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おっさん、龍退治に向かう

 チュラスの街の南。

 鬱蒼とした山岳地帯に向かう道を俺たちは揺れる馬車で進んでいた。



 車体がガタゴトと揺れる。



「やっぱり……こっちの山道は揺れが激しいですね」



 そう言ったのは聖女セラ。

 座席で身体を支えるようにしながら、俺に微笑みかける。


 車内の揺れに合わせて、その豊かな果実が揺れている事実を俺は見逃さなかった。

 だが、直視する勇気もなく、チラリと一瞥しては目を逸らすというのを繰り返している。


(うわ……傍から見たらかなりキモイな)


 やめておこう。

 グレイの教育に悪いし……。


「まあ、舗装されてない道だしな。こんなもんだ」

「お兄ちゃん。もう飽きたよー! おなかすいたー!」

「さっき肉まん三個食べたばかりだろ……」



 グレイがぐずる声を聞きながら、俺は馬車の前方に目をやる。



 案内役のアリシアが馬の手綱を握っている後ろ姿が見える。

 彼女はいつもの騎士服姿ではなく、動きやすい旅装に身を包んでいた。



 明らかに騎士団所属だとわかる姿で行ったらサボっていると勘違いされるかもしれないからね、と本人は言っていたのだが大丈夫なのか……。


 アリシアが仕事仲間になんて思われているのか、父さん心配だよ……。


「ガクさん、あの峰を越えたところが例の目撃現場よ。昨日も冒険者が一団ごと返り討ちにあったらしいわ」



 アリシアが振り返り、真剣な面持ちで俺に告げる。



「やっぱりドラゴンってことか?」

「そうね。しかも――ただのドラゴンじゃないわ。“高位竜エルダードラゴン”の可能性があるらしいの」

「……本気で言ってんのかよ」


 ドラゴンの中でも高位に分類される存在、それがエルダードラゴン。

 生半可なスキルや武器じゃ歯が立たない、災害級の魔物だ。



 しかも今回はそのドラゴンが街道付近に出現して、商隊や旅人を襲っているという話だと聞く。



 当然、冒険者ギルドでは依頼を掲示したものの、誰もまともに対応できずにいる。



「ガクさんなら。いいえ、あたしたちなら倒せると思ってるわ」



 アリシアのその言葉に俺は苦笑した。



「まぁな……俺たちなら倒せるだろ」


 俺には《徳政令》がある。

 あらゆる契約を無効化するスキル。

 そして進化形の《再契約》――相手の契約を奪い、自らのものとする力も。



 魔物が何かしらの契約で力を得ているなら、それを無効化するのも可能だ。



 仲間を守る力が俺にはある。

 だからこそ俺はこの依頼を受けた。


「……よし、もうすぐ着く。みんな、準備しておけ」



 そう声をかけるとアリシアも、セラも、そしてグレイも小さく頷いた。



 山の上空には確かに不自然な黒雲が渦巻いていた。

 その中心になにか――“異形の存在”がいる気配がする。



 ________________________________________




 その正体を目の当たりにしたのはそれから30分後だった。




 高地に開けた草原。

 その中央に圧倒的な存在感を放っていた。


「めちゃくちゃデケェな……」


 思わず息を吞んでしまう。


 全身を赤黒い鱗に覆われた、巨大な竜。

 その両翼は山の斜面にまで届きそうなほど広く、ただそこにいるだけで周囲の空気が震えていた。




「――――リリーナ」




 俺の隣でセラがそう呟いた。


「知ってるのか?」

「記録に残っています。500年前、魔王と契約し人間を襲った“魔竜”……その名前がリリーナです。その契約は絶大なもので現在も魔竜リリーナの動きをコントロールしている模様です」




 魔王との契約? 




「でも――――ガクさんなら心配ないわね」


 アリシアがニヤリと笑う。

 ああ、そうだ。なにも心配はいらない。


「悪い魔王の手下? になってる竜ちゃんを助けてあげて!」

「ああ。もちろんだ」


 魔王との契約が原因で人間を襲っているのなら、その契約を解除すればいいだけの話。

 もちろん契約関係なく人間を殺すのなら、そのときは容赦しない。


 俺には守るべきものがあるんだ。


「グレイ、セラ、アリシア。少し下がってろ」

「気をつけてくださいね」

「全面的に任せるわ。あたしは手を出さない――――でも、契約破棄を行ってもなお攻撃をする意思を見せるなら戦う」

「ああ。その時は一緒に戦ってくれ」


 俺は前に進み出て巨大な竜の前に立ちはだかった。


 すると竜がこちらに首を向ける。

 瞳は澄んだ青――だが、どこか苦しげな色をしていた。


「……キミ、危ないよ?」




 ――――喋った?




「人間の言葉を話せるのか」


 驚いた。

 だがそれ以上に、俺は確信する。



 この竜は誰かに“戦わされて”いる。



「リリーナ。お前、魔王と契約しているな?」

「そうだけど……それが、なにか?」



 竜の声は――どこか戸惑っていた。



 戦いたくない。

 でも、戦わなければならない。

 そんな矛盾を抱えていた。



 俺は《徳政令》を発動した。



「《徳政令》――命令対象:魔王との戦闘契約、対象:リリーナ」


 光が走った。


 次の瞬間、リリーナの体から黒い紋様が解けるように消えた。


「え……嘘、力が抜けてく……」


 ドサリ、と音を立てて地面に倒れる竜。


 魔王との契約で得ていた力を失い、ただのドラゴンとなったリリーナ。

 しかし、今や人間の手にも負える存在になっていた。



 ________________________________________



 俺たちは竜を取り囲んだ。


 といっても、今や完全に無力化されている。

 反撃の気配はない。


「お兄ちゃん、これ……女の子だよ!」


 グレイが興奮気味に言った。




 俺が顔を上げると、そこには――――。




 人間の姿に変身したリリーナが全裸でこちらを見つめていた。

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