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久々の再会だからセラとどこかに出かけたい

 チュラスの街角で偶然に再会したあの日を俺は生涯忘れることはないだろう。





 前世も現世も同僚であり、そして唯一俺を理解して味方でいてくれた存在――――セラ・ミストリア。





 最初はお互い姿が変わっておりまったく気がつかなかった。



 特に俺の場合は最近前世の記憶がドバドバとあふれ出した形なので、本当にあの世羅なのかを確認することができなかった。



 でも、彼女はしっかりと俺のことを覚えていた。

 ガク・グレンフォードという男に村上岳の面影を感じたのだろう。



「村上岳という名前に聞き覚えはないか?」



 突飛な発言に眉をひそめることもなく、すぐに俺のことを信じてくれた。



「ガクさん――――」


 泣き崩れた彼女を抱きとめたあの瞬間から、俺の心のどこかにずっと温かなものが残っていた。



 ________________________________________



 数日が過ぎた。


 俺が追放されたあの日、セラは《聖女》のスキルを持っているということで王都に招聘され、そこで正式に教会所属の聖女になったようだ。


 だが、しっかりとした見送りができなかったことを悔やんでいたようで、何度も王都の外に出たいと懇願していたようだ。



 そして、ようやく1人前の聖女として認められ、各地に巡行することが許可された。



 なので巡礼という名目でこの町に滞在を続けている。


 騎士団長を務めているアリシアと元奴隷の義妹グレイもともにいて、最近ではなぜか朝から晩まで、飯の支度から戦闘訓練、果ては洗濯物の取り合いにまで巻き込まれている俺だが――――。



「……ガクさん。今日は2人だけで出かけませんか?」



 そう控えめに誘ってきたセラに俺は思わず目を見開いた。



「2人で? いいのか、アリシアやグレイは」

「もちろん。もう許可を得ています」



 許可制なのかよ。

 女の世界は怖いな。



「『ライバルだけど応援してる』とアリシアさんも笑ってましたし」



 ライバルなのかよ。

 会って数日だぞ、あの2人は……。



「グレイちゃんには『うちのお兄ちゃんをよろしく!』って……」

「そうか……グレイもか」

「そうなんです。グレイちゃんにガクさんのこと頼まれちゃいました」



 そう言って小さく笑うセラの表情に俺は胸を突かれた。



 セラの表情はどこまでも穏やかであのブラック企業で過ごしていた鬱屈とした日々の中でも彼女だけは変わらず優しかった。


「お前はいつもそう優しい笑顔を見せてくれたな」

「笑顔が素敵な人が好きって言っていたじゃないですか」

「そんなこと言ったっけ?」


 まったく記憶がない。


 現世の話か?


 ギルドで働いていた時は四六時中一緒にいるわけでもなかったし、どちらかというとちょっと挨拶を交わす程度だったんだがな。


 たまに仕事を教えたりはしていたがそんなことは言った覚えはない。


 訝しんだ俺は前世の記憶を探ってみるが……ないな。

 前世の俺はもう典型的なイケていないおっさんだった。

 そんな気の利いた言葉をかけてやれる余裕なんてなかったはずだ。


「ふふっ。覚えてないんですね。無意識に本音を漏らしてしまった、ということにしておきます」

「そうしてくれ。俺は思ったことを口にしてしまうタイプなんでな」


 この性格が災いして前世も現世も煙たがられていたのだが、今回の場合は俺の性格がいい方向に働いたな。


「じゃあ、行くか。……たまには、俺も少しくらい楽しませてもらわないとな」

「……はいっ」



 ________________________________________



 今日は快晴だ。

 デートをするなら屋内よりも屋外だろ、とデート知識に乏しい俺の独断と偏見のもとにデート先が選定されることになった。


 俺たちは商人と職人が軒を連ねる通りを歩いていた。

 チュラスの東側、観光用に整備された道は石畳が美しくどこか王都の文化も感じられる。



 やはりこの街は美しいな。


 しばらく滞在したらすぐに他の街に行ってみようと思っていたが、もう少しいてもいいのかもしれない。そう思わせる魅力があった。



 セラはいつもの白い神殿服ではなく、簡素ながらも上品な薄青のワンピース姿で現れた。正直、こういう上品で可憐なお嬢さま服、好きだ。



 なんというか触れたらそのまま壊れてしまうのではないか。

 そんなガラス人形みたいな儚さが彼女には似合っていると個人的には思う。



「……珍しいな。神殿服じゃないのか」

「今日は“聖女”じゃなく、“1人の女の子”として過ごしたくて……」


 その言葉に俺は不意に心臓を撃ち抜かれたような衝撃を覚えた。


 何十年ぶりだろうな――――女の子からこんなふうに見られるのは。


 俺はしがないおっさんだ。

 スキルなし、髭も無精、清潔感があるとも言えない中年だ。


 だがセラの瞳はまっすぐに俺だけを捉えていた。




 その瞳を見てしまうだけで思わず好きになってしまう。




「じゃ、まずは腹ごしらえからだな。おすすめの屋台があるんだ」


 以前、仕事で訪問した際にうまいと思った店がある。

 今日はそこに案内したい。


「ふふっ、楽しみです」


 セラは笑顔で頷き、俺の隣に寄り添う。



 通りすがりの人々が二度見していたのは気のせいじゃない。



 いやー、そうだよな。

 中年男と清楚で美しい少女聖女――どう見ても不釣り合いにしか見えない。


 だが、セラはなにも気にしていないように、俺の腕をそっと掴んだ。


「……あ、あの。ちょっ、ちょっとだけ、こうしてもいいですか?」

「……おう」


 と、次の瞬間にはぎこちない感じで手を繋がれた。


 なんだこれ、俺いま――初の手繋ぎデートしてる!?

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