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今さら冒険者登録をしようとすると、馬鹿にされたので見返しました

 アグノスの街――――。



 俺を追放した商人ギルドはそのあと、想像以上に速く崩壊したらしい。



 当然の結果だ。

 資金の運用に関しては俺がほとんど1人で回していたようなものだったのだからな。



 あいつらに俺の代わりが務まるはずもない。



 だが、だからといって――――。



「……今さら頭を下げてくるか」





 ギルドの使いの者が土下座寸前の姿勢で頼みに来たのは三日前のことだ。


「ガク……いえ、ガクさま。どうか戻ってきてください! ギルドマスター職をご用意します!」

「残念だが断らせてもらおう」



 俺はそう言い放ち、即答で門前払いした。



 確かにマスター職のオファーは魅力的かもしれない。

 金も権力も思いのままだろう。




 ――――だが、俺はもう、そんな環境に戻る気はなかった。




 あそこに戻れば、また俺は“システムの一部”として搾取される側に立つことになる。

 しかも、グレイやセラ、アリシアといった大切な仲間を巻き込むことにつながるかもしれない。



 それだけは避けたいんだ。



「お兄ちゃん、ほんとによかったの? ギルドマスターって、なんかすっごく偉いんでしょ?」


 グレイが心配そうに見上げてくる。

 つぶらな瞳がかわいい。


「ああ、いいんだ。もう俺は誰かの下で働く気はない」


 セラがそっと紅茶を差し出してくれた。


「……自由でいましょう、ガクさん。あなたは十分働きましたから」


 アリシアが静かにうなづく。


「自由か。そうだな。もう十分誰かのために働いてきたんだ。自分のためにいろいろやってもバチは当たらないさ」

「そうよ。もっと自由に生きましょ。あたしたちが一緒ならどこででもやっていけるわ」


 そうだ。今の俺には仲間がいる。

 だからこそ、新しい選択ができる。


「というわけで、俺は“冒険者”になる。商人としての、社畜としてのガク・グレンフォードはここで終わりだ!」

「やったー!! 楽しい旅の始まりだー!」

「新たな門出ね!」

「今度こそ幸せな人生を……ガクさん」


 グレイが無邪気に喜び、アリシアが小さくガッツポーズをする。

 セラは相変わらず控えめな笑みを浮かべた。




 ――――こうして俺は“商人”から“冒険者”へと、正式に肩書きを変えることになった。




 ________________________________________



「チュラスの冒険者ギルドで正式登録をしようと思う」


 商人よりも冒険者の方が性に合っている。

 最近、気がついたことだ。


 俺はそんな気づきに従って今、冒険者ギルドの前に立っている。



 新天地に選んだのは、王都ベルヘルムのすぐ南にある街――チュラス。



 王都の衛星都市のような位置づけの街で貴族や官僚が別荘を構えることも多い。

 そのぶん、街の治安は保たれているが、内部の利権構造はドス黒いとのこと。


 でも、しばらく住んでみて、チュラスはいい街だと判断した。

 市場は盛況だし、街の人もいい人が多い。

 アグノスにも俺を擁護してくれる人間はたくさんいたんだがな。


 この際、新しい人生を始めてみたい、という思いで本拠地を移すことにした。


「チュラスで登録するのね。ま、あたし的には王都でしてほしかったけど別にいいわ……。チュラスでも十分よ」


 王都にいるアリシア的にチュラスだと都合がいいらしい。

 なんでも毎日会いに来れるからだとさ。


「ギルド登録、ですね」


 冒険者ギルドの受付で俺たちは申し込み手続きを始めた。



 が――――。



「……えーと、スキル《徳政令》? また変な名前の外れスキルね。しかも無属性?」



 受付嬢があからさまに顔をしかめた。


(ガク・グレンフォードという名前はアグノスほど浸透していないみたいだな)


「ええ……。無属性のスキルです」

「無属性の外れスキルですか……」

「うう……」


 この世界ではスキルの“見た目”と“属性”で価値が決まる。

 炎系、剣技系、回復系、そういった“わかりやすい”スキル以外は評価されないのだ。


「年齢……38歳。えー、まさかの初心者ですか?」

「そうだが、なにか問題でも?」

「い、いえ。ありません」


 露骨な態度の変化にグレイが怒りの声を上げる。


「お兄ちゃんはすごいんだよ! いろんな人を助けてきたんだから!」


 受付嬢は苦笑して言った。


「はぁ……そういう“自称英雄”さん、最近多いんですよねぇ」

「…………」


 俺は黙っていた。


 罵倒にも近い評価。

 だが、これも“最初の洗礼”だ。

 冒険者とは、そんなもんだと知っている。



 だからこそ力で証明する必要があるんだ。




 ________________________________________



 冒険者になるためには、形式上の“試験”が必要だ。

 依頼の模擬実行や簡単な戦闘訓練などが行われ、一定の評価を得ると登録が認可される。


「はぁ? このおっさんも受けるの? 大丈夫? このギルド」


 試験場では既に数人の若い男たちが集まっていた。

 彼らは筋肉隆々で見るからに腕自慢な連中。


 当然、俺を見る目には軽蔑の色が含まれている。


「年食った素人がなにしに来たんだよ」

「女を侍らせてハーレムか? ふざけんなよ。冒険者なめてんじゃねーぞ!」

「ここは老人の来るところじゃねーんだよ!」

「家族サービスかな?」



 その言葉にセラとアリシアの眉がピクリと動いた。



「黙りなさい。ガクさんに対する侮辱は許さないわ」

「そ、そうです……ガクさんは誰よりも……!」

「は? はぁ⁉ 聖女さまと騎士団長さまがお供だと⁉」

「あ、頭を下げるぞ!」

「も、申し訳ございませんでしたああああ!」



 しかし、その謝罪は俺に向けられたものではない。

 セラとアリシアに向けられたものだ。



 実際、若者たちはぶつぶつと文句を言いながら試験場に入っていった。



 その目は確かに俺を“嫉妬”していた。

 ――――ま、口だけで信用してもらえるとも思っていない。



 力で証明してやる。

 冒険者らしくな。

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