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最後の因縁の予感

 ――――俺は深く息を吐く。



「……終わったな」



 静寂の戻った村の空気。

 だが、その静けさの中になにかあたたかいものを感じた。



「――ありがとうございます!」



 村の奥から住民たちが続々と広場に集まってきた。

 老いた農夫、痩せた母親、目を伏せていた少年少女たち。


 その誰もが――解放されていた。



「何度も何度もすみません!」

「また助けていただきました! ありがとうございます!」

「騎士団長さまも! 竜のお嬢ちゃんも! 聖女さまも! あと小さな女の子もこの村を見捨てないでくれてありがとう!」

「神さま……! 本当に神さまだ!」



 わらわらと群がる村人たちに囲まれ、俺は思わず苦笑した。



「いや、俺はただの、おっさんだって」

「違います! ガクさまは俺たちの“救世主”です! いいえ。ガクさまだけじゃありません。みなさんはこの村の救世主です!」

「あなたたちのおかげでまた“人間”として生きられます!」



 その言葉が胸に染みた。



「照れくさいわね」

「もっと褒めて褒めてちょ――――」

「リリーナ、調子乗りすぎよ」

「えー」



 昔、前世で――毎日のように「存在価値がない」と言われていた。



「ガクさん。こうして感謝の言葉をいただくたびに自分の努力が報われた感じがしていいですね」

「ああ……まったくだ」


 上司には怒鳴られ、同僚には見下され、女たちからはゴミを見るような目で扱われた。


「お兄ちゃんよかったね」

「グレイ。怖くなかったか?」

「ううん。全然!」


 そんな俺が、今こうして、“誰かに感謝されている”。

 そんな光景が、たまらなく――


「……嬉しいな」


 涙がこみ上げそうになって、俺は空を見上げた。


 星空はやけに澄んでいた。



 ________________________________________



 翌朝。

 丹羽は村の騎士詰所から、王都へ護送された。


 その姿はもはや、異世界に転生して得た栄光も、スキルも、なにも残ってはいなかった。



「ニワ領主。その罪状、あまりに多し」



 アリシアを通じて届けられた逮捕状は異例の速さで王都に承認された。

 彼が下した“支配契約”の被害者は百人を超える。


「……終わったな」


 今度こそ丹羽との因縁はこれで終わりだ。

 そう悟った俺は無意識にそう呟いていた。


 あの男が泣きながら連行されていく姿は俺の心の奥底に巣食っていた“過去の呪い”を、たしかに払拭してくれた。


 パワハラ上司に抗い続けていた自分が正しかったと証明されたのだから。



 ________________________________________



「……よかった、ガクさん。ほんとうに」


 夕暮れ時、セラがぽつりと言った。


「丹羽さん……かなりひどかったですもんね」


 丹羽はセラに対してもパワハラやセクハラを加えていた。


 今回の騒動に関してはセラは後ろに下がっていたし、そもそも丹羽は俺のことにしか興味がなかったから、セラと丹羽の絡みはなかった。


 けど、もし丹羽がセラの存在に気がついていたら心無い言葉を投げかけて彼女を傷つけていただろう。


「気にするな。むしろセラが狙われなくて本当によかった」


 セラは俺の胸元をきゅっと掴んでくる。


「わたし……昔のあなたを思い出してしまって……。もう、涙が止まらなかったんです」

「……」

「何度もあなたの味方になれたらって、ずっと思ってました。なのに――」

「お前は十分、俺の味方だったよ」


 俺は彼女の頭を軽く撫でた。

 その肩が小さく震える。


「ありがとう……ガクさん……」

「……俺のほうこそ。お前がいたから、心が折れずに済んだ」



 ________________________________________



 翌日。

 村では小さな祝祭が開かれた。


 解放を祝う歌、焚き火の灯り、酒と肉と笑い声。

 俺も珍しくアリシアたちと一緒にその輪に加わっていた。


「あたし、こういうの初めて! キャハハ」


 リリーナが素手で肉にかぶりついていた。

 こいつずっと野生だな……。


「お兄ちゃん、お肉食べよー!」


 グレイがご飯をよそってくれる。


「今日は……素直に楽しまないと損よね」


 アリシアは上品にワインを口に含んでいるがその目はどこか楽しげだった。

 セラも再び戻ってきており、傍らで静かに俺の手を握っていた。



 ああ――――。



 前世じゃ、こんな日は絶対にこなかった。


 でも、異世界の今なら――俺にも、こんな日があっていいのかもしれない。



 ________________________________________



 その夜。

 焚き火の前で俺はそっと、独り言のように呟いた。


「……丹羽の件で、ようやく一区切りか」


 けれど、胸の奥には奇妙な不安があった。

 俺を地獄に落としたやつは――丹羽だけじゃなかった。


 もっと、強大な悪意が、きっとこの世界の“どこか”にまだ残っている。

 そう。あの男。



 ――――檀助正だん・すけまさ



 前世のパワハラサイコパス部長。


「次は……あいつか」


 ヤツもこの世界に来ているはずだ。


 俺は再び立ち上がった。

 この世界を歪める契約地獄をすべて、俺の《徳政令》で――――。


 終わらせるために。

お読みいただきありがとうございました!


いよいよ最終章への突入となりました!


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