かつての上司から村人たちを救う
直接的な戦闘はいらない。
誰かが傷つく必要もない。
俺はスキルを発動する。
「――――《徳政令》、魔族召喚契約・強制破棄」
魔法陣が一瞬でかき消えた。
「な、なにィ……⁉」
ニワが叫ぶ。
「俺の……魔族との契約が……!」
「この世界でもお前の横暴は俺が止める」
俺は拳を握った。
本当は一発顔面を殴ってやりたかったが、それだけじゃこいつは反省すらしないだろう。
だったら――――。
「次は、“暴力”の借りを返す番だ」
「お前なんかに……俺が負けるはずが……!」
ニワがふらつきながら後ずさる。
だが、逃げ場はない。
支配が解けた村人たちが、彼の周囲をゆっくりと取り囲み始めていた。
今まで黙らされ、命じられるままに動かされてきた者たち。
「この人……俺たちを解放してくれたんだな……」
「思い出したぞ……あのとき、娘を婚姻契約で売られそうになって……!」
「こいつのせいで、俺の家族はっ!」
怒りと悲しみ、そして長年の屈辱が村人たちの顔に浮かぶ。
だが、俺は前に出て手をかざした。
「待て。手を出すな」
俺の言葉に、村人たちは一瞬ひるんだ。
「そいつはお前たちの怒りをぶつけるための存在じゃない」
「……え?」
「こいつの報いは……“無力になること”だ」
俺はゆっくりとニワに近づく。
「お前は今まで、“立場”と“スキル”で他人を支配してきた」
ニワは顔をひきつらせ、必死に虚勢を張る。
「お、俺にはまだ《支配》のスキルがある……また契約すれば……!」
「そうか。じゃあ、お前の最後の砦をここで粉砕してやる」
俺は手を掲げ、スキルを発動した。
「《再契約》――“支配スキル”契約、破棄。そして、奪還」
ニワの全身がビリビリと震え、空気が軋むような音が響いた。
「ぐあああああああああああああああああっ!!」
彼の体から黒いオーラが抜け出し、俺の胸へと吸い込まれる。
次の瞬間、俺のスキル欄に《支配》が追加されていた。
「お前は……もう、スキルのないただの人間だ」
「う、嘘だ……嘘だぁ……! 俺が世界を支配する夢が!」
ニワはその場に崩れ落ち、手で顔を覆った。
「俺は強いんだ……偉いんだ……! お前みたいな下っ端とは違うんだ……!」
「お前のその思考が、まさに“パワハラ”そのものなんだよ」
俺は無感情に言い放った。
「前世も今世も……あんたは、誰かを“下”に見ないと自分の価値を保てなかった」
沈黙の中、村人の1人――年配の農夫が、震える声で言った。
「この人は……裁かれるんですか……?」
俺は頷く。
「もちろんだ。契約によって支配した村人の数、その不正と搾取の数々――――」
セラがうなずく。
「王都に報告書を送りました。この男は教義を偽り、人間を“物”として扱った重罪人として処されます」
アリシアも前に出て、剣を突きつけた。
「領主としての権限は剥奪。あとは王都の司法が裁くだけよ」
「……はっ、はは……そんなこと、してみろ……! この村は混乱するぞ……誰がまとめる……」
「……それを言う資格は、お前にはない」
俺は静かに言い返す。
そこに、村の子供たちが数人、そろそろと前に出てきた。
「おじちゃん……ありがとう……!」
「母ちゃんが泣いてた。お前が来てくれてよかったって」
「村を、助けてくれて……!」
その言葉に胸が熱くなる。
38年の人生。何もできなかった前世。
罵られて、否定されて、生きる意味さえ見失っていた俺。
でも――今、この手で、誰かを救うことができた。
「……助けたのは、俺じゃない。俺の“スキル”だ」
「ちがうよ、おじちゃん!」
少年が叫んだ。
「そのスキルで助けてくれたのは、“おじちゃんの意思”だもん!」
俺はふっと笑った。
子どもってのは純粋だ。
誰がどう見てもスキルのおかげだと言うのに、俺のおかげだって言ってくれた。
その曇りなき眼をありありと見せつけられてしまったら、俺もちょっと若返った気がする。
「……そうだな。ありがとよ」
これでまた前世の因縁を1つ片付けることができた。
そう思っていた矢先――――。
「ガクさま! に、ニワが……ニワが暴走状態です!」
「なんだと⁉」




