だんすけまさ


 ブラック企業の象徴だった男が異世界で商人ギルドの頂点に立っている。




 ――――あいつこそ、この腐った契約社会の元凶だ。




 ヤツならやりかねない。

 前世日本でも常軌を逸した行動を取り続けたのだ。


 ましてや法も倫理もめちゃくちゃなこの異世界なら、たぶんなにをやってもいいとヤツは認識しているだろう。


「この場は、一時閉会といたします。会議の続きは後日改めて」


 ダンリッドの裁定で会議は散会となった。

 さてこれからどうなるものか。



 ________________________________________



 その夜――――。


「ガクさん……あのダンリッドって人、なにかおかしいわね」


 宿に戻ったあと、アリシアが眉をひそめる。


「やっぱお前もわかるのか」

「噂だけなら……有名よ」


 王都にいる時間が俺よりも長いアリシアはなにか知っているようだ。


「この国の契約制度を牛耳っている。奴隷、貴族の婚姻、もちろん商業関係や債権まで。あらゆる契約をね。聞いた話によると彼は転移者か転生者かなにかで、他の世界の契約と言う知識をこの世界に持ち込んだらしいわ」

「どうりでこの異世界は契約が発達しているわけだ」


 普通の中世世界だとここまで日常的に契約が活躍することなんてないだろう。


 スキルを使うたびに疑問を抱いていたのだが、やはり日本からの転生者や転移者が持ち込んでいたのか。


 俺は静かに語る。


「あいつも別世界に来たって……もしかして」

「ああ。俺と前世で因縁がある人間だ――――俺を毎日怒鳴っていた、あのクソ部長――その名は“檀助正”だ」

「……!」



 セラが驚きに息を呑む。



「壇部長――――転生者。いえ、転移者ですか?」

「恐らく、あの飛行機事故のあと、俺たちよりも早く異世界に渡っていたんだろう。あいつは“転移組”だ」

「転生と違って、身体ごとそのまま来てるってことだね」


 と、グレイが補足する。


 ここ最近似たような話ばっかしているからグレイも覚えたのだろう。

 また1つ成長したな。


「じゃあ、外見も……」

「ああ。多少取り繕ってはいるが、あの冷たい目、ニヤついた笑顔、あれは間違いなくアイツだ」


 俺は手にした茶をぐっと飲み干した。


「放っておけば、また誰かが苦しむ。俺はヤツを――止める」


 リリーナがにんまりと笑った。


「うん、やっぱりガクが好き~! こういう正義感あるところ、超イイ!」

「ば、ばか、いきなりなにを言ってるんだ!」


 頬を赤らめた俺を見て、アリシアとセラも慌てて口を開く。


「こ、こういうときにふざけないでよ、リリーナ!」

「そ、そうですっ! 今はそんなことを言ってる場合ではありませんっ!」

「……へ?」


 グレイだけがご飯を食べながら『嫉妬だねぇ~』と呟いていた。



 ________________________________________



 翌日、俺はギルド本部の書庫に忍び込んだ。

 セラのコネで一時的に「記録閲覧許可」が得られたのだ。



 問題はヤツが隠しているとされている“違法契約”の記録があるかどうかだが……。



 分厚い帳簿を手に取り、ページを繰る。


 ギルドでもこうした地道な作業はしてきた。

 懐かしい。そんなに日が経っていないのにな。

 歳を取ると時間の流れが早くなるってか――――。


「どれもきれいすぎる」



 ……改ざんされているな。



 見せかけの数字、形式だけの印章――本物の闇は別の場所にある。

 その時、俺の耳に声が聞こえた。


「これ以上探ると、お前でもただじゃ済まないぞ」

「……誰だ」


 振り向くとそこにはギルド副会長の男。

 目つきは鋭く、明らかに俺を警戒している。


「ダンリッドさまは“契約”を神と等しいものとお考えだ。貴様のような異端が神聖な秩序を壊すことは許されん」

「そうか。なら、俺は“神”に抗ってるってわけだな」


 俺は笑う。


「神だろうがなんだろうが、理不尽な搾取に与する奴は全部――《徳政令》でぶっ壊す」



 ________________________________________



 その夜。

 俺たちが滞在する宿に、1本の手紙が投函された。




『ガク・グレンフォード殿へ。あなたの“正義”に興味がある者より』




 差出人は不明だったが、文中にはこう書かれていた。




『王都郊外“黒煙区”の地下倉庫を調べよ。すべての証拠がそこにある』




「罠なんじゃないの。あたしだったら重武装で目的地に向かうわよ」

「わたしもそう思います……」

「やっぱりそうだよな」



 かなり胡散臭い。

 これで罠じゃない方がおかしい。



「よくわかんないけどとりあえずブレスで吹き飛ばす?」

「それやったら本気でお仕置き確定だからな」

「えー、怖いー」


 だが、ここに留まっていても埒が明かない。

 俺たちは即座に行動に移すことにした。



 王都の裏社会が集まる“黒煙区”へと向かい、倉庫街の一角へ。



「この下か……」


 重い扉を開け、地下へと降りる。





 そこには――――。

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