表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者薄命  作者: ぬかびと
9/16

第9話 魔族

 青い肌、頭に角を持った三人の男女が、山道を歩いていた。


「なかなかいねえな、獲物」


 リーダー格のバルが舌打ちをした。

 三人の中で最も体格が良く、腕力に秀でた男だ。


「鹿も猪も隠れてやがる」

「人間のせいで数が減ってるのよ、後先考えず狩るから」


 同行していたルギがため息をついた。魔族の女性である。


「今日はなんとしても家族に食事を持って帰らないと…」


 細身のドガはお腹を空かせた妻子の顔を思い描いていた。

 ルギは自分の腹をさすりながらドガに言った。


「うらやましいわ。私は、母親になることもできない」


 種族の長『魔王』を失うと、魔族全体が繁殖能力を失う。

 一体何故か。それは彼ら自身にも分からなかった。

 とにかく十年前の戦で魔王がいなくなってから、新しい子が生まれない。種族が衰退するのだ。


「弱音を吐くな。次の魔王様が生まれるまでの辛抱だ」

「……いつになるのかしらね」


 早くて何十年後、もしくは何百年後か。

 ルギは自嘲するように笑った。

 いくら人間より寿命が長いと言っても、自分は産める時期が過ぎているだろう。

 繁殖ができなくなった魔族に、ある日奇跡のように一人の子が生まれる。

 それが新しい『魔王』となり、種族全体に繁殖期が訪れるのだが……生きているうちにその奇跡に立ち会えるとも思えなかった。

 それでも、いつか来るその日の為に、一人でも多く生き延びなければいけない。種の存続のために。

 彼らがこの山に来たのは、三か月ほど前のことだ。

 ドガの妻子と、ルギの両親、そして力が強く彼らを先導するバル、八人ほどの魔族の群れがここに流れ着いた。

 そして、狩りの能力に長けたほぼ同年代の三人が、食事の調達の為に山を歩き回っているのだった。


「おい」

「んぐっ」


 バルがふと立ち止まり、後ろに歩くドガが彼の背中にぶつかって声を上げた。


「……人間の匂いがする」

「えっ」


 ルギも神経を鼻に集中させた。本当だ。


「……火が見える。あっちだな」


 ドガが指を指す。彼は三人の中で一番目が良かった。


「人間が……三ついる。一つは子供だ」


 三人は顔を見合わせて、頷き合う。

 この十年、人間達には住む場所を追われ、仲間を殺され、散々な目に遭わされてきた。

 腹いせに喰ったところで、罰は当たらないだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ