08
「あ、もう朝になっちゃう」
「うん……凄く眠たいよ」
まさか朝までずっと喋り続けるなんて思わなかったというのが強い。
窓の外に意識を向けるとすぐにやられてしまいそうになってやめた、矛盾しているけど陽の光を浴びてもやられない人間でよかったと思った。
「でも、満足できるまで付き合うって言ったのは主だよ?」
「そうだけど、そもそも泊まっちゃってよかったの? 静君が寂しがるんじゃ……」
「ないない、あの子なんて宿題かすぐに遊びにいくんだから、それに一緒にいても『お姉ちゃんは素直じゃない』って言うだけでしょ」
まあ、ちょっと格好つけたいお年頃なのだ、杏が参加するとすぐにらしくないことを言ってしまう彼女と同じ、似ている姉弟というだけのことだ。
「ふぁ……だけど眠たくなってきたかも」
「それなら客間に布団を敷くよ」
僕も眠たいから敷いた後に部屋に移動して寝る、というところかな。
彼女がいる状態でだからそこまでゆっくり寝ることもできないし、一時間程度で足りるだろうから彼女を困らせてしまうということもないだろう。
「その間、主は?」
「部屋で寝るよ」
「や、それだと起きたときにすぐに動けないから一緒のところにいてよ」
「流石にそれは――近いよ」
家に上がる、上がってもらう、泊まってもらうということをしている僕だけど、流石に一緒の部屋で寝るというのはラインを超えてしまっている気がした。
僕達の関係が友達ではなくて付き合っている状態だったのであれば――いや、それならそれで距離が近い分、余計に危ないかと片付ける。
怖いのは彼女ができたときの自分を知らないということだ、調子に乗るのか、いまのままを貫けるのか、後者だったらいいけど……。
「泊まっている時点でわかるよね? そもそも私の家に上がったり、家に上げてくれているのだって前とは違うからなんじゃないの?」
「あーまあ、前とは違うよね」
こっちが変わっているのもあるものの、大きいのは彼女がわかりやすく変わったことだった。
だから僕もそこまで恐れずに動くことができる、その結果、前よりももっと仲を深められているということだから嬉しい。
「鈍感の主だってここまで変わった私を見ればなにも言われなくてもわかるでしょ?」
「気に入ってくれたということか」
「ま、主は優しくしてくれたしね」
鈍感ではなくてその状態でもできないことはあるということだ。
「あ、やっぱり家に帰ろうかな」
「それなら送るよ」
残念だけど危ないことをしなくていいならその方が絶対にいい。
「や、私はベッド派だからね、布団を敷いてあげるから主も寝ればいいよ」
「慈が寝不足になる方が不味いからそうしたいなら早くいこう、静君に相手をしてもらっておくよ」
「そういうのいいから」
とにかく移動だ。
彼女の部屋の横に静君の部屋があることがわかったのはいい、でも、時間も時間で頼ることもできないし、自由に移動もできないということ、腕をがしい! と掴まれたことによって部屋に連れ込まれてしまった。
「お姉ちゃん……?」
早起きできて偉い。
僕が小学生の頃は……どうだったけ? 少なくとも楽しい夏休みだったはずだけど。
お婆ちゃんがまだいてくれた頃でよく朝からお昼頃まで話していたということは覚えている、ただ、それ以外がちょっと……。
蓋をしてしまっているということなのだろうか? 苛められていたとかそういうことはないからそんなことをする必要もないんだけどね。
「ただいま」
「あ、主ちゃんもいる、もしかして夜に帰ってきていたの?」
「いま帰ってきたんだよ、眠たいから寝るけどね」
「ふぅ、それなら主ちゃんがひまになっちゃうから僕もここにいる」
とにかく静君に感謝するしかない。
一人で待つことになっていたら気まずいどころの話ではなかった、目のやり場にも困って固まっていることしかできなかったところだ。
「お願いね、主が帰ろうとしていたらがしっと掴んで止めてね」
「やっぱり僕の部屋にいこ」
「まあ、それでもいいけど帰らせないでね」
「わかった」
更に助けてくれて廊下に出てからお礼を言うと「だってなんかよくないから」と教えてくれた。
うんうん、正にその通りだ、小学生の子でもわかっていることを高校二年生の子がわかっていないのは不味い。
「主ちゃんはそこに座って」
「わかった」
「マンガもあるよ?」
「それより静君とお喋りがしたいかな」
「わかった、それなら最近、お友達と話したことを教えてあげる」
ああ、この前の子の話みたいだ。
最近は誘ったり誘われたりして仲を深めているみたい、ただ、素直になれないところもあるらしくて(静君からしたら)困っているらしい。
でも、慈のときみたいにそのままぶつけると上手くいかないとわかっているからかわりの方法を探しているとのことだった。
「大事なのはいちいち慌てないことだね、相手が素直になれていないときでも余裕な態度でいられたら落ち着いてくれるから」
「おお、お姉ちゃんで練習してきたからだよね」
「う、うーん、別にそういうわけではないけどね」
「わかった、ならお姉ちゃんが起きた後にいってくるね」
「はは、頑張って」
多分、その子からしたら積極的にくる静君が怖いだろうけど……うん。
ま、まあ、仲良くできるならそれが一番いいから余計なことは言わなくていいかと片付け、どんどんと話してもらったのだった。
「ちょっと適当なことを言わないでよ、静の声が聞こえてきて全く寝られないんですけど」
「お姉ちゃんが起きてきたからお友達のお家にいってくる」
「まだ早くない?」
「ちょっと公園で走ってからいくからだいじょうぶ、いってきます」
この前のことがあるからそのまま受け取ることはできなかったけど、残念ながら止めることもできなかった。
移動するのが速いうえに彼女の家ということで自由に動くことができなかったからだ、まあ、仮に自宅であっても帰りたがっている子を無理やり止めるなんてことはできなかったからそうなった瞬間に敗北は決まっていたことになる。
「はぁ、このままここにいたら弟の部屋で変なことをしている気分になるから戻ろ」
「流石に部屋主がいないならそうだね」
残念だけど仕方がないから移動して床に座ったタイミングで彼女が足に頭を預けてきて驚いた。
「ベ、ベッド派なんでしょ?」
「んーそんなに悪くないかも」
「あ、あの、慈……?」
せめてちゃんとこちらの話を聞いてもらいたいところだ。
心配しなくても逃げたりはしない、逃げるつもりならこの部屋に入る前にやっぱり帰る! という風に行動している。
「これは主に逃げられないための作戦だけど、これで気持ち良く寝られるならいいよね」
「僕が帰るのがそんなに嫌なの?」
「約束をしている状態なんだからそんなの当たり前でしょ」
「そっか、ちょっと残念だな」
なにか他の理由も少しぐらいはあってくれればとは考えてしまう。
これも前とは違うからだ、上手くいくなら前の方がよかったとはならないけど、上手くいかなかったらこうならなかった方がいいと言えることだ。
「は? はぁ……だから全部言わせないでよ、素直になれないようにさせているのは正直、主とかのせいだよねこれ」
「す、素直じゃないと認めるだと……? やばい、今日は体調が悪いのかもしれない」
「いいから黙ってて、別に頭にぐらいなら触ってもいいから」
寝ているところに自由にしているみたいに見えるからやめておいた。
本当に眠たかったのかすぐに寝息を立て始めたからこちらも目を閉じてなんとか休めないか努力を始めた、その結果、次に目を開けたときには十四時になっていたからそんなに悪くは――彼女にじっと見られていなければ悪くない時間だった。
「主って器用なんだね、私なんて静に足を貸したときに二時間で限界がきたからすごいよ」
「徹夜をしたからだよ、慈だって同じ条件ならできるよ」
ではなく、心臓に悪いからやめてもらいたいたかった。
「や、それって主に朝からお昼まで足を貸すってことでしょ? 借りるのはいいけど貸すのは嫌」
「はは、それでこそ慈だよ」
とりあえず似たようなことは関係が変わるまではやらない方がよかった。
関係が変わったうえで彼女が求めてきたのであれば……まあ、その場合はなにか予定でもない限りはやらせてもらう。
「あと、寝ていると可愛い顔をすることもわかった」
「あ、僕は寝顔を見ていないから安心してね」
「別に見られてもいいけどね、甘えておきながら見るなとか言う人間がいたら引くよ」
「そっか」
さて、今更ながらに足が疲れたからやめさせてもらことにしよう。
彼女も意地悪というわけではないから「ありがとね」とすぐに受け入れてくれたため、起きたばかりで悪いけど外にいかないかと頼んでみる。
「なるほどね、だけどそれなら私達が返さなければならないんじゃないの?」
「そんなのはいいよ、静君の好きなお菓子かなにか教えてくれないかな?」
「じゃあいこ、静が帰ってくるまでに買っておいてあたかも最初からそこにありましたよという感じにしたいから」
「そうだね、直接渡すとループになっちゃうからね」
自分が返す分にはいいものの、やはり返そうとされると困ってしまうのだ。
「あ、だけどその前に一つ言いたいことがあるんだよ」
「うん?」
「主のこと好きだよ」
「え……?」
ちゃんと聞こえたけどなんでこのタイミングでなのか……。
「だから主のことが好きだって言っているの、今度は聞こえたでしょ?」
「い、いや、最初から聞こえていたけど驚きすぎて……」
「はは、余裕がある態度じゃなくてよかったよ、その方が私としても落ち着けるしね」
ひ、一人で落ち着いている場合ではないけど……。
でも、今回は本当にいい笑みを浮かべていたからそのことについてはこれ以上、広げずにありがとうと答えておいたのだった。




