おっさん、美少女たちとダンスする
「……お兄ちゃん、寝てる?」
朝の柔らかな陽射しの中、誰かの声で目が覚めた。
……グレイか。
「ううん、まだ寝てる顔してるね。でも、起きてる気がする」
ああ……くすぐったい。
さては俺の髪の毛をいじってるな、この子。
「お兄ちゃんの髪、ボサボサ。ちょっとだけ整えてあげるね。……ふふっ」
「ありがとう」
俺は目を閉じたまま、苦笑する。
これがグレイとの朝の日常だ。
「グレイ、もう十分甘えたでしょう? 交代よ」
騎士団制服をぴっちり着た金髪美少女がぬっと顔を出してきた。
「アリシアお姉ちゃんも甘えたいモード?」
「当然でしょ」
いや、そんな甘えて当然みたいな顔するなよ。
「お兄ちゃんはあたしとおねえちゃんの家族だよ?」
「ふふっ。でもあたしの恋人にもなれるのよ?」
「え~~~!? それなんかズルい!」
――そして。
「わたし、入っても……いいでしょうか?」
神殿衣装に身を包んだ青髪の聖女・セラが静かに部屋に入ってくる。
……これは、マズい。
「おはようございます、ガクさん」
「あ、ああ……おはよう……」
俺は寝起きのまま、ハーレム状態になっていた。
そう、この旅が始まってから、俺を巡る空気は少しずつ変わってきている。
まるで――。
――戦争のように。
「あれ? リリーナは?」
「寝てるわよ」
「なかなか起きませんね……」
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その日の朝食時。
俺は、いつものようにパンを口にしていた。
席には俺、グレイ、アリシア、セラ、そしてドラゴン娘のリリーナ。
「ふわぁ……おなかすいた~。パンもっとない~?」
「リリーナ、あなたもう六枚目よ……」
「ドラゴンの胃袋はブラックホールだよ?」
……うるせぇ。朝から騒がしい。
一番遅く起きてきてロクに朝食の準備もしなかったクセに飯は食うんだな。
その隣で静かに火花を散らす2人がいた。
セラとアリシア。
「今日は、わたしがガクさんの隣、失礼しますね」
「はいはい。どうぞ、どうぞ。……でも、ガクさんはたしの隣が落ち着くって言ってたわよ?」
「そんなこと……ありましたっけ?」
「あるのよ。たしかに、三年前。ガクさんが道端で酔っ払って寝ていた時の話かしら」
「状況が特殊すぎます……!」
にこやかな笑顔。
だが、目は笑っていない。
いや、お前らほんとに落ち着け。
「お兄ちゃん、あたしの隣空いてるよ?」
グレイ……お前も今はお口チャックだ。
火に油を注がないでくれ。
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旅の道中、俺たちは王都へ向けて街道を進んでいた。
馬車を使わず、徒歩の旅。
その方が人々と接する機会も多く、契約問題の調査もしやすい。
だが、この旅にはもう1つの問題があった。
――ヒロイン正妻戦争。
「ガクさん、こっちの花、あなたに似合いそうです」
「まあセラ、ありがとう。……でもガクさん、あたしが摘んできた薬草の方が役に立つと思うの」
「ふふっ、花も心を癒しますよ?」
「でも、薬草は身体を癒すのよ?」
なんだこの二択問題は。
「お兄ちゃんには、にんじんスティック! なんか疲れてそうだから栄養取って!」
「おいグレイ、お前はただの栄養士か」
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「仮面舞踏会ですって⁉ 近くの村であるのね!」
「面白そうだね~ ということで参加決定!」
「リリーナ。お前は別に決定権持ってないだろ」
旅の夜のことだ。
街道沿いの村、偶然にも「仮面舞踏会」が開かれるという話を耳にした。
村の収穫祭の一環らしい。
「わたしたちも参加しましょう、ガクさん」
「ええ、せっかくだし、息抜きも必要よね!」
即決だった。
しかし、問題は衣装だ。
「お兄ちゃんは、黒のスーツで!」
「アリシアさんは……深紅のドレスかな?」
「セラちゃんは、純白でしょー!」
「リリーナはドラゴンの正装として……裸がいいなー!」
「おいそれはやめろ。マジでやめろ」
確かにドラゴン形態の時は四六時中裸であるから言っていることは間違っていない。
だけど、普通の女の子の見た目で全裸はダメだ。
刺激があまりにも強すぎる。
最終的にセラは神殿の正式な祝祭ドレス。
アリシアは騎士団の正装ドレス。
リリーナは……なんかフリフリのドレスに着せられていた。
服に着られている感半端ないな。
グレイも似たようなドレスを着ているが、リリーナよりも様になってるな。
そして――舞踏会当日。
村の広場には、灯籠と花々で飾られた幻想的な空間が広がっていた。
人々が仮面をつけて踊り、笑い、飲んでいた。
「わたしと踊ってくださいますか、ガクさん?」
セラが手を差し出す。
それを見て、アリシアが即座に反応する。
「その前にあたしが! あたしと踊るのが先でしょ、ガクさん!」
「ふたりとも順番! 順番だよ!」
グレイは串焼きを手になぜか踊り出す。
「じゃーあたしはガクさんとベッドで踊るー!」
「リリーナ! これそういうパーティーじゃないんだよ!」
祭りは大混乱だった。
仮面舞踏会の広場では、今まさに混沌が巻き起こっていた。
村の青年たちがセラに群がると、次々に踊りたいと申し出ていた。
「聖女さま……! 一曲お願いします!」
「いや、僕と! お願いします!」
「ガクさまと踊っておられた聖女さま、眩しすぎて正視できない!」
――――その一方。
アリシアと踊っていた俺は彼女が徐々に顔を赤らめていくのに気づいた。
「……ガクさん、やっぱり踊るの、恥ずかしいわね……」
「いや、似合ってるぞ。そのドレスも、動きも」
「……へ、変なこと言わないでよ、バカ……」
その光景を見て、セラの信者たちは膝から崩れ落ちる。
「うわああああ! 騎士団長とまで……!」
「我らの聖女と、おっさんを巡って取り合い……だと……?」
村の娘たちも騒ぎ始める。
「聖女さまと騎士団長が、あの男を取り合ってるのよ!」
「いったい何者なの⁉」
「わたしも……ガクさまと踊りたい!」
「……よし、抜け駆けはナシだ!」
ついに、見知らぬ女性たちまで踊りに乱入し始めた。
「が、ガクさん! この状況はまずいです!」
「いや、ほんとにまずいな……俺、なにしたっけ?」
祭りの雰囲気は熱狂から狂騒へ。
――――だが。
次の瞬間、広場が凍りついた。




