リリーナ、再び暴走⁉
「……ドラゴンの気配だ……⁉」
「ぼ、暴走しているんじゃね⁉」
「ま、マズいぞ!」
赤髪に青い瞳。
大きな翼を生やした少女――ドラゴン娘リリーナ。
その身体から、なにやら黒い瘴気のようなものが漏れていた。
「ちょ、ちょっと……なんか、胸がもやもやするー――――なんでみんなお兄ちゃんの周りにいるの……?」
その瞬間、辺りの空気がバチバチと鳴る。
誰かが叫ぶ。
「や、やべえ! この子、マジ暴走するぞ!」
「まさか、竜化しかけてるのか⁉」
「巻き込まれるぞ! 逃げろ!」
そう――これは、リリーナが感情を制御しきれずに竜化を始めている兆候だった。
「くっ、マズいぞ。あいつ本気で暴れ出す……! なんでこのタイミングで」
別にふざけて暴走しているわけじゃない。
本当になんらかの理由で身体の制御が取れなくなって暴発しそうになっているのだ。
「リリーナ、落ち着け!」
俺が一歩踏み出そうとしたときだった。
「リリーナさん、落ち着いて!」
セラがすぐさま反応して祈りを捧げる。
その祈りはリリーナを癒すが、効果はないようだ。
「女神さま……どうか、彼女の心を鎮めて……!」
アリシアもリリーナの前に立ちふさがる。
「リリーナ! ここで暴れたら、村の人が死ぬのよ!」
だが、リリーナは止まらない。
「ちょっ、え……あたし……いや……いやあああああああっ!」
黒い魔力が爆発しかけた瞬間――。
俺は一歩、前に出た。
「リリーナ。お前……怒りの感情が、妙に強くないか?」
「わかんない……でも、ムカムカして、胸が苦しくて、苦しくて……!」
「――《徳政令》」
俺はスキルを発動した。
光がリリーナを包み、その身体の奥に潜んでいた“なにか”を暴く。
それは――――。
「“怒り増幅契約”……⁉」
セラが叫ぶ。
「まさか、魔王との契約にそんな項目が……!」
そう。リリーナの魔王との契約には『感情を増幅させ、暴走を誘発する』という副作用があったのだ。
それを俺のスキルで強制解除。
契約が霧散し、リリーナの身体から黒い瘴気が抜けていく。
「はっ……あ、あれ……?」
リリーナが倒れかけた。
俺は抱きとめる。
「……もう大丈夫だ」
「……ガク……ありがとぉ……」
彼女は泣きながら、俺の胸に顔をうずめた。
「そうだ」
「ん?」
こいつとはまだちゃんと踊っていない。
「リリーナ」
ちょっと小恥ずかしいけど……膝をついてリリーナの手を取る。
「お前と踊りたい」
「ガク……ううっ、ありがとぉ」
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祭りの喧騒は奇跡のような沈黙へと変わっていた。
誰もが俺とリリーナの姿を見つめていた。
そして――――。
「ガクさまー!」
「やっぱり、ガクさまはただ者じゃない!」
「救世主だ!」
歓声が上がる。
まるで、神の奇跡を目の当たりにしたかのように。
セラは手を合わせて微笑んだ。
「やはり……あなたこそ、女神さまの選んだ方です……」
アリシアは悔しそうにしながら、俺の横でつぶやく。
「でも、やっぱり好きよ、ガクさん……」
「あたしのライバルいっぱいじゃん……」
グレイがパンを食べながら、真顔で言った。
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夜、宿屋の部屋。
俺は1人、ベッドに腰を下ろしていた。
……なんだこの人生。
元は冴えない中年係長。ブラック企業でパワハラされ、死んで、転生して――。
今は聖女、騎士団長、ドラゴン、元奴隷の少女に囲まれている。
ありがたい……が、正直戸惑っている。
「……俺になにができる?」
ふと、手を見る。
そこには、スキル《徳政令》の刻印が、静かに光っていた。
このスキルがあれば、契約による不幸を、少しは減らせるかもしれない。
なら――――。
「王都にも助けを求めている人がいるかもしれない……」
心に決めた。
誰かのために。自分のために。
この、ちょっとだけ報われ始めた人生のために。




