05
「「おはようございます」」
今日は偶然ではなくて約束をしてこうして集まっていた。
周君と葭葉さんも参加する予定ではあるものの、まだまだ来る気配はない。
「今日も暑いですね、歩いているだけで汗をかいてしまいました」
「そうですね、気をつけないとやられてしまいそうです」
「でも、鹿山さんは全く気にならないという顔をしています」
ぐ、合わせようとするべきではなかったのか? ここは気をつけてくださいねと答えておくべきだったか――などと固まっている間に「待たせたねー」と周君が来てくれた。
「おはよう、今日はよろしくね」
「うん、よろしく」
周君の家でやるのにわざわざ違うところで集まるというよくわからないことをしていた、大して距離がないからいいけど距離があったときのことを考えるとははは……と乾いた笑みが出てくるところだ。
「あ……」
「うん? 平先輩どうしたの?」
僕も気になった、先程と違って不安そうな顔をしているから心配になる。
「う、受け入れておいてあれですけど、いいんですかね?」
「え、うん、大丈夫だよ」
「参加したことについてではなくてですね……その、お家に上がらせてもらうことについてなんですけど」
考えすぎという見方もできるけど異性の家に~となれば気になって当然だ。
ただ、この件については続けたところで延々平行線になることが目に見えているから続ける意味はない、僕としては同じように考える人が近くにいてくれてよかったと片付けられる件だった。
「だから大丈夫だよ、お勉強をするために、なんだから」
「そ、そうですか、それならいいんですけど」
「そもそも平先輩も主も気にしすぎなんだよね、お家に上がらせてもらうぐらいでいちいち引っかかっていたら僕なんか回数が多い分、疲れちゃうよ」
まあまあとここで終わらせて葭葉さんが来てくれるのを待つ、幸い、数分もしない内に来てくれたから勉強をやる前に先輩が弱ってしまうなんてこともなかった。
お喋りをするために集まっているわけではないから午前中は真面目な時間となった、これもまた一つのいい過ごし方と言えた。
でも、お昼になればどうしたってお腹は空いてくるもので、どうするかという話し合いになった。
「周が作ってよ」
「僕は無理だよ、代わりに慈ちゃんが作って?」
「ねえ、過去にあんな結果になったけど、本気で言っているの?」
また気になる話が出てきた、だけど「じゃ、じゃあ平先輩は?」と周君は広げるつもりはないみたいだ。
お腹が空いているからなのか、それとも、広げると酷い目に遭いそうだからなのか、こちらからすれば中途半端な情報の出し方はやめてもらいたいところだけど。
「ある程度の物なら作れますよ、毎日少しずつ練習していますから。ですが……人のお家で作るとなると失敗してしまうかもしれません」
ずっと落ち着かなさそうな感じでやっていたから大袈裟とも思えない……って、別にじっと先輩ばかりを見ていたわけではないけどね……。
「うぅ、じゃあ主っ」
「使っていい物を教えてくれるならいいよ」
「任せて!」
早く帰った日はよく母が炒飯かオムライスを作ってくれたし、僕でもできるからそのどちらかにしたいところだ。
「でも、卵を多く使うことになっちゃうよね」
「気にしなくていいよ、なにか言われたら僕がお金を払っておくから」
「それは怖いよ、じゃあはい」
「受け取れないよ、大丈夫だから作ってよ」
まあ、他の料理にしたって食材を使わせてもらわなければならないのだからそう変わりはないか。
作り始めたらそう時間はかからないからすぐに終わって食べられることになった。
「ふーん、美味しそうじゃん」
「口に合わなかったら僕が食べるから無理をしなくていいからね」
「いや、作ってもらって残すとかしないし……いただきます」
静かすぎて作っていた側としては気まずい時間となった。
それでも味は僕的に美味しかったし、みんなも手を止めたりしなかったからなんとかなった形になる。
「ごちそうまでした、洗い物は私がやるから持ってきて」
「僕がやるよ」
「いいから座っておいて」
こ、怖い……あと、何故周君も黙っているのか。
「ひ、平先輩?」
「鹿山さん」
「は、はい」
「美味しかったですっ」
「あ、ありがとうございます」
よかった、これであとは葭葉さんが機嫌を直してくれればいい夏休みの中の一日となる。
とりあえず困らないようにとみんなの食器を持っていってよろしくと頼んでみた。
「後で話があるから」
「うん」
「それだけ、よし、じゃあやりますかね」
今日は失敗せずにいられるだろうか? 学校がない分、今後にわかりやすく影響が出るから失敗しないようにしたかった。
せっかく友達になれたのだから喧嘩なんかしたくなかった。
「あのさあ」
「う、うん」
さあ、なにを言われるのか。
「……目の前でさらっと作るのやめてくれない?」
「簡単な料理しか作れないから」
いつも母に任せてしまっているし、母がいないときに作るそれはレベルが高い物ではない。
それでも人に食べてもらうということで今日は頑張った、だからそれがいい方に繋がったと思う。
「私、さっき鹿山君が作ってくれたオムライスで失敗したんだけど」
「あ、そうだったんだ? あのさ、もしよければその話をもっと聞かせてくれないかな?」
「嫌だよっ、なんで失敗したことを話さなければならないのっ」
「気になったからだけど、あ、無理なら無理でいいよ」
教えてもらえたら嬉しいという話だ。
「……周にできるってところを見せたくてただ意地を張って作って失敗したってだけだよ」
「教えてくれてありがとう」
「と、とにかく、見せつけるのはやめて」
見せつけてはいないけど僕が作ることで不安定になってしまうということならやめよう。
友達をわざと傷つけて遊ぶような人間ではない、できる限り合わせられているつもりだ。
「じゃあ葭葉さん的には平先輩が作ってくれるのが一番だった?」
「男の子の鹿山君に見せつけられるぐらいならそうだね」
「そっか、じゃあ今度似たようなことがあったら一緒にお願いしよう」
「それも嫌」
「葭葉さんは難しい子だね……」
ぷいと違う方に顔を向けてから「絶対ににやにやされるから嫌」と重ねてきた。
「あとね、杏先輩のことを見すぎ」
「落ち着かなさそうだったからさ」
「はい言い訳、鹿山君の視線のせいかもよ?」
「もしそうなら申し訳ないな」
心配して見ていたのに自分のせいでそうなっていたということならアホとしか言いようがない。
「……はいすぐそれ、なんでそこで違うって言わないの?」
「女性は視線に敏感って話を聞いたことがあるし、一緒の空間にいたわけだから影響力がゼロというわけではないでしょ?」
「……これじゃあ私が意地が悪い人間みたいじゃん……」
「違うよ、確かに難しいところもあるけどそんなことは全くないよ」
「そう言われても安心できないっ」
しゃがんで膝に顔を埋めてしまった、でも、まだ時間はあるから復活してくれるまで待っていることができる。
いきなりだけど先輩と違って髪を短くしているから夏には向いていそうだった。
なんとなく積極的に外にいそうだからそういう点では安心できるかもしれないと、変な目線で彼女を見ていた。
「はぁ……やめやめ、これで終わりね」
「うん」
「でも、想像以上に早い時間で解散になったからどうしようかな」
「お店にでもいく? 距離があるから運動になるよ」
と言いつつ、少し心配になってきたから自分が動きたいだけだった、一人だと途中でやめて帰りかねないから仲間が欲しいのだ。
「お金はあるけどいまは特に欲しい物とかはないし……」
「そういえばここってプール施設とかあるの?」
「馬鹿にしているの? あるに決まっているでしょ」
「それなら今度四人でいこうよ、あっちでいけなかったからそういうのに憧れていたんだよ」
うん、自分から遊びに誘えるなんていいことだ。
受け入れてもらえなくてもその事実だけで満足することができるし、周君なら彼女関連のことでもない限り受け入れてくれそうだからという期待もあった。
「へえ……って、どうせ嘘でしょ」
「いやいや、いまは周君と葭葉さんがいてくれているだけで本当に一緒にいけるような友達がいなかったんだよ」
「ふふ、ぼっちだったんだ」
「似たようなものだね、放課後になったらすぐに帰っていたから」
いま出したように中学校のときは部活があったけど、特に放課後をつぶせるからといって嬉しいとかそういうのはなかった。
運動が苦手というわけではないものの、積極的に動かたいというわけでもないからだ。
また、協力をするとなれば失敗をしたときに他にの子に迷惑をかけてしまうというのもあって楽しくやることは最後までできなかったことになる。
「もう……」
「とにかく大丈夫ならよろしくね」
事実だからぼっちだと言われても気になったりはしない。
「いくなら水着を買わなくちゃいけないんだけど」
「平先輩はどうなのかな?」
「さあ? なんでも知っているわけじゃないし」
「もし参加してくれることになって水着が必要なら二人でいけば解決だね」
どこにあるのかはわからないけどここに詳しいのは彼女達の方だから問題は出てこないだろう。
ついでに遊んでしまえば彼女だって素直に甘えられるはず、先輩だってやっと彼女から甘えてもらえて嬉しい時間となるわけだ。
「は? 言い出したのは鹿山君なんだから一緒にいかなきゃ駄目でしょ」
「ならいつにする? 今日でもいいよ?」
「えっ? いや、私が決められることじゃないし……」
「じゃあ決まったら言ってよ」
「うん」
でも、これならここで解散に、となるのかな? 少し残念だ。
まあ、一緒に課題をやれただけでも満足しておくべきかと片付けて挨拶をして別れようとしてできなかった、どうやらまだ解散にはしないらしい。
「一旦家に帰って静を連れてきていい?」
「付いていくよ」
「そう? じゃあお願い、いま一人だからちょっと心配なんだよ」
周君からどうしてもと頼まれていたからそれでも参加したということか。
これなら余計なことを言わずに彼女の家で勉強会にした方がよかったかもしれない。
後悔先に立たずということでどうしようもないことだから次から気をつけようと決めて歩きだしたのだった。
「これとかどう?」
「は? 滅茶苦茶子ども向けの商品なんか進めて馬鹿にしているの?」
「いやいや、お腹は隠すべきでしょ」
「それなら学校指定の水着でも着ていた方がマシでしょ」
正直、地獄の時間だった。
別行動なんかできるわけがないから隣にいる状態だけど僕がここにいる必要なんかはないはずだ、何故ならこうして自分の考えたことを正直にぶつけることができる最強の周君がいてくれているからだ。
一緒にいくなどと言わなければよかったと後悔している。
「鹿山さん、こっちとこっち、どっちが似合うと思いますか?」
「の、ノーコメントでお願いします」
「む、どちらがいいか答えてください」
「もう出ておきます!」
単体のお店だからお店の前でずっと存在しておくということもできないため、少し離れたところまで移動することになった。
別に着用しているところを見る分には問題ないけど選ぶなんてできるわけがない、買わないとしてもだ。
「はぁ……味方はこの冷たい飲み物だけだ」
あとは青空か、内を染めている複雑なそれなんかを吹き飛ばしてくれるような力がある。
結局、プールではなくて海にいくことになったけどそこにいけてしまえば僕はいつも通りでいられるようになるのだ。
だから早くこの時間が終わってほしかった、終わらせてくれるのなら荷物持ちでもなんでもしよう。
「なに逃げているの」
「よくわかったね?」
「買ったからいこう」
「わかった、あ、それ持とうか?」
「別にいい、荷物持ちのために呼んだわけじゃないし」
ならいいか。
ただ一つ心配なのは周君が最初から飛ばし気味だということだ。
「慈さん、鹿山さんのことをよく見ておいてくださいね」
「大丈夫ですよ、いまからは逃げられません」
「ならいいんですけど」
すっかりやばい奴扱いだ。
でも、あそこで嬉々として選んでいたらどうせ葭葉さんに変態だとか、先輩に対して云々と言われることが目に見えている、自分の身は自分で守らなければならないのだ。
今日助かった点は周君も乗っかって責めてこないというところ、一対一か一対二の場合ならなんとかやれる。
「あぁっ、転んでしまいますぅ!」
「な、なんですかその棒演技は……」
「ふふ、私も私で鹿山さんには逃げられないために動いているんですよ」
「とにかく移動している最中はやめましょう、平先輩が怪我したら嫌です」
それはそうだけどこんなに子どもっぽいところがあるとは思わなかった。
「まあ、慈さんだけに言うんじゃないんですね」
「それは友達なら普通のことですよ」
「油断していたら攻略されてしまいそうです~」
「ははは……」
うん、そんなことには絶対にならない、まず僕が云々ではなくて先輩がそう簡単には変わったりしないということだ。
今日意外でもなんでもなかったことは海も普通に遠いということだった、これこそ油断していたらあっという間になってしまうのでは? と不安になるぐらいには遠い。
馬鹿にしているわけではないものの、よくここで遊びたい子どもは満足できるなぁと考えずにはいられない。
「なんか失礼なことを考えているでしょ」
「い、いやいや」
「この前だってプール施設はあるのか~なんて馬鹿にしていたよね」
「い、いや、本当になんにも知らないから聞いてみただけなんだよ」
「どうだか」
ぐぅ、四人になるとどうしてこうなるのか、二人がいる前では装わなくていいのに。
ハイテンションだった周君もいつの間にか落ち着いて枝を振りながら歩いているだけ、先輩は日傘で自分を守りつつ歩いているだけだ。
やっぱりこう……自分から広げないと駄目なのだろうか? 残念ながら面白い話もできないから勝手に盛り上がってくれるのが一番楽なんだけど……。
「平先――」
「杏です」
「あの、暑いですけど大丈夫ですか?」
住宅街から離れると流石に人とすれ違う可能性が高くなってくる、その人達が「今日は暑いね~」なんて言っていたから気になった。
対策をしていても悪いことが重なれば最悪病院~になどとなりかねない、そうしたら誘った側として駄目だからそうなる前に動くのだ。
「大丈夫ですけど杏ですよ?」
「周君は大丈夫?」
「僕は春夏秋冬、いつでも元気だよ」
「それならよかった」
安心した瞬間に腕をがしぃ! と掴まれて意識を戻すしかなかった。
いま大事なのは名前で呼ぶことなんかよりもみんなを無事に帰すことなのにまさかまだ続けるとは、葭葉さんなんかより先輩は手強い……。
「あの、なんでスルーしたんですか? あのあのあの?」
「鹿山君にうざ絡みしていないで早く歩いてください、暑くてやっていられないですよ」
「はぁ、慈さんはいいですよね」
「なにがですか、暑いのが苦手な杏先輩にとっては長くなるほどやられてしまうんですよ」
話が噛み合っていないけど助けてもらったようなものだからお礼を言っておいた。
ただ、そのせいで余計にぶつぶつと言われることになってしまって疲れた。
「着いたね……」
「そうだね、じゃ、あっちで着替えてくるから」
「うん」
さあ、準備運動でもしておこうか……って、周君はどうしてこんなに静かなのか。
「周君?」
「主ー日焼け止めを塗ってよ」
「え、乙女だったの?」
実は女の子だったなんてことが――なわけがない、なにか事情があるのだ。
「僕だって気にしたくないんだけど真っ赤になるから駄目なんだ、腕とか顔とか足には塗っているから背中にお願い」
「わかった」
ちゃんと塗っておかないと本当に酷いことになりそうだったから端から端までちゃんと塗っておいた。
でも、見られていて「うわあ」と葭葉さんから、「私にも塗ってくださいっ」と未だにふざけている先輩から言われてしまった。
「男の子が好きならそれでいいけど、モテないから同性に走っているということならやめた方がいいよ」
「酷くなるみたいだったから……」
「ま、それは事実だけどね、周、すぐに忘れて楽しむけど今回はちゃんと意識しているみたいでよかった」
気温が高くなければ、それと遊びにいっていなければ静君を誘おうと思ったのにできなかったのは残念だ。
ここは来年までなんとか仲良くして次の夏に誘おうと思う、絶対にそうしてみせるぞ。
「鹿山さん私にも――ぐひゃ」
「いい加減落ち着いてください、それなら私が塗ってあげますから」
「はい……お願いします……」
静君が葭葉さん周君先輩といられて嬉しい、僕も元気なところを見られて嬉しい及び安心できるというところだ。
新しい目標ができてよかったのだった。




