第9話 魔族
青い肌、頭に角を持った三人の男女が、山道を歩いていた。
「なかなかいねえな、獲物」
リーダー格のバルが舌打ちをした。
三人の中で最も体格が良く、腕力に秀でた男だ。
「鹿も猪も隠れてやがる」
「人間のせいで数が減ってるのよ、後先考えず狩るから」
同行していたルギがため息をついた。魔族の女性である。
「今日はなんとしても家族に食事を持って帰らないと…」
細身のドガはお腹を空かせた妻子の顔を思い描いていた。
ルギは自分の腹をさすりながらドガに言った。
「うらやましいわ。私は、母親になることもできない」
種族の長『魔王』を失うと、魔族全体が繁殖能力を失う。
一体何故か。それは彼ら自身にも分からなかった。
とにかく十年前の戦で魔王がいなくなってから、新しい子が生まれない。種族が衰退するのだ。
「弱音を吐くな。次の魔王様が生まれるまでの辛抱だ」
「……いつになるのかしらね」
早くて何十年後、もしくは何百年後か。
ルギは自嘲するように笑った。
いくら人間より寿命が長いと言っても、自分は産める時期が過ぎているだろう。
繁殖ができなくなった魔族に、ある日奇跡のように一人の子が生まれる。
それが新しい『魔王』となり、種族全体に繁殖期が訪れるのだが……生きているうちにその奇跡に立ち会えるとも思えなかった。
それでも、いつか来るその日の為に、一人でも多く生き延びなければいけない。種の存続のために。
彼らがこの山に来たのは、三か月ほど前のことだ。
ドガの妻子と、ルギの両親、そして力が強く彼らを先導するバル、八人ほどの魔族の群れがここに流れ着いた。
そして、狩りの能力に長けたほぼ同年代の三人が、食事の調達の為に山を歩き回っているのだった。
「おい」
「んぐっ」
バルがふと立ち止まり、後ろに歩くドガが彼の背中にぶつかって声を上げた。
「……人間の匂いがする」
「えっ」
ルギも神経を鼻に集中させた。本当だ。
「……火が見える。あっちだな」
ドガが指を指す。彼は三人の中で一番目が良かった。
「人間が……三ついる。一つは子供だ」
三人は顔を見合わせて、頷き合う。
この十年、人間達には住む場所を追われ、仲間を殺され、散々な目に遭わされてきた。
腹いせに喰ったところで、罰は当たらないだろう。