06
「あっつ……」
「大丈夫? 飲み物なら複数本買ってあるからあるよ?」
もう温くなってしまっているけど飲まないよりはマシだ。
「飲み物ならちゃんと飲んでいるから大丈夫だよ、だけどいくら飲もうと暑いものは暑いの」
「それならもう帰る? 周君や平先輩だって休んでいるからさ」
「まだいい、これだけ移動してきて一時間程度で帰るのは微妙だし」
もったいないというのもあるし、やっぱり外にいることが好きな子でもあるみたいだ。
でも、まだまだいたいなら付き合うだけだ。
「落ち着ける場所だね」
「他は知らないけど冬に来てもいい場所だよここは」
「そうなんだ、じゃあ冬になったらいってみようかな」
あまり人もいないから適当なところに座ってぼうっと前を見ているだけでもいい時間になりそうだった。
まあ、できれば一人だけでも他に誰かがいてくれた方がいいけど……わざわざ寒い日にここまで付き合ってくれる人はいなさそうだからね……。
「一人で? 流石に一人じゃ寂しいよ」
「なら葭葉さんが付き合ってくれるの?」
これは話の流れで出しただけで付き合ってくれても付き合ってくれなくてもどちらでもいいことだった。
ただ、最近はこういうことも増えて狙っているかのように見られてしまうかもしれないから気をつけなければならないかもしれない。
「別にいいけど杏先輩は連れていかない、あの人、複数人になるとすぐに暴走するから」
「はは、それは葭葉さんもそうだよ」
周君も似たようなものだけどすぐに落ち着いてしまうということがわかった、だから最初から最後まで普段と変わってしまうのは彼女と先輩だけだ。
「は? はぁ、そういうのじゃないって」
「そっか、じゃあ葭葉さんが冬になっても覚えていたらよろしくね」
「そのときになったら鹿山君が誘ってきて、そうしたら考えてあげなくもない」
冬か、僕は僕らしく過ごしているところが容易に想像できるものの、それ以外については……うん。
周君がきっかけで彼女や先輩と関われたように小さなきっかけで新しい友達ができている可能性とか、関わってくれている誰かが誰かと付き合ったりとか、時間が経過することで起きた変化が多そうだからなぁと内で呟く。
「冬のときの僕らはどうなっているんだろうね」
「いまの私達と変わらないでしょ」
「変わっていないなら変わっていないでいいけどね、こうして普通に一緒に過ごせているということだし」
「ま、普通はそうでしょ」
冬が終わって春になれば先輩は大学生に、静君は中学生になるということだ。
僕達は高校三年生に、卒業したら社会人に、想像よりも早く過ぎていく。
「ねえ」
「うん?」
考え事をしていてもこの距離なら聞き逃したりはしない、この点で考えれば自分が言い出したプールではなくて海でよかったと言える。
「引っ越したくなかった?」
「え? いや、両親には悪いけど引っ越せてよかったよ、できれば最初からあの高校にいられていた方がよかったとはたまに考えるけどね」
二年生の春からだと少し物足りないかもしれない……なんて少し前までなら考えることもしなかったけどいまは無理だ。
前の僕からしたら贅沢というかわがままというか、正直、邪魔にしかならないそれだけど抑え込もうとしたところで出てくるものは出てきてしまうという状態だった。
「大袈裟に言っていただけで友達の一人ぐらいはいたんでしょ? 別れることになって寂しいとかなかったの?」
「話せる子はいたけどいまとは違うからね。でも、いまはもうどこかにいきたくないし、友達とは一緒にいたいよ」
一年や二年で終わりになんかしたくない、大きく出ていいならお爺さんやお婆さんになっても一緒にいたいぐらいだ。
「どうだか、離れることになっても『仕方がないよ』とか言ってすぐに片付けてしまいそうなのに」
「ないよ」
「先のことなんかわからないでしょ」
「知ってしまったらもう戻れないよ、だからこの点については先のことであってもわかるんだ。僕はどこまでいっても僕のままなんだからね」
知らなかった僕が自分らしくを貫いてきたからだ、ただ、これまでの僕を知らないから彼女が信じられなくても仕方がない。
「あっつ……」
「はは、戻ったね」
「うるさいうるさい、あっちに戻るよ」
「わかった」
今回はここで終わりにして帰ることになりそうだ。
それでも小学校のときと同じぐらいには楽しめたからあとはなにもないままでも問題はない。
「はぁ、すぐに調子に、ぎゃ――」
「っと、大丈夫?」
「はぁ、もう私もお婆ちゃんなのかもね……」
たまに転びそうになることぐらい誰でもあるから大丈夫だ、できればあまりない方がいいけど避けられないときはある。
それでも傷ついてほしくないから誰かが側にいてくれるときがよかった、いまみたいに支えられればなんとかなる。
「おかえりなさい」
「杏先輩、私はもうお婆ちゃんになっちゃった」
「鹿山さん、慈さんはどうしてしまったんですか?」
先程あったことを教えたら「私もありますから大丈夫ですよ」と返していた、彼女は「それで安心なんかできませんよ」とやたらと真面目な顔で吐いたのだった。
「お邪魔しまーす」
「なかなかに珍しいことだよね」
「そうだね、いつもなら僕のお家に来てもらっているところだからね」
そういう気分だったから、たったそれだけしか教えてくれなかった。
まあ、移動しなくていいのは楽だから不満は大してない、それに今日集まった理由だって勉強をするために、だからだ。
「ちゃんと塗れていなかったみたいで結局、赤くなっちゃった」
「残念だったね、後からできることって冷やすこととかかな?」
「うーん……これより痒くなったりしたら嫌だからとりあえずやめておくよ」
どうしても気になるようだったら云々と口にしてから勉強道具を広げてやり始めた。
まだ七月だけど今月の内に終わらせておきたいため、今日頑張っておくとかなり楽になるのは確かだ。
「ねえ主」
「わからないところでもあった?」
「急にアイスが食べたくなっちゃった」
「アイスかぁ、ごめん、家にはないんだ」
「だからいまから食べにいこう!」
あー……仕方がない、帰ってから一人で頑張ろう。
必要な物を持って外に出るとまだまだ遠いからなのか「急いで主っ」と急にハイテンションになった周君、そこままでもなかったのに勉強をしたくないと脳が逃避をしてしまったのかもしれない。
僕の家まで来てくれたのがその証拠だ、彼だってちゃんとやろうとしていた、だけど夏休みということが大きく出た形がきっとここに繋がっている。
「で、杏先輩だけじゃなくてなんで私も誘われたの?」
はは、受け入れて出てきた状態で言うのが面白い。
ちなみに先輩の方は弱っているから面白がっている場合ではないのも事実だった。
本人に聞いたら暑すぎて耐えられないというわけではないらしいけど、ならなにがあってここまで弱っているのだろうか。
「え、慈ちゃんだってアイスを食べたいよね?」
「家にあるやつで十分なんですけど……」
「まあまあ、外で食べるとまた違うからいこうよ」
やはりこうして出てきている時点で、という話ではあるし、こちらからしたら心配になるから早く移動を始めたかった。
「鹿山君から勉強をやるために集まるって聞いていたけど嘘だったんだ」
「集まったよ? だけどアイスが食べたくなったんだ」
「なにそれ、今年は誘惑に負けてばかりじゃん」
「アイスが美味しいのが悪い、暑い中でわざわざ出てまで食べる価値があるんだからね」
よしよし、助かる。
「平先輩いきましょう」
「て、手を……手が無理なら腕を掴んでおいてください……」
「わかりました、失礼します」
「お、おお、躊躇なく手を掴めるんですね」
「はい、いきましょう」
お店に着くまでの間、いちいち振り返るよりもわかりやすいから助かる。
もちろん、頼まれたりしなければベタベタ触れたりはしないから安心してほしい。
「や、やっど着いだ……」
「周君も夏が苦手なの?」
「暑いのもあるし、いちいち遠すぎだよここは……」
「はは、確かに遠いというところは同意見かな」
それでもこの前の海なんかに比べたら近いから疲れるまではいかないレベルだ。
また少し遠い分、着いたときに達成感みたいなものが得られるから楽しくはある。
ただ、よくお買い物にいく母のことを考えればもう少しぐらいは近い場所にあってくれればと考えるときはあった。
「で、いつまで手を繋いでいるの? 見ているだけでこっちが暑くなってくるんだけど」
「あ、もういいか」
帰りはきっとアイスパワーとかで大丈夫だろうからもう安心だ。
「ありがとうございました」
「いえ、気にしないでください」
アイスならこれ! というお気に入りがあって毎回それしか買わないから悩んだりはしない、本当なら待っていたいところだけど商品を持ったままうろちょろもしたくない身だからささっとお会計を済ませて外で待つ。
「お気に入りのアイスがあってよかったです」
「よかったですね、僕もこれがなかったら泣きたくなるので助かりました」
楽しくはあるなどと言っておいて矛盾しているけど、アイスのために出てきているわけだから好きなアイスが売り切れていてなにも影響を受けないということは無理だ。
「お金を使おうとしたらちくちくとお母さんから言葉で刺されて気分が下がっていたので誘ってもらえてよかったです」
「はは、それなら周君に言ってあげてください」
ではなく、お金を使うなと怒られたのにいいのだろうか? 連れ出した僕らが今度は言葉で刺される番なのでは……。
よ、よし、それこそアイスを食べて出てきた複雑なそれをなんとかしてしまおう。
「有谷さんにも連れていってくれた鹿山さんにも感謝! というところですね」
「僕は――ぐぁ、何故腕を引っ張られたのか……」
あ、危ない危ない、袋から取り出したアイスを危うく落としてしまうところだった。
振り返ってみるといい笑みを浮かべて「早く食べないとアイスが溶けちゃうよ主っ」と周君が、とても僕を危険な状態にした子とは思えない顔だ。
「お、教えてくれてありがとう、引っ張ってくれなければもっとよかったよ……」
「まあまあ、早く食べよう!」
……溶けてしまうから食べよう。
食べ始めた際に葭葉さんも戻ってきてくれたからよかった。
「はぁ、だから落ち着いてって言っておいたのに」
「はは、仕方がないよ、お祭りならテンションは上がっちゃうよ」
「でも、涎でべしゃべしゃだけどいいの?」
「いいよ、それだけ信用してくれているってことだと思うから」
「はぁ、静にまで格好つけるなんて……」
ま、まあ、お姉ちゃんの方が厳しくても頼ってくれているということには変わらないから気にする必要はないだろう。
ただ一つ残念だったのは周君も先輩も参加は無理だったということだ……。
「あの二人も参加できればよかったんだけど残念だったね」
「別に? 私としては静を見ておかないといけないから遊んでいる場合じゃないし」
「ご両親に任されているんだよね? 頼まれたからだとしてもちゃんとお姉ちゃんで偉いね」
過去の学校で不仲の姉弟をよく見ていたからその差が大きいというか、単純に静君目線で見て確実にいいお姉ちゃんだからというのもある。
「だから別にそういうのじゃない、私が静が楽しそうにしているところを見たいだけ」
「はは、そうだね、静君が楽しそうならいいね」
「だけどまあ、一人だと大変だから付き合ってくれて感謝……しているよ」
「はは、少しでも力になれているならよかった」
僕としても葭葉姉弟が付き合ってくれているおかげで夏祭りを友達と楽しめているからありがたい話だ。
この前のと同じ、用事があるから仕方がないと片付けようとしてもどうしても気になってしまう、だから大袈裟かもしれないけど救ってくれたようなものだ。
ならそのいいことをしてくれた子達のために動くのは当然のことで、このことで感謝なんかする必要はなかった。
「な、なにか追加で買ってくる」
「なにが欲しい? 僕がいってくるから葭葉さんは静君を見ておいてあげて」
「じゃあまた焼きそば……多分、起きたらまた食べたくなるだろうから」
「わかった」
ついでに自分の両親の分まで買ってしまうことにした、誘っても「そんなに空気が読めないことはできないよ」と断られてしまった分、少しだけでも楽しんでほしいと考えてのことだ。
買って戻ると静君の髪を撫でつつ微笑を浮かべている葭葉さんが、邪魔をしたくなくて少し遠いところから見ていると気づかれて早く来いという風に手を振られてしまった。
「はぁ、こそこそ見ているとか頭おかしくなったの?」
「いいところだったから邪魔をしたくなかったんだよ」
「変態」
「はは、それでもいいよ、見られただけで満足しているから」
それより静君の方はこれだけ賑やかな場所でよく寝られるな、それとある程度のところで起こしておかないと寝なければいけないときに寝られなくなりそうだからあまり見守っている場合ではないのも確かだった。
なんか前からこういうことばかりだ、でも、連れてきたならちゃんと動かなければならないことには変わらない、先輩と違って小学生というのも違うところだ。
「なに開き直っているの、下手をしたら通報されているところなんだからね」
「葭葉さんはそんなことをしないよ、それに他の女の人にはしないから大丈夫かな」
「なにそれ、全然嬉しくないんですけど」
「はは、とにかくこれ」
「ありがとう、だけどまだ話は終わってないから」
もうだいぶお腹がいっぱいでそこまで動きたいわけではないから続けてもらっても構わない。
悪いことをしたとは思っていないから続けられても僕らしく返すだけだ、足りないということならお祭りが終わった後にだって付き合おう。
「お姉ちゃん……」
「ん? どうしたの?」
「まだまだ途中だけど帰りたい」
「はあ? え、ちょ、マジで言っているの?」
これは流石に驚いた、彼女よりも驚いている自信がある。
先程まで寝ていたからはしゃぎ疲れたことによる眠さだってどこかにいっただろうし、謎だ。
だってこれから彼が楽しみにしていた花火が打ち上げられる時間がくる、家に帰っても見られないわけではないだろうけどもったいないと言えた、音だけ楽しみたいなら……まあ、悪くはないけども。
「うん」
「は、花火が楽しみだ~って言っていたでしょ?」
「でも、じゃまをしたくない」
流石に驚きすぎて後ろに倒れそうになった。
まさかこんなことを彼から言われる日がくるとは、僕達の小学生のときよりも進んでいるということなのかな?
「は、はあ? はぁ……なに小学生が気を使っているの」
「そうだよ静君、僕達なんて葭葉さん次第でいくらでも集まれるんだから気にしなくていいんだよ」
「美味しいご飯を食べて満足したのもあるんだよ」
「うっ、えっと、葭葉さん?」
これは不味い、このままだと本当に帰ることになりかねない。
どうせならここに一緒に来た三人で最後までいたいのだ、もちろん終わったらすぐに家まで送るから言うことを聞いてほしかった。
言うことを聞いてくれたら違う日に絶対に彼のために動くと約束をしよう、だからどうかと内で願うしかない。
「い、いやいや、ここまできたらあと一時間もないんだから付き合ってよ、静」
「ねむたい……」
「ぐぅ!?」
「お、落ち着いて、でも、静君が帰りたいなら家まで送るしかないね」
「……だね、帰るか……」
この時間に連れ出している時点で強気に出られない。
家まで背負って帰って、挨拶をして別れた。
「待ってっ」
「うん、そんなに慌てなくても待つよ?」
戻れなくてもお喋りに付き合ってくれるということなら助かる。
まあ、無理になったのなら早く帰って焼きそばを両親に渡さないとと考える自分もいるけど、今回もすぐに期待してしまうというやつだった。
「……静のことは残念だけどまだ時間はあるし……いまから戻らない?」
「いいのっ?」
あっ、これは恥ずかしい……。
「う、うわ、なに急にテンションを上げて……」
「いや、できれば三人で最後までいたかったんだけど無理になっちゃったからさ、二人でもいって見られるなら……うん」
こういうときに言葉で刺してくる子ではなくてよかった。
「はは、じゃあいいね」
「はは、うん、よかった」
よし、ならいこう。
とはいえ、変な人からも守れるように、浮かれすぎないように気をつける必要があるのも確かなことだった。




