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ようやく王都に到着!

 王都へ向かう道中、宿場町で一泊した。

 夕暮れ、酒場で食事をしていると、見覚えのある男とすれ違う。



「……ん?」



 すれ違いざま、俺の目と男の視線が一瞬ぶつかる。



 どこかで――見たことがある。

 あの人懐っこい笑顔。

 媚びたような口調。



 ……なのに目が一切笑ってない不気味さ。



 思い出せない。

 だが、胸の奥が冷たくなる。



「……気のせいか」



 あの男は一体――――。



 ________________________________________



「ねぇねぇ、ガクさん。さっきの人、誰?」


 アリシアが俺の顔を覗き込みながらそっと尋ねてくる。

 フローラルな香りがそっと舞う。


「……いや、まだ確信はない。でも、なんか胸騒ぎがした」

「……ふーん。じゃあ気をつけるしかないわね。あなたの勘って当たるから」

「……ああ」



 仮にあの男が“あいつ”だったとしたら――――。

 この先はそうとう厄介な展開になるかもしれない。



 ________________________________________



 翌日、王都の城門が見えてきた。

 巨大な石造りの門。

 鋼鉄の扉。

 その前に立ち並ぶ騎士たち。



 そして、遠くにそびえ立つ王宮と神殿の尖塔。



「……デカいな。どんくらいの金を使ってできてんだろうなー」

「わからないわ。でも、一般人が一生かけても稼ぐことができない大金がつぎ込まれてるのは確かよね」

「国家予算10年分とも聞いたことがありますよ」



 前にも何度か来たことはある。

 だが、こうして“正式な招聘”で入るのは初めてだ。



「身分証明書の提示を」


 騎士の1人が言うとセラが書状を見せる。


「国家商務庁および教会の推薦による召喚ですね」


 そんなたいそうな役所からの呼び出しか。

 あれか。もしや商人ギルド時代の成果がようやく認められてとか……。

 いや、考えすぎか。


「確認しました。明日に行われる王都商業会議にご出席してください」

「ああ……わかった」



 わかったと答えたものの……どんな会議なんだ。



「ガク・グレンフォード殿と随伴者、通行を許可する!」


 門がきしむ音を立てて開かれる。


「……ここからが本番、ってわけか」


 俺は静かに呟いた。


「うおぉ……」


 王都ベルヘルムの大通りに足を踏み入れた瞬間、グレイが思わず感嘆の声を漏らした。

 めちゃくちゃ目を輝かせてるな。


 石畳の通りに立ち並ぶ白壁の商館。

 街を横切るように設置された魔道式の街灯。

 店々の呼び込みの声と、上空を飛ぶ伝書フクロウの影。


「人も建物も全部……すごいね! お兄ちゃん!」


 グレイの落ち着かない様子。

 早く遊びに行きたいということかな。


「おい、騒ぎすぎるな。人混みに紛れて迷子になるぞ」

「わーい! あっちにお肉の匂い! ……あれ?」


 ほら、もうはぐれかけてる。

 俺は慌ててグレイの手を引いた。


「あ、あのお兄ちゃん……リリーナお姉ちゃんがいない」

「――――は?」


 あいつ好き勝手しすぎだろ。

 そこらへんの動物でももうちょっと自重して生きているぞ。


「わたしが探してきますね」

「頼む……」


 数分ではぐれたリリーナを連れて帰ってきたセラ。

 嫌がるリリーナを無理やり引っ張ってくるその様子はまるで母親と駄々っ子のようだった。


「母性の塊……」

「悪いわね。あたしには母性がなくて」


 思わず漏れ出てしまった言葉がアリシアの癇に障ったようだ。


「すみません……」



 ________________________________________



 王都――――それは希望と絶望の交差する巨大都市。

 自由と繁栄の象徴でもあり、搾取と不正の温床でもある。


「でも、ここがこの世界の“中枢”なのね」


 アリシアが神妙な表情で言う。


「この街で……なにかが動こうとしている。そんな予感がするわ」

「おいおい、やめてくれ。そういうの当たるんだよ」


 俺は苦笑しながら肩をすくめた。

 だが、確かに。


 この街で俺たちの旅は1つの節目を迎える――――。



 ________________________________________



「こちらがご宿泊いただく部屋です、ガクさま」


 王都中央区・貴賓館。

 そこに設けられた“特別室”に俺たちは案内された。


「え、ここ……全部使っていいんですか?」

「もちろんです。ガクさまにはそれに相応しい待遇を」


 受付の女性が深々と頭を下げる。

 部屋の広さは下手なホテルのフロア並。

 豪華な絨毯、黄金装飾の柱、窓辺には噴水のある中庭が見える。


「これ、住めるな……」

「もう住もう! 決定! 解散!」


 リリーナが当然のように荷物をぶちまける。


「おいやめろよ! ここは一時的な仮宿だ!」

「でも……ガクさん。こういう場所に来ても、落ち着いていられるようになったんですね」


 セラが嬉しそうに微笑む。


「前ならきっと遠慮して端っこに座ってたと思います」

「……変わったんだよ、俺も。スキルを手に入れて、仲間ができて……この世界で、ようやく俺は“俺”になれた気がする」


 そう。もうあの時代の俺じゃない。

 誰かに罵られて、へらへら笑って、なに1つ言い返せなかった――――。


 そんな“村上岳”はもういない。


「さあ、明日は王都商業会議だ。気合い入れていくぞ」



 ________________________________________



 夜。貴賓館の庭。

 風が涼しく、星空がよく見える。


 俺は1人、ベンチに座っていた。


「……眠れませんか?」


 振り返ると、セラがいた。

 薄手のローブ姿で長い髪が月明かりに照らされている。


「まぁな。明日がちょっとな」

「大丈夫です。ガクさんは誰よりも強い。……あのときだって、飛行機の中でみんながパニックになる中、ガクさんはわたしを守ってくれた」


 セラの瞳が潤む。


「あの時から、わたし……ずっと、ガクさんのこと愛しています……」

「……セラ」


 俺は立ち上がり、彼女の肩に手を置く。


「ありがとう。お前がいてくれて……本当によかった」

「……っ」


 セラが小さく頷き、俺の胸元に顔をうずめる。

 その様子を――――。


「ちょっと待ったァアアアアア! また抜け駆けね!」


 叫びながら駆けてくるアリシア。


「本当になにしてんのよこの夜に! あたしもいるんだからね!?」


 そこへリリーナがパンを持って乱入。


「深夜の食事会してるの~? 呼んでよぉ!」


 そして、なにもわかってないグレイが言う。


「みんなおそろいだね! お兄ちゃん、幸せ者~!」


 ……ああもう。にぎやかだな。


「明日に備えて早く寝ろ! 俺は寝る! おやすみ!」


「「「「おやすみー!!」」」」


 まるで家族の大黒柱の気分だな、まったく――――。

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